月から日まで七日で終わる(13)
牛梁の報告を受けたQ支部から仙人が派遣され、ショッピングモール内の調査が開始された。幸善達もそこに交ざるのかと思ったが、幸善達はあくまで冲方の指示の下に動かなければいけない。冲方達と別行動を取っている状況で、他の仕事にすぐ移ることができない上に、七実の正体や人型と接触した経緯の報告もあったので、一度Q支部に戻ることで話はまとまった。冲方達にも連絡し、Q支部で合流することに決まる。
それから、幸善達はQ支部に向かい始めたのだが、七実の雰囲気は一時期よりもマシになったとはいえ、まだ僅かに険悪なものだった。何をそこまで怒っているのか分からないが、いくつか聞きたいことがあるのに聞けないと、幸善が尻込みしている間に、牛梁が七実の顔色を窺いながら質問を始めた。
「一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「さっきの仙技についてです」
その一言に七実が牛梁の顔を少し見つめ、質問を促すように首肯する。何かに対して怒っている様子の七実だったが、その相手は幸善や牛梁ではなかったようで、その途端に雰囲気が明るくなる。その変化を見ていると、何に対して怒っていたのかと幸善は気になるが、担任を務める七実の喜怒哀楽を知っている幸善としては、不用意にそれを聞くことができない。
「あれは治療に用いられるような仙技ですか?」
それらのことを考えながら聞いていたため、その質問を牛梁が口にした時、幸善はすぐに疑問を懐かなかった。七実が「そうだ」と答えている声を聞き、牛梁の質問を頭の中で再生したことで、ようやくその質問の意味を理解し、その質問をしたことに疑問を懐いた。
「治療に用いられる仙技?どういうことですか?」
「最初に仙人であることを証明するために向けられた仙気。あれは俺が治療の補助のために使う仙技に似ていたんだ」
「治療の補助?」
「感覚器官に影響を与えて、仙気を本人の怪我や病気の治療に活用させる仙気だ。だから、もしかしたら、医療系の仙技を使っているのかもしれないって思ったんだ」
「それが当たってたんですか?」
不思議そうにする幸善に七実は平然と頷いた。七実が医療に携わっているという話は一度も聞いたことがない。そう思っていたら、そう思っていると察したのか、七実がかぶりを振った。
「言っておくが、医学的な知識はほとんどない。人体構造はある程度把握しているが、人の治療なんてほとんどできない。精々応急処置くらいだな」
「え?それなのに医療系の仙技を使っているんですか?」
「それが一番合っていたからな。俺の仙気は良くも悪くも薄いんだよ」
「薄い?」
仙気が薄いという表現を初めて聞き、幸善は首を傾げた。色の話をしているのなら、そもそも仙気に色はついていないと思ったが、そういうことでもないらしい。
「身体にまとって肉体を強くしたり、身体の外に放ったり、そういうことでダメージを取れるほど、強く気をまとめられないんだ。序列持ちの中だと、そういう部分は一番か二番くらいに弱い」
「それなのに序列持ち?」
幸善の純粋な疑問に七実が少し怒った表情をした。失言したかと思った時には既に遅く、七実が不気味に歪んだ笑みを浮かべてくる。
「結構言うんだな、頼堂?」
「いえ…失礼しました…」
幸善が身を縮こまらせ、そっと謝罪のための行動に移ろうとした時、七実の話を聞いていた牛梁が考え込みながら呟く。
「つまり、仙気自体が確認しづらいから、対象に気づかれずに影響を与えられると?それはもしかして、麻酔とかもできるってことですか?」
「ああ、そういう補助は専門内だ。ちなみに俺が戦闘に用いているのも、その麻酔とかの応用だな」
「応用?」
「仙気で神経系に影響を与えて、対象の認識を阻害する。それが序列持ちとして最も評価されている俺の仙技だ」
その説明を聞き、幸善は先ほどの戦いの中で起きた出来事に納得した。双子が攻撃を外していたのは、幸善達の位置を正しく認識できていなかったからであり、炎が直撃したと思っていた七実が無事だったのは、七実が自分のいる場所を幸善達に誤認させたからのようだ。
「もしかして、あの匂いの影響を受けなかったのって?」
「ああ、あれもそうだ。あの匂い自体が俺の仙技と性質は似ていたからな。打ち消すのは簡単だった」
相性もあるだろうが、人型を相手にするための存在である序列持ちの一人に、七実が選ばれている理由を幸善は改めて理解した。確かにこの力はうまく活用できれば、大きな武器となる。
意外と凄い人物が身近にいたものだと幸善が思った直後、牛梁がいつもの強面を三倍くらいに強めた表情で、七実の前に立った。その迫力に流石の七実もぎょっとした顔で立ち止まっている。
「あの!」
「ど、どうした…?」
「その仙技を俺にも教えてもらえませんか!」
牛梁の唐突のお願いに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした七実が、幸善をゆっくりと見てきた。その視線にどう答えたらいいのか分からなかった幸善がかぶりを振ると、七実は再び牛梁に視線を戻し、その真剣な表情にぎょっとしている。
「覚えたいわけ…?」
七実の質問に牛梁が力強く頷くと、少し困った顔をしてから、七実は小さく頷いた。
「教えるだけ教えるけど、使えるかどうかは分からないからな?」
忠告するように言った七実に、牛梁は嬉しそうに頷いてから、「よろしくお願いします」と力強く頭を下げた。その様子に困った顔をする七実を見ながら、幸善は公務員であるはずの七実が仙人として活動することは問題ないのだろうかと、全く違うことを考えていた。
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