月から日まで七日で終わる(12)

 氷により足を固定された幸善と牛梁の目の前で、赤髪の女の子の放った炎は七実に迫っていた。その状態に陥っても、七実は小さく笑いながら幸善を見ており、その光景は異様としか言いようがなかった。


 自分はサポート向きと言っていたが、炎に対して何かしらの対抗手段を持っているのかと幸善が考えた直後、七実に迫っていた炎がぶつかる。「え?」と小さく漏らした幸善の前で、七実の姿が炎の中に消えた。


「邪魔者が消えたね」

「これで解決。後は耳持ちを捕まえて、もう一人を殺すだけ」


 女の子の声が聞こえ、幸善と牛梁は危機的状況を理解した。咄嗟に牛梁が自らの足を拘束した氷を破壊しようとする。それを嘲笑いながら、男の子が幸善達の足元の氷を増やし、幸善達の動きを完全に封じようとした。


 その直後、双子の背後から声が聞こえた。


「まあ、待てよ」


 双子の首を腕で締め上げるように、七実が双子を拘束した。その登場に幸善達だけでなく、双子も驚いた顔を浮かべる。


「ど…うして…!?」

「そ…こに…!?」

「敵を騙すには味方からだ。お前達は全員、俺の位置を誤認していた」


 七実の言葉は謎しかなく、双子でなくとも頭の上にハテナを浮かべていた。誤認と急に言われても、何をどう誤認していたのか理解できない上に、誤認した理由が分からない。


「さて、これで終わりだな」


 幸善達の前で七実が双子の意識を奪おうと、締め上げる力を強めた瞬間、幸善と牛梁の首元に似た感触を覚えた。


「まあ、そっちも待てよ」


 その声を幸善は以前にも聞いたことがあった。同時に匂ってくる独特な香りに、幸善は自分の背後に立っている人物の正体を理解する。


「二人を離せ。こっちの首をへし折るぞ」


 突如、その場所に現れ、幸善と牛梁の首を腕で固定した男は間違いなく、薫だった。


「本気か?人型は頼堂を殺せないって聞いていたが?」

「その二人は数少ないだ。まだ失うわけにはいかない」

「成功体?」


 不思議そうに呟いた七実の目の前で、薫が腕の力を強めてきた。首に痛みを覚えた幸善と牛梁が、一緒に苦しそうな声を漏らす。


 その声を確認した七実が少し迷った後、薫に向かって腕の中の双子を投げつけた。咄嗟に幸善達から腕を離し、薫が飛んできた二人を受け止めた。その勢いに押されて、薫は幸善達から離れた位置まで後退する。


 それを確認した直後、七実が幸善達の隣まで戻ってきて、足元の氷を砕いた。男の子が氷を増したことで、一撃では崩れなかったが、七実の数発の拳で二人は解放される。


 薫によって受け止められた双子は苦しそうに咳をしていた。その双子に目を向けることなく、薫が警戒した目を七実に向けている。


「許さない…!」

「絶対に殺す…!」


 首を絞められた怒りからか、双子が鋭く七実を睨みつけた。それぞれ手に氷や炎を出しながら、今にも飛びかかりかねない姿に、薫が声をかける。


「待て、No.18、No.19!」

「何!」

「邪魔しないで!」

「前にも言っただろう?あいつとの戦闘は消耗するだけで良い結果がない。ここで戦うだけ不利だ」

「そんなこと関係ない!」

「ムカつくから殺す!」

「いいからやめろ!」


 薫が制止しても聞く様子のない二人に、薫は少し苛立った表情をしてから、二人に手を伸ばした。その直後、幸善達にも届くほどの変わった匂いがしたかと思うと、双子は全身の力が抜けたように倒れ込んだ。


 その姿に幸善は匂いの正体に気づき、咄嗟に鼻を押さえようとしたが、七実が小さくかぶりを振る。


「大丈夫だ。俺達には効かない」

「いや、でも、この匂いは妖術で…」


 そう口に出した幸善は実際、それを言えるだけ意識を保ち続け、双子と違って倒れ込むことがなかった。そのことを不思議に思っていると、双子を抱きかかえた薫がこちらを見てくる。


「今日はこちらの負けだ。これで終わりにしてやる」

「何だ?お前は戦わないのか?」


 七実の挑発染みた言葉を薫は鼻で笑った。


「その挑発には乗らない。お前の力は俺達とは相性が悪い。戦うつもりはない」


 薫がそう言った直後、薫の姿が歪み、そのまま空気中に吸い込まれるように消えていった。その様子に幸善達が驚いていると、隣で七実が小さく舌打ちをする。


「何が、相性が悪いだ…今の力を全力で使えば、余裕で殺せるだろうに…」


 その呟きに幸善が不穏さを覚えていると、七実が牛梁に指示を出してくる。


「Q支部に連絡を。人型の発見。それから、失踪した女性がいる可能性が高いから、ショッピングモールの調査を頼んでくれ」


 その指示を受け、牛梁がスマホを取り出す中、七実は少し苛立った表情をしていた。その雰囲気の悪さに、幸善は聞きたいことがいくつかあったが、この時は聞けなかった。

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