月から日まで七日で終わる(10)
幸善達の接近に双子が気づいている様子はなかった。二メートルほどの近さまで近づき、七実が声をかけると、その声に反応するように双子が立ち止まった。七実の話では双子と接触したことがあるらしい。その時に七実の声を覚えたようだ。
振り返った双子は幸善達の姿に驚いた顔をしていた。ここに幸善達が立っているとは思っていなかった表情だ。見つかるわけがないと高を括っていたのだろうか。双子は驚いた表情のまま、口を開いた。
「どうして、ここに?」
「どうして?」
「お前達が潜んでいた部屋を見てきたからな。物の多さもそうだが、椅子や布団に不自然な温みがあった。あれはさっきまで誰かが使っていた証拠だ」
幸善や牛梁が七実の素性に驚いている間に、七実はしっかりと控え室を調べていたらしい。七実の指摘に双子は驚いた表情をしてから、「ふ~ん」と声を揃えて呟いた。
「そうなんだ。分かるんだ」
「凄いね。見つけたんだね」
感心した様子の双子が子供を褒める親のように、七実に称賛の言葉を送っていた。それはただの挑発にしか見えなかったが、七実は流石にその挑発に乗るほど馬鹿ではなかったそうで、その挑発に適当な礼の言葉を返している。
「それで、二人はQ支部まで来てくれるのか?」
真正面からの七実の提案に、幸善と牛梁は少し驚いた。人型である双子が簡単にQ支部まで同行してくれるとは思えない。双子も同じことを思ったのか、驚いたように顔を見合わせてから、七実の顔を笑いながら見てきた。
「嫌だよ。行くわけないじゃん」
「行く理由がないじゃん」
表情こそ笑っているが、抑揚の小さいロボットが喋っているような話し方で、双子が当たり前のことを言ってきた。その一言に七実が納得したように頷いた直後、双子は更に言葉を続けてきた。
「それより、声をかけるんだね」
「奇襲をかけたら良かったのにね」
「前はNo.14が止めたから良かったけどね」
「今日はそういかないからね」
交互に言葉を言ってくる双子に、七実は不思議そうな顔をしていた。こちらを向いた状態で棒立ちのまま、動き出す気配のない双子に七実は聞き返している。
「もしかして、戦う気か?」
『当たり前』
双子が揃って言い放った瞬間、幸善達の足元を氷が覆ってきた。その攻撃に足を取られたと幸善は一瞬思ったが、その前に幸善達は距離を離すことに成功していた。さっきまで幸善達の立っていた場所に、赤髪の女の子の方が炎を飛ばし、地面をしばらく燃やしている。
その光景に双子は不思議そうに首を傾げていた。その様子を見ながら、七実が幸善達に呟いてくる。
「ここからはお前達を頼るからな」
「は?え?先生、序列持ちなんですよね?」
「ああ。だけど、序列持ちの番号の下の方は、例外であるNo.10を除いて、サポート向きなんだよ。日本にいるNo.2とかNo.4みたいに、ずば抜けた攻撃力はない!」
「そんな自信を持って言われても!」
序列持ちは人型に対抗するための戦力だと聞いていた幸善と牛梁は、自信満々の七実の告白に動揺した。それを見越してのものなのか、七実は二人を見ることなく、言葉を続けてくる。
「ただその代わり、驚くほどに善戦できるから安心しろ」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。あいつらの攻撃はお前達にほとんど当たらない。それは約束してやる」
予知でもできるのかと幸善は言いたかったが、この状況で冗談を言い出すとは思えない。頼ると言ってきた以上、納得できるかどうかは関係なく、自分達が戦わなければいけないと思い、幸善は牛梁と一緒に身構えた。
「サポート向きってことは、サポートはしてくれるんですよね?」
「安心しろ。もうしてる」
七実の言葉は幸善と牛梁には謎でしかなかったが、それを詳しく聞く時間は二人に与えられなかった。青髪の男の子が地面に氷を這わせ、幸善達の足元が一瞬で凍る。そのことに幸善と牛梁が気づいた瞬間には、赤髪の女の子が自分の頭の上に、大玉サイズの火球を作り出していた。
「バイバイ」
「じゃあね」
二人が声を揃えて呟いた直後、火球が幸善達に向かって放たれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます