月から日まで七日で終わる(8)

 双子の目撃情報を浦見よりも先に聞き回っていた謎の男。その男の顔として送られてきた画像が、目の前に立つ七実と一致しており、幸善は混乱した。状況の理解が正確にできず、怪訝げに七実を見つめる幸善に、七実は不思議そうな顔を返してくる。


「頼堂、許可が出た。それから…」


 Q支部との連絡を終えた様子の牛梁が声をかけながら戻ってきて、七実の姿を発見した瞬間に動きを止めた。恐らく、牛梁も送られてきた画像を見たばかりなのだろう。その表情は険しく、ゆっくりとした足取りで幸善に近づいてくる。


「その人は?」


 牛梁が小声で幸善に聞いてきた直後、不思議そうな七実が「どうも」と牛梁に軽く頭を下げた。


「俺のクラスの担任です」


 その一言に牛梁が明確に驚いた顔を向けてくる。それらの様子を眺めていた七実が、ふと幸善と牛梁の手にスマホが握られていることに気づいた。


「あ、もしかして、バレたか?」

「バレた…?」

「ん?違うのか?」


 敵、と思うには落ちついた七実の雰囲気に、幸善と牛梁は判断を迷わされ、困惑していた。その様子に同じだけ七実も困惑しているから、更に状況が分からなくなる。


「どういう状況だ?さっき許可がどうとかって…」


 悩んだ様子で呟きながら、七実が幸善と牛梁の顔をじっと見てきた。それから、唐突に何かに気づいた顔をして、「そうか」と小さく呟いている。


「許可か!そういうことか!許可が出たのか!それなら、早速行こう!」


 さっと幸善と牛梁の背後に回り、七実が背中を押してきた。七実の正体に困惑していたとはいえ、それなりに警戒していた二人が反応するよりも先に、七実が自分達の背後に立ったことに驚きながら、幸善は嬉々とした様子で言ってくる七実の顔を見た。


「行くって、どこに?」

「許可を取ったんだろう?立ち入りできなくなった控え室に入る許可」

「え?それをどうして?」


 幸善達の心を見抜いたように言ってきた七実に、幸善と牛梁は大きく動揺した。その様子に当たっていたことを確信したのか、七実は更に歩く速度を速める。


「東雲が話しているのを聞いたんだ」


 不意に東雲の名前が出てきたことに幸善は驚き、七実が何を話し始めたのかと思った。牛梁が軽く幸善に視線を寄越し、何が始まったのかと言いたそうにしているが、それはこちらも同じ気持ちだと言わんばかりの視線を返す。


「青い髪の男の子の話。少し気になって後をつけたら、愛香と一緒にショッピングモールに来ていた」

「ストーカー?」

「まあ、聞け。問題はここからなんだ」


 犯罪の告白かと思ったが、そういうことでもないらしい。幸善達の背後から、二人の前に七実が移動して、普段はスタッフしか立ち入れない通路を歩いていく。


「そこで青い髪の男の子と赤い髪の女の子の双子と二人が逢った」

「え…?」

「その直後、奇妙な匂いのする男もその場に現れて、二人は急に意識を失った」


 幸善はショッピングモールで浦見と重戸が二人を起こしたという出来事を思い出した。あの出来事の際に二人は人型と接触していたのかと思い、恐ろしくなった直後、それを七実が見ていた違和感に気づく。


「そこは穏便に済ませたんだが、女性達の失踪事件の話も聞き、これはきっと何かあると思って、いろいろと調べ始めたんだ。そうしたら、このショッピングモールの中に怪しい場所があることに気づいた。それが控え室だ」

「調べる?先生が?」

「ああ。ただ入るためには許可がいるんだが、そこのところをどうしようかと悩んでいるところに頼堂達が来てくれた。これはラッキーだった」


 そう言いながら、七実が到着した部屋の扉を開いた。控え室というだけあって、テーブルや椅子の置かれた部屋には、お菓子や弁当の残骸の他、布団なども置かれ、使えなくなったという割に、誰かがしっかりと使っていた跡が残されていた。


「これは…?」

「こんなのもあるな」


 戸惑う幸善と牛梁より先に部屋の中に入った七実が、青い髪のウィッグを幸善達に投げてきた。他にも赤い髪のウィッグや、青や赤のカラーコンタクトまであり、それらは双子の特徴と一致しているが、それらがそこに置かれている理由が分からない。


「何でこんな物が?」

「もしかしたら、あの双子はそれを被っているだけとかかもな。目もコンタクトなのかもしれない」

「いや、そうだとして、どうしてここに…?」

「それはここにいたからだろう。隠れてたんだよ、ここに。


 七実の口から明確に人型という言葉が出たことで、幸善と牛梁の疑問は更に膨れ上がった。幸善はウィッグを手に持ったまま、部屋の中を探っている七実を見て、ちゃんと口に出すことにする。


「先生は何者なんですか?どうして、人型のことまで?」

「俺か?俺は七実春馬。高校で教師をしている」

「そうじゃなくて…」

「ただ、それはだ」


 表の顔。それはつまり、裏の顔があるという返答だ。


「大体、察していると思うが、俺はだ」


 その一言に驚く幸善の前で、七実は更に驚く一言を告げる。


「奇隠の。俺はNo.7だ」


 それは幸善だけでなく、牛梁まで言葉を失う一言だった。

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