兎は明るく喋らない(2)
迎えた放課後、
しかし、その途中、自然と考えてしまうことは
今のままだと昨日と同じことになる。やはり、秋奈の見舞いくらいには行きたい。そう思っていた幸善が、佐崎達と合流するために訪れた部屋には、既に
「あ、冲方さん」
「頼堂君、昨日はごめんね。今日は私も一緒に向かうから」
「ああ、そうなんですね」
幸善が部屋の中を見回し、既に待っていた佐崎と杉咲を見る。佐崎は幸善と同じことを考えていたようで、その表情は少し暗く、目が合った幸善に苦い笑みを向けてくる。
「それから、
「え?牛梁さんも来るんですか?」
頷く冲方に幸善だけでなく、佐崎も驚いたようだった。牛梁
「負傷者はどうなったんですか?」
「ああ、そちらは何とか助かったようだよ。元々、一番危ない状態だったのが、秋奈さんだったみたいなんだけど、その秋奈さんも危険な状態は脱したらしい」
「そ、そうなんですね…」
その一言に妙に安堵し、幸善は大きく息を吐いた。佐崎も胸を撫で下ろした表情をしており、隣の杉咲が少しだけ不機嫌そうに佐崎を見ている。
「ただ秋奈さんは流石と言うしかないね。攻撃自体は急所を外れていたらしいんだけど、それでも傷の深さ的には普通は死に至るはずらしいんだよ。ただ
「それって、秋奈さんじゃなかったら助かってなかったってことですか?」
「まあ、少なくとも私だったら死んでいたね」
笑って語る冲方に対して、幸善は欠片も笑えなかった。改めて実感した死の近さに、恐ろしさすら覚えてくる。幸善自身が死にかけるよりも、遥かに周囲の人間が死にかける方が怖いと改めて思った。
「ただ秋奈さん自身はまだ目覚めてないみたいだから、お見舞いに行っても直接逢うことはできないと思うよ」
「ああ、そうなんですね。いや、そうですよね」
回復した直後に目が覚める程度の傷なら、そもそも死にかけてはいないはずだ。死にかけたということは、それだけ傷が深かった証拠であり、そこからの回復に時間がかかるということも証明している。当たり前のことかと考えたら、すぐに思った。
「それで、これから捜索に向かうけど、その前に昨日の進捗を確認してもいいかな?」
冲方にそう聞かれた途端、幸善と佐崎が表情を強張らせた。秋奈が助かったという一報で、ホッとしたのも束の間、二人は完全に口が固まってしまい、冲方の質問に答えられなくなる。
「どうしたの?」
「昨日は失踪者の部屋を訪れて、軽く中を見ました」
唯一強張っていなかった杉咲が、二人の代わりに説明し始めた声を聞き、幸善と佐崎の表情が一瞬で険しくなった。その変化を気にすることなく、杉咲は言葉を進める。
「以上です」
「え?何か見つかったの?」
「いえ、そこまで調べられてません」
「どういうこと?」
「啓吾…だけでなく、二人共上の空だったので」
そう答えた杉咲が軽く佐崎を睨みつけ、幸善は妙なことに巻き込まれたと思った。その思いに笑いを浮かべる余裕もなく、冲方が幸善と佐崎に目を向けてきてから、苦笑いを浮かべていた。
「まあ、そうか。分かったよ。それなら、今日は一から調べ直そうか」
「お願いします…」
力なく呟いた幸善の言葉に、冲方が再度苦笑いを浮かべ、四人は薫の捜索のためにQ支部を後にすることにした。
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