死神は獣を伴って死に向かう(1)

 頼堂らいどう幸善ゆきよし相亀あいがめ弦次げんじによって重戸えと茉莉まりが確保された同時刻。そこから、数十メートル離れたコンビニ前にて、浦見うらみ十鶴とつるは確認された。コンビニ内に設置された防犯カメラに姿が映っており、幸善と相亀が確認したので、それが浦見であることは間違いない。


 時間帯や視線の方向、その際に見られる浦見のリアクションから、この時、浦見は重戸が幸善と相亀に確保される瞬間を目撃した物と思われる。それが理由か断言はできないながらも、その後、浦見はそのコンビニ前から逃走する姿がカメラに映っていた。


 そこから、浦見の姿はしばらく途切れ、次に発見されたのが、駅近くの監視カメラの映像だ。時刻にして、重戸の確保から数十分後。重戸が幸善達に捕まり、Q支部に到着した頃である。


 そこで浦見は一人の女性から声をかけられていた。この人物は監視カメラの映像を確認していた鬼山きやま泰羅たいらも知っていた。というよりも、Q支部に所属する仙人であれば、今は全員が把握しているはずの人物だ。


 それは有間ありま沙雪さゆき皐月さつき凛子りんこも目撃していた人型ヒトガタと思しき女性だった。


 その人物に声をかけられた浦見は驚きと怯えを表情に見せた。その時に交わされた会話の内容は分からないが、浦見のリアクションを参考にするのなら、その人物が重戸も危惧していた謎の情報提供者なのかもしれない。


 そうしていると、話しかけていた女性を見ている浦見の背後から、一人の人物が近づいてきた。その人物もQ支部の仙人なら、その全員が把握しているはずの人物だ。


 ショッピングモールで目撃された、浦見の話し相手と接触していた人物だ。その人物が浦見の背後から近づき、何か動きを見せた。この際の行動は死角になっていたことから、正確には分からない。ただ両手を浦見の頭部付近で軽く動かし、背後に人が立っていることに気づいた浦見が振り返った瞬間、浦見は意識を失っていた。


 その後、浦見はその二人の人物に監視カメラ外に連れていかれ、そこからの消息は不明だ。


 拉致。誘拐。人型と思しき人物の絡んだ事件。そうなると奇隠が動かないはずもない。この映像は速やかに全仙人に渡され、浦見の捜索が始まった。


 その中で有間隊が浦見と映像の女性の接触現場を目撃したという報告が上がったが、それは映像の時間よりも前ということもあり、重要な証拠になることはなく、浦見の行方は分からないまま、夜を迎えようとしていた。


 浦見がどういった理由で連れていかれたのか分からないが、時間をかけて無事とは思えない。鬼山は何としても情報が必要だと判断し、問題の映像を重戸に見せることに決まった。


「この映像を見ていただけますか?」


 重戸とその取り調べをする傘井かさい菜水なみ、そこに鬼山と飛鳥あすか静夏しずかが加わり、狭い部屋はより狭くなっていた。中央に置かれたテーブルを挟み、鬼山と向かい合った重戸は、鬼山がテーブルの上に置いたタブレットに目を落とす。


 そこに映された映像を重戸は終始驚いた顔で見ていた。特に浦見と女性が接触したシーンや、その後の誘拐シーンは絶望を感じさせるほどに顔を青くしている。


「今の映像から、何か分かることはありませんでしたか?」


 浦見を攫った人物の詳細を知らなくとも、浦見の様子から何かが分かれば、見つけるための手掛かりになるかもしれない。鬼山はそれくらいの気持ちで聞いたのだが、しばらく重戸は答えてくれなかった。映像を見終えるとすぐに俯き、そのまましばらく動かなくなる。


 そのことに多少焦りながら、鬼山が待っていると、重戸が不意に顔を上げ、タブレットに手を伸ばして映像を少し戻した。そこに映った浦見を攫う男を指差し、重戸が鬼山を見てくる。


「この人と私、話しました」

「え?本当ですか?」

「はい。ここを突き止めようと聞き込みをしている時にコンビニの前で話しました」

「どのような話を?」

「写真を見せて、この人を見ていないかとか聞いていたんですけど、聞き込みをした付近の人ではなかったようなので、どこに住んでいるのかとか聞きました」

「相手は教えてくれたのですか?」

「はい。確か…」


 重戸は幸善が住んでいる地域の一画を示す地名を口に出した。そこに男は住んでいるらしい。


「ありがとうございます。至急捜索を始めます」

「あの!先輩は…大丈夫ですよね?」

「我々が必ず助け出します。ですから、安心してください」


 タブレットを手に持ち、鬼山と飛鳥が部屋を離れる。その直後、全仙人に重戸から手に入れた情報が伝えられ、浦見の捜索が本格的に始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る