死神は獣を伴って死に向かう(2)

 浦見捜索のために必要な情報は、Q支部所属の全仙人に速やかに伝えられた。それはもちろん、冲方うぶかた隊も例外ではなく、幸善達はすぐに浦見の捜索を始めようとした。


 ただし、問題は男の居場所だった。判明した地名は広く、男がどのような形で潜伏しているのか分からない。下手な捜索は危険を齎すだけで、良い結果には繋がらない。


 そもそも、この情報が本当かどうかも分からない。重戸が聞いたとしても、本人が本当のことを喋ったとは限らない。


「どうやって調べますか?」


 牛梁うしばりあかねの呟きに冲方れんは考え込んでいた。その間、幸善はスマホを取り出し、その地域について調べてみる。幸善達の住んでいる場所からは近いのだが、通っている学校の関係から、その地区にはあまり行ったことがなかった。中学校ではその辺りから通っている同級生もいたが、小学校は別のはずだ。


 そう思った時に思い出した。


「そういえば、ここに小学校があったと思いますよ」

「小学校?」

「はい。それも今は廃校になって、使われてない校舎があるはずです。何年か前に俺の通ってた学校と統合されて、俺の通ってた学校の名前が変わったはずですから」


 幸善の記憶が確かならば、幸善が中学生の時のことだ。幸善の通っている中学校は三つの小学校を卒業した生徒が通っていたのだが、その内の一つが生徒数の減少と立地的な問題から、幸善の通っていた小学校と統合され、小学校の名前が変わるということがあった。その時はまだ頼堂千明ちあきが小学校に通っている時だったため、急に学校の名前が変わると騒いでいた。


「ああ、そんな話があったな。中学生の時だろう?」


 幸善の話を受けて考え込み始めた冲方ではなく、相亀が相槌のようにそう言ってきた。その一言に幸善は驚きの目を向ける。まさかとは思うのだが、試しに思ったことを聞いてみる。


「まさか、お前も?」

「同じ中学校だったみたいだな。知らなかったけど」


 確かに中学校は多く、同級生の半分くらいしか顔と名前を知らない。もう半分に相亀がいてもおかしくはないのだが、今の今まで知らなかった事実に幸善は面食らった。


「その学校を調べてみようか」


 幸善が衝撃の事実に驚いている間に、冲方の考えがある程度まとまったのか、そう呟いた。


「廃校という潜伏しやすい場所もそうだけど、何より、手がかりもなく捜索に出ると、他の仙人と被って無駄が生まれると思う。だから、私達はそこを調べると決めて、報告した上で動いた方がいいと思う。それにはその学校が最適だと思うから、そこを調べよう」


 幸善達三人が了承すると、すぐに冲方は鬼山に報告を始めた。既に時刻は夜になり、幸善達、特に幸善と相亀の行動時間が限られている。冲方隊として活動できる時間にも制限があるので、行動は速い方がいい。


 ただ気になるのは水月みなづき悠花ゆうか穂村ほむら陽菜ひなだった。二人はどうするのだろうか、と思った幸善が冲方を待っている間に牛梁に聞く。


「水月さんと穂村さんは?」

「どちらも今日はQ支部に泊まってもらう予定だ。このまま家に帰して何があるか分からないからな。穂村さんには退院したばかりの水月のために水月の家に泊まると家に連絡してもらった」

「ああ、そうなんですね」


 人型がQ支部に入れない以上、Q支部が戦闘に巻き込まれることはない。ここほどに安心できる場所はないので、幸善はその言葉にホッとした。


 それから、冲方の報告も済み、水月を除く冲方隊の四人は速やかに小学校の捜索に行くことになった。


「俺達だけですか?」


 その質問に冲方は頷く。


「確証があるわけじゃないからね。他の仙人までは動かせないよ。ただもしも、人型が見つかったのなら、増援を送ってくれるみたいだから、多分大丈夫」

「人型と遭ってしまったらどうしますか?」

「もちろん、死なないように行動するよ。真面に戦えるとは思わないこと」


「あっ…」


 そこで幸善はようやく思い出した。


「あの小学校に行く前に一瞬、家に寄ってもいいですか?」

「どうしたの?」



 その提案はこの状況でもすぐに受け入れられた。

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