死神の毒牙に正義が掛かる(18)
「そういえば、ずっと不思議だったんだけど、どうして葉様は傘井隊なんだ?」
幸善の呟きに佐崎は苦笑した。水月と穂村のいた部屋を出て、Q支部の廊下を歩いている途中だった。少し葉様の様子が気になり、見に行くと言った幸善に佐崎が案内を買って出てくれた。
「涼介は一人で何でもしようとするからね」
それは理由になっていないと言いそうになったが、その前に佐崎が補足するように口を開く。
「合う相手と合わない相手の差が激しいんだよ」
「まあ、そういう性格なのは分かるな」
自分とは合わなかったとは、わざわざ口に出さなかった。それくらいのことは佐崎も分かっているはずだ。
「佐崎達とは合ったのか?」
そう答えたら、佐崎は少し振り返り、寂しそうに首を傾げた。それだけで何となく、葉様が傘井隊に所属して、今も傘井隊の一員である理由が分かった。
「だけど、意外だったな。君が涼介を見に行くって言うなんて」
「水月さんを助けてくれた相手だしな。礼くらい言う」
「まだ眠ってるよ?」
「そうじゃなければ言いに行かない」
起きている葉様に幸善が礼を言いたくないという気持ちも多少はあるが、それ以上に起きている葉様が幸善の礼の言葉を聞くはずがなかった。眠っているから、何の邪魔もなく相手に渡せる。無理矢理押しつけられる。
「あのさ…」
幸善の言葉に笑っていた佐崎が笑みを止め、とても静かな声で唐突に呟いた。雰囲気はどこか悲しげであり、言いづらそうに口は確かに開かない。
「君にはずっと謝らないといけないと思ってたんだ」
「謝る?」
葉様のことをわざわざ佐崎が謝るのかと幸善は思った。確かに葉様の妖怪に対する行動は許せないことだが、それを佐崎が謝ってくる必要はないはずだ。
そう思っていたら、小さく頷いた佐崎が呟いた。
「あの日、君にも刀を向けてしまったと聞いたんだ」
あの日。それがいつのことを指しているのか、正直なところ、幸善は全く分からなかった。本当にそのまま、どの日かと聞き返しそうになったが、そもそも、幸善と佐崎は逢った回数が少ない。
前回はいつ逢ったのかと思い出したら、その日しかないことに気づいた。
「ああ、操られてた時のことか」
「君には迷惑をかけてしまった。ずっと謝罪しなければいけないと思ってたんだ」
「別に謝らなくていいよ。人型が原因のことだし、佐崎が謝ることじゃない」
「いや、あの時、君や涼介は操られていなかった。あれは俺の弱さが招いた失態なんだ」
「そこまで考え込まなくても…まあ、仮に謝るとしたら、有間さんとか有間隊の三人とかの方じゃないか。向こうの方が大変だったと思うけど?俺は別にしばらく左腕使えなかったくらいだし、別にいいって」
確かに怪我をしたことは大きなことかもしれないが、今の幸善は怪我程度で済むのなら良かったことだと思うようになっていた。特に人型と多く遭うようになってから、人の死を感じることが多い。実際に死ななかったとしても、死にかけることは大いにある。水月も今は歩けるほどに回復したが、一時期は死んでもおかしくない状態だった。
その言い方に佐崎は納得していなかったようだが、幸善の態度が変わらないことに気づくと、最終的に佐崎は折れてくれた。
「君がそう言うなら分かったよ。ただ礼は聞いてもらえるかな?」
「礼?」
「そう。あの日、俺と涼介を助けてくれてありがとう」
「え?いや、俺は別に何もしてないけど?」
刀を受け止めたくらいで、戦いの場面での活躍は葉様の方が多かった。そう記憶していたのだが、佐崎は静かにかぶりを振った。
「君が涼介を止めてくれなかったら、きっと俺は涼介に殺されて、涼介は今も仙人としていられたか分からない。それがこうして無事にいるのは、君のお陰なんだ」
葉様の病室に到着したのは、その言葉を聞いてから、すぐのことだった。
今も仙人としていられたか分からない。その言葉の意味が幸善は最初分からなかったが、水月や穂村の代わりに戦ったと聞く葉様の様子を見て、その言葉の意味を理解した。
「水月さん達を助けてくれて、ありがとう」
そうしたら、自然とその言葉が口から飛び出た。葉様は変わらずに眠り続けていた。
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