新たな出逢いが七面倒に絡み合う(8)

 噂を発端とした調査を開始し、既に数時間が経過していた。浦見と重戸はカマキリの化け物を確かなものにする痕跡を探していたのだが、ショッピングモールの中にはそのようなものが一切なく、方針を聞き込みに変更してみたが、誰もカマキリのことを知らないと口に出すだけだった。


 試しに爆発物事件のことを聞いてみると、全員が口裏を合わせたように同じことを説明してくる。それが実際に起きたからなのか、全員が同じ情報を与えられたからなのか、浦見と重戸には判断できなかったが、ただその話の一致の仕方は異様としか言いようがなかった。


 やはり、おかしい。そう思いながらも、一切見つからない証拠に打つ手がなくなり、浦見はショッピングモールの中で頭を抱えていた。


「ここを調べるのは無理なんじゃないですか?」


 重戸の指摘は全うだったが、それで簡単に諦める男を人は浦見十鶴と呼ばない。

 もう少し。もう少しだけ粘りたい。そう言い続け、結果が出るまで続けるのが浦見だ。そのことを重戸も分かっているはずだが、同時に止めても無駄だということも分かっているので、重戸は浦見の気が済むまで泳がせるつもりのようだった。


 そのことに浦見は気づいていないが、気づく必要もない。恐らく、無意味だと思われる聞き込みを再開し、何とかカマキリの化け物の存在に近づこうと再び努力を始める。


 その過程のことだった。浦見と重戸は西館の二階を歩いていた。東館にカマキリは現れたと投稿にはあったが、西館も関係しているかもしれないと、西館での調査を始めたところだったのだが、そこでベンチに座って眠る二人の女子高生を見つけた。


 頭を近づけ、二人揃って眠っている姿はあまりに無防備で、そこが人通りの多いショッピングモールの中だとしても心配になるほどだった。浦見は隣の重戸に目を向け、そのベンチを指差す。


「あれって大丈夫かな?起こした方がいい?」

「やめておいた方がいいですよ。先輩が声をかけたら、また警察のお世話になりますよ」

「けど、あのまま放置も危なくない?」

「まあ、それはそうですけど…」


 少し迷ったような顔をしてから、重戸が納得したように小さく頷く。


「分かりました。私が声をかけますよ。先輩は少し後ろで待っていてください」


 そう言うなり、ベンチに向かって歩き出した重戸について、浦見は二人の女子高生が眠っているベンチに近づいた。女子高生はやはり熟睡しているようで、重戸が近づいても一切起きる気配がない。やはり、危ないと浦見が思った時、重戸がその女子高生の肩を軽く揺する。


「大丈夫?ここで眠ったら危ないよ」


 重戸が何度か声をかけると、何度目かの声に反応したように、二人の女子高生はゆっくりと目を開いた。まだぼんやりとした顔で周囲を見渡し、重戸の姿に気づくと恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。


「あれ!?もしかして、寝てました!?」

「そう。大丈夫?」


 重戸が心配した表情で聞くと、一人は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら大丈夫だと連呼し、もう一人の眼鏡をかけた少女は真っ赤になったまま俯いている。どうして眠っていたのか分からないが、病気というわけではないようだ。そのことに浦見はほっとする。


「すみません…ありがとうございます…」


 とても恥ずかしそうに一人の少女が礼を言うと、もう一人が出した途端に消えるような小さな声で礼を重ねてきた。その礼に重戸が満足したように笑みを浮かべてから、浦見のことを見てくる。


「これで大丈夫ですね」

「ああ、うん。そうだね。良かった」


 浦見もホッとして呟いたところで、少女の一人がスマートフォンを取り出した。どうやら、誰かからの連絡に眠っていて気づいていなかったようだ。慌てて連絡を返している。


 その姿に大丈夫そうだと思った浦見が重戸と一緒にその場を離れようとした。


「あ。いたいた」


 不意にその声が聞こえてきたのは、その時だった。どうやら、少女に連絡した相手のようなのだが、その人物が振り返った浦見の視線の先から歩いてくる。二人の少女と同じ高校生のようで、少女を見つけて手を上げる少年ともう一人、少年が並んで歩いてくる。


 その姿を見た直後、固まった浦見に続き、重戸も表情を強張らせて聞いてきた。


「どういう状況ですか?」

「分からない…」


 浦見が呟いた声に反応したわけではないと思うが、そこで二人の少年と浦見の目が合った。


「ああ!?いた!?」


 一人の少年が叫び、浦見は反射的に土下座をしていた。


 。浦見はその少年のことをそう呼んでいた。

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