新たな出逢いが七面倒に絡み合う(7)
最初は感覚だった。鞄の中で震えた感覚があり、気のせいかもしれないとは思ったが、不意に立ち止まった。そのあまりの突然さに、隣を歩いていた愛香が驚き、不意に立ち止まった東雲を見てくる。
「どうしたの…?」
「ちょっとスマホが震えた気がして…」
そう答えながら、少し乱雑に物が詰め込まれた鞄の奥に手を突っ込む。スマートフォンが今より少しでも柔らかい素材でできていたら、絶対に曲がっていただろうと想像がつくほどに、教科書が重なった底からスマートフォンを掘り起こす。幸い、スマートフォンはまだ硬い素材なので、この程度では曲がらない。
震えたように感じただけだったが、その感覚は正しかったようで、取り出したスマートフォンには幸善の名前が映っていた。
「あ、幸善君だ」
そう呟きながら、幸善から届いた連絡を確認すると、今何をしているのか確認しようとしてきている。そこで東雲は周囲に目を向け、たった今、到着したばかりの建物を見回した。
そこはショッピングモールだった。昨日も訪れたショッピングモールで、本来は今日に来る予定のなかった場所だ。
昨日の一件で見失った男の子のことが気になり、本当は愛香と一緒に警察署に向かう予定だったのだが、その過程でショッピングモールの事件の報じられ方や、ショッピングモールが早速今日から営業を再開していることを知り、そこに不自然さを覚えた結果、ショッピングモールの様子を見に行こうという話になり、東雲と愛香はショッピングモールを訪れていた。
そのことを幸善に伝えるかどうか少し迷い、最終的に愛香と一緒にショッピングモールに来ていることだけを伝え、東雲は再びスマートフォンを鞄の奥の教科書の下に滑り込ませる。
「じゃあ、ちょっと見て回る?」
そう提案しながら、東雲は昨日に訪れた西館二階の迷子センターのことを思い出した。あそこなら、あの後に男の子が再び迷子になっていたかどうかとか、そういうことが聞けるかもしれない。
何より、昨日はあそこからショッピングモールに戻ることができず、東雲と愛香は男の子と一緒に突然いなくなった形になるので、そのお詫びも言いに行きたい。
「最後に迷子センターも寄っていこうか」
頷く愛香を見ながら、自然と東雲はそう言っていた。愛香も同じ気持ちだったのか、その提案にも頷いてくれる。
それから、しばらく二人はショッピングモールの中を歩き回ってみたが、店内は昨日の騒ぎからは考えられないほどにいつも通りだった。開いていない店の一軒くらいあるのかと思ったが、そういうことも全くなく、二人だけしか騒ぎを覚えていないように錯覚するくらいだ。
その様子は回っているだけで少しずつ気持ち悪さを覚えるほどだった。全体的に不気味さがあり、もしかしたら、何か良くないことが知らないところで起きているのではないかと考えてしまう。
「何か、ちょっと怖いね…」
同じことを思ったのか、小声で愛香が東雲の思っていたことを口に出した直後だった。ショッピングモールの中を歩く一際明るい二色に気がついた。
一つは綺麗な青色で、もう一つは青と同じくらいにはっきりとした赤色だ。その二つが東雲達の腰くらいの高さに並び、揃って進んでいる。
「あ」
そう思わず声が出たのも仕方がなかった。
それは逢えないと思っていたが、気になっていた昨日の男の子で間違いがなかったからだ。もう片方の赤い髪の子は知らないが、後ろ姿からそう分かるほどに、その特徴的な髪色はそのままだった。
「愛香さん」
東雲が名前を呼んだだけで愛香は頷き、二人は揃って歩き出していた。少し前を歩く青い髪の背中に追いつき、その背中に声をかけようとする。
そこでその子の名前が分からないことに気づいた。男の子は自分の名前を教えてくれなかった。口を開いたまま東雲は少し迷い、何となく「ねえ、君」と声に出した。
その話し方では誰に話しかけているか分からない。これでは立ち止まってくれないと東雲は思い、言い直そうとした瞬間、男の子とその隣にいた子が立ち止まり、同時にこちらを振り向いた。
そこで東雲は驚いた。愛香も同じくらいに驚いたようで、少し目を見開いている。
男の子の隣にいた赤い髪の子は男の子と同じ顔をしていた。ただ髪と瞳の色が赤で、それ以外は男の子と同じだ。双子なのだろうかと思った瞬間、男の子が隣の子に目を向ける。
「言ってた人だよ、ねえね」
「ああ、そうなのね、にいに」
二人がそう会話をする声を聞き、赤い髪の子が女の子であることに東雲は気づいた。やっぱり、双子なのだろうかと考えながら見つめていると、その二人の会話を聞いた愛香が小声で言ってくる。
「今、ねえねって呼んだよね?」
「ああ、そういえば、探してた子ってこの子なのかな?」
「でも…」
愛香が何かを言おうとした時にようやく東雲も気づく。
「あれ?でも、その子、にいにって…」
不思議に思った東雲が二人に声をかけようとする。
「ねえ、君達…」
そこで東雲の言葉が止まった。そのことを不思議に思った愛香も声を出そうと口を開き、そこで動きを止めた。
この時、二人は猛烈な眠気に襲われていた。何か分からないが、前後左右の感覚も分からなくなるほどの眠さに、立っていることもできなくなる。気づいた時には、東雲の頬に床の冷たさが張りついていた。
「何これ…?」
そう呟きながら、意識を失っていく直前、東雲は不思議な匂いがすることに気がついた。
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