新たな出逢いが七面倒に絡み合う(6)
放課後のことだった。荷物をまとめた幸善が教室を出ようとしたところで、教室を愛香が訪ねてきた。一瞬、我妻に用があるのかと思ったが、この時点で既に我妻は部活に行っており、教室の中に我妻の姿はなかった。
そのことを幸善が伝えるよりも先に、東雲が愛香に気づいて声をかけている。どうやら、愛香が教室に用があって来たのではなく、東雲が愛香を呼んだようだ。
「部活は大丈夫なの?」
「今日は他の子がいるから大丈夫だって」
そう話しながら、二人は何かを相談し始めている。その姿を見ながら、幸善は相亀に確認するべきことが他にもあったことを思い出した。自分の置かれた立場や頭の中で繋がった情報に興奮し、すっかり聞くことを忘れていた。
次は忘れる前に聞かないといけない。そう思った幸善は相亀と合流するや否やそのことを訊ねた。
「ショッピングモールでカマキリ?ああ、昨日あったらしいな」
「それってやっぱり妖怪か?」
「ああ、そのはずだ。世間的には爆発物が見つかったって話になっているはずだが、一部はネットに情報が漏れているみたいだな。奇隠的には大概が信じられないから、わざわざ消す必要がないって思ってるみたいだけどな」
「そんな物か?」
「お前、妖怪のことを知らないで、カマキリの化け物がいましたって言われたら、信じるか?」
「ネットはやっぱり妄言を言う人が多いんだなって思う」
「だろう?」
ショッピングモールには実際にカマキリの化け物が出た。正確には妖怪であり、それも幸善と相亀が遭遇した蜘蛛のように、サイズのおかしい妖怪らしい。それは確かな情報だが、奇隠はそのカマキリを倒した後、そのカマキリが出現したタイミングで、ショッピングモールにいた客のほぼ全ての記憶を操作したようだ。それは関わった警察官も含まれ、カマキリのことを覚えている人物は仙人か、警察の中でも一部事情を把握している人だけらしい。
ここまで来ると分かったことが一つある。幸善は相亀に報告するように伝える。
「そのカマキリのこと、東雲が覚えてたんだけど、不味くない?」
「え?マジで?」
「ていうか、東雲の言い方的に愛香さんも多分知ってる」
「もう一人いるのかよ…」
流石にショッピングモールほどの人数になると、完璧に全ての記憶を操作することは難しいと分かる。奇隠が対応するまでに逃げた客がいる可能性もあり、それらを全てケアすることは難しい。ただ多くの人が知らなければ、世間に漏れた情報は真実と判断されない。それによって奇隠は隠れてきた。
しかし、できれば知らない人は少ない方がいいに決まっている。
東雲と愛香がカマキリのことを覚えているのなら、その記憶を操作する必要があるのではないか。そう思った幸善の考え通り、相亀も同じ結論だった。
「後でQ支部に連れていこう」
「そうだな。その方がいいと思う」
その話をしている間に、幸善と相亀は目的の出版社に辿りついていた。雑誌『テンペスト』を発行する出版社『民明書房』だ。そこで幸善と相亀は幸善を調べているらしい雑誌記者に逢おうとした。
しかし、そこで問題が起きた。
幸善と相亀は雑誌記者の名前を知らなかったのだ。逢うどころか、そもそも、その人物がいるかどうかの確認ができない。情報は顔とドジであることくらいで、その情報で特定できるわけがない。仮にそれで特定されたら、その人が不憫で仕方ない。
幸善と相亀は何度か伝えようと試みたが、結局、うまく相手に伝えることはできなかった。少ししつこいくらいに聞いていたら目立って、相手の方から幸善と相亀を見つけてくれるかもしれないと思ったが、それもなかったらしい。
そもそも、二人から逃げ出した人物が幸善と相亀を見つけて、素直に声をかけてくれるのか分からないが、その微かな希望もなく、二人は出版社を後にすることにした。
「仕方ない。一度、こっちは諦めて、東雲の方に行くか」
幸善がそう言いながら、東雲に連絡する。今は何をしているのかを聞き、その内容次第では今からQ支部に連れていこうと思った。
ただ愛香の方は連絡先も知らないので、そちらも覚えているなら面倒だと思いつつ、東雲からうまく探れないだろうかと幸善は考える。
そこで東雲からの返信があった。
「ん?」
「どうした?」
「いや、何かこっちはうまく行くんだなって思って」
そう言いながら、幸善がスマートフォンの画面を見せると、相亀が納得した声を出した。
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