魔術師も電気羊には触れない(7)
ピンクとフェンスが回復するまで、ドッグとフェザーは思案した結果、カバディのような足運びで羊の行く先を封じていた。この過程で判明したことだが、羊の発電能力は触れていると危険だが、触れていないと大したダメージはないらしい。倒れていたピンクとフェンスも回復し、起き上がることができている。
問題はこのカバディからいかに脱却するのかということだった。残念なことにドッグとフェザーでは羊を連れていく手段が全く思いつかなかった。逃げられないようにカバることが精一杯で、羊をC支部に連れていくだけの能力はない。
「これから、どうするんですか?」
電気の衝撃から無事に生還したピンクが訊ねる。フェザーはドッグと一緒にカバりながら、羊の電気を食らわないように意識を集中させているようだ。ピンクの質問を受け、少しは考えているようだが、答えが出るほどに頭は働いていないように見える。
「変わりましょうか?」
その姿にフェンスがそう聞いていた。フェザーの代わりにピンクとフェンスがカバれば、フェザーが何か思いつくかもしれない。
そう思ったところで、フェザーに連絡が入った。
「あ、ごめん。変わってくれる?」
ピンクとフェンスがフェザーに変わって、カバり始める。同級生三人が揃ったことで、その連携は保たれ、羊が抜け出す隙を与えることなく、三人はカバっていた。
その間にフェザーはC支部からの連絡を受けていた。それは少し前にC支部でハートが考えたことであり、その方法を聞いたフェザーが檻の到着次第、そちらに羊を誘導するように言われる。
「誘導する餌…?」
しかし、問題はそこだった。羊を誘導できる餌があったら、既にドッグとフェザーが使っている。それを使えば、間抜けにカバる必要もなく、羊を留めていられたはずだ。それができないから、さっきからカバり続けているのだが、カバることで誘導ができるとは思えない。
何か他に手段がないかと考えてみるが、その場にある物は除草した植物の妖怪とシックルくらいで、それらを羊が食べてくれるとは思えない。羊の妖怪が植物の妖怪を食べてくれるなら、最初からそうしていたし、仮に食べたとしても、羊の妖怪に何らかの作用が現れないとは言い切れないことから、食べさせるわけにはいかない。
要するに八方塞がりだ。
「どこからの連絡だったんですか?」
必死にカバりながら、ドッグが確認するように聞いてきた。フェザーはC支部から連絡があったこと、その内容を三人に説明する。
「その檻まで誘導し、仙気による幕を作れば大丈夫ということですね?」
「そうなんだけど、問題はそこまで羊を何で誘導するかだね」
「仙気が電気を防ぐなら、電気をまとえば、そこまで連れていけたりしませんかね?」
思いつきを口に出しながら、ドッグがピンクとフェンスに目を向ける。この中で羊の電気を体感したのは二人だけだ。その二人から感想を求めようということなのだろうが、そもそも、二人はその部分の記憶をはっきりと持っていない。
「ブルーが試してみたら?」
「いや、ちょっと…そういう役目はミラーだから」
「いや、今回はブルーの番だと思うぞ」
掌を返したフェンスによって、二対一の構図を作られたドッグが言葉に詰まった。大丈夫かどうかは分からないので、もちろん、無事に羊を連れていける可能性はあるが、大丈夫ではなかった時のことを考えると、すぐに首肯できる話ではない。
ドッグが反応に困っていると、その様子を傍観しているフェザーに気づいた。さっきと同じで、三人だけで話を決めさせようというスタイルのようだが、この状況になったドッグには別の姿に映った。
「ミーナさん?何か楽しようとしてません?」
「え?何のこと?何を言ってるの?」
「いや、ちょっと立ち位置がおかしいなと思って…」
「確かに。冷静に考えてみると、一番仙気の扱いに長けているのはミーナさんなのだから、ここはミーナさんが行くべきではないですか?」
「確かにそうだな。ミラーの意見に賛成」
三人の反乱を受け、フェザーは苦しそうに顔を歪めながら、反応に困っていた。ここで断ることは威厳に関わるはずだ。三人はそういう場面でフェザーが断らないことを知っていた。
そして、実際にフェザーは断れなかった。
「分かった。分かったから。私が行くよ」
そう言って、フェザーが羊の前に立ち、三人がカバっている間に捕まえようとする。物理攻撃から身を守るためにそうするように仙気を身にまとい、羊が逃げ出さないように一気に抱きついた。
それから、数秒、その状態が続いた。やがて、ゆっくりとフェザーが三人の方を向き、きょとんとした顔のまま呟く。
「大丈夫っぽい…?」
その反応に三人は落胆した溜め息を吐き、フェザーは納得できないように眉を顰めていた。
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