魔術師も電気羊には触れない(6)
大量に発見された植物の妖怪を駆除している中で発見された羊の妖怪。それも妖気の変化もなしに電気を発するとなると、ただごとではないことは一目瞭然であり、必然的にC支部に連絡が言っていた。
「確か、日本で巨大な蜘蛛の妖怪が見つかったと言っていたな」
確認するようにリーン・アイランドが呟いた。C支部の支部長を務める彼女は頭の中で入ってきた情報をまとめようとしている。
「それと似たものか?」
「それは分かりません。こちらで発見した羊の妖怪の概要が分からない上に、日本で見つかった蜘蛛もそれから新たな情報が入ってこないので、現状は判断できませんね」
「となると、やはりサンプルは必要か…数がいるなら、最低でも一体は捕獲したいが…そもそも、殺してしまっていいのか分からないな」
アイランドの呟きに、その近くに立っていた老齢の女性が頷いた。ライノ・エナジーという名の彼女はアイランドの補佐を務めている仙人だ。アイランドが仙人として奇隠で働き始めた頃からの付き合いで、今ではアイランドが何も言わなくてもその考えを悟ってくれるほどの関係になっている。
「既に羊の捕獲用の檻は手配していますが、電気が妖術ではないとなると…」
「確保は少し難しいか…」
奇隠が所有している妖怪用の道具の数々は全て妖気を封じるために作られている。動物に対して使われる首輪型や檻型、柵型に牛用の鼻輪型、後は人型拘束用の手錠型など、その形状は多数あるが、そのどれもが妖術や妖気による様々な強化を行えなくするものだ。
しかし、今回の羊の場合は妖気を使用していない。手段は分からないが、妖気に全くの変化なく、自由に電気を出している以上、それらの道具は意味を成さない。
電気を放つ動物の捕獲道具。それが他に現実で使われていたら良かったのだが、電気を放つ羊くらいの大きさの動物は発見されていない。今回が初めてのケースであり、それに見合った檻や首輪などはなかった。
ピンク以外の仙人からの報告もあり、抱きつく等の拘束する行動を取ると電気を放つが、それ以外には攻撃性がなく、基本的には無害であると分かった。
しかし、そうだとしても、妖気を垂れ流す妖怪を無条件に外に、それも群れを作れるほどの量を放つことはできない。
それに妖気による影響がどこかに出なくても、電気を放つという点の影響は出る可能性が高い。他の動物が羊に接触し、それで生態系が変わったら笑いごとにもならない上、街まで出ると人との接触事故が起きる可能性が非常に高くなる。それは奇隠として、食い止めないといけない事態だ。
そう思ったのだが、方法も思いつかないまま、アイランドとエナジーは頭を悩ませていた。
「何してるの?」
そこに顔を現した人物がサイス・ハートだった。現在、お客様としてC支部に滞在している仙人だ。アイランドとエナジーのいる部屋に入ってくるなり、悩みで顔を歪ませる二人を見て呟いてきた。
「すみませんが、ノックくらいはしてもらえますか?」
「一応したんだけどね。反応がなかったから、いいかなと思って」
「それは…失礼しました」
「どうしたの?何かあったみたいだね。支部全体が騒がしいから、すぐに分かったよ」
ハートがアイランドとエナジーの前までやってきて、遠慮もなく、アイランドの前に置かれていた椅子に座った。エナジーがアイランドの前で立って考えている中、二人よりも年下のハートはその行動を躊躇うことがなかった。そのことにアイランドは忠告こそしなかったが、驚いていた。
ただし、それは座ったことよりも、ハートが顔を出したことの方が理由としては強かった。
「それでどうしたの?知恵を授けようか?」
ハートの言葉にアイランドとエナジーは少し迷ってから、アイランドがハートに現在の状況を伝える。
「ああ、そんなことか」
「そんなことですか?」
「そんなことだよ。知らないのかい?有名なゲームで羊を連れていく方法。小麦を用意するんだよ」
「ゲーム?いや、これは現実に起きた話ですので…」
「ゲームも現実も同じだよ。要するに餌があればいいんだよ。羊の注目を集める餌が、そうしたら、後は適当な檻に入れたらいい。それで運べるよ」
「ただし、道中に羊が電気を放つ可能性があります」
「それは問題ないよ。羊の電気で誰も死んでいない。痺れることはあっても、仙人の誰も命を落としていないんだ。それも全身で抱きついているのに。動けないくらいの電気なら、普通に死んでいてもおかしくないだろう?もしくは後遺症が出てもおかしくない。それがないのは仙人の身体が特殊だから」
「特殊?」
「仙気だよ。誰でも持ってる仙気だけど、仙人の場合は量や身体への馴染み方が全く違う。その仙気のお陰で普通の人よりも怪我の治りが早いように、電気に対する耐性があるんだと思うよ。もしくは仙気自体が不導体の可能性もあるけどね。どちらにしても、仙気を幕のようにして檻に被せれば電気問題は解決するはずだよ」
ハートの提案を受け、少し考えてから、アイランドはエナジーにその情報を現場にいる仙人に伝えるように頼んでいた。その命令を受けたエナジーが部屋を出ていく。
その姿を見送ってから、思い出したようにハートが言ってきた。
「ああ、そうだ。支部長に一つ言いに来たんだよ。報告とも言えるんだけど」
「何でしょうか?」
「ちょっと僕、出てくるね」
「はい?」
「じゃっ」
アイランドが確認するよりも先にハートは部屋を出ていってしまう。その姿を見送りながら、少し考えたアイランドが慌ててエナジーに連絡していた。
「お客様が外出してしまった。行き先を把握しておいてくれ」
その命令を受けたエナジーも慌てた声を出していた。
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