魔術師も電気羊には触れない(5)
突如、姿を現した羊にピンク達は驚いた。フェザーを含めた四人で顔を見合わせ、きょとんとしている。
この時のピンク達は知らなかったが、ピンク達が羊を発見した同時刻、他の仙人達も茂みの中から出てくる羊と遭遇していた。それらは別々の場所ながらも、全てに共通した特徴が二つあった。
一つは妖怪であることだ。それはピンク達もすぐに分かった。茂みから出てきた羊に妖気を感じ、そのことがピンク達四人を更に動揺させる。
「この場合って、どうするんですか?」
「まあ、捕まえて奇隠に連れていくのが妥当だけど、誰かの家畜だったりするのかな?その場合は先に話さないとややこしいことになるね」
「この羊、妖怪なんで連れていきますねって?」
「いや、そんな説明の仕方をして、誰が分かりましたってなるのよ?もうちょっとうまい言い訳を考えるわよ。支部長が」
「完全に人任せじゃないですか…」
取り敢えず、羊が逃げると話が終わってしまうので、逃げないように捕まえておかないと。そう思ったピンク達が顔を見合わせ、誰が羊を捕まえるのかという無言の牽制に入った。もちろん、この雑務にフェザーは参戦していない。羊を捕まえる役目はピンク達三人の中の誰かだ。
ピンク達三人はしばらく無言のまま、どうするかと牽制していたが、そのままでは話が進まない。この間にも羊は茂みの中に引き返し、どこかに行ってしまおうとしている。茂みは広く、そこに入った羊を探すことは難しい。
「よし、任せたぞ、ミラー」
「こういうのはミラーが得意だよね」
羊が逃げ出しかけた瞬間、話し合っていたようにフェンスとドッグが声を揃えて言ってきた。一度も妖怪を捕まえるのが得意と言ったことはないが、ここでピンクが否定しても、羊を逃がしてしまうだけだ。
仕方なく、ピンクは羊を捕まえる役になり、羊に掴みかかった。モフモフとした毛を掴み、歩き出せないように抱きつく形で捕まえようとする。
その直後、羊が少し発光した。何だと思った瞬間、ピンクの全身を電気が貫く。
「痛っ!?」
静電気よりも強い電気を全身に感じ、ピンクは目を白黒させながら倒れ込んだ。その様子にフェンスやドッグだけでなく、フェザーまで驚いている。心配した様子でピンクに触ってくるが、何が起きたのか三人は分かっていないようで、どうしたのか聞いてくる。
妖怪の共通した特徴。二つ目がこの電気だった。
「で…電気が…」
「電気?」
「羊の身体から…電気が…」
「電気って、妖術?いや、でも…」
「妖気の変化とかなかったぞ?」
「え…?」
妖気の変化はなかった。つまり、妖術は使われていなかった。そのはずなのに、電気を感じたというピンクに、三人は戸惑っている様子だった。ピンクの反応を見ていたら、流石に嘘だとは思わないだろうが、常識的に考えてあり得ない現象に、どう反応したらいいのか困っているようだ。
「オータム。ちょっと触ってみてよ」
「え…?」
ドッグに言われたフェンスが困惑した様子で、ドッグと羊を見比べている。その目は助けを求めるようにフェザーに向くが、フェザーは助けてくれるどころか、羊に誘導するように手を向けている。
「いや、そこは危ないから自分が触るとかの展開では?」
「痛いの嫌だし」
「急に子供みたいなことを言い出さないでくださいよ」
「君こそ、急に子供みたいに大人を頼らないでよ」
フェザーの意味不明な反論を受け、言葉を失ってしまったフェンスが、反論することを諦めて、ピンクに続いて羊を触ってみることにした。今にも逃げ出しかねない羊の背中にそっと触れてみる。
しかし、何もない。
「あれ?別に何ともないけど」
「もっと抱きつかないといけないとか?」
「抱きつく?」
フェンスが試しに羊に抱きついてみる。それはちょうど歩き出そうとしていた羊を止める形になる。その途端、羊の毛が微かに発光し始めた。
次の瞬間、フェンスは全身に電気を感じた。
「痛い!?」
ピンクと同じように地面に倒れ込み、その様子を冷静に見ていたフェザーが分析する。
「どうやっているのか分からないけど、この羊、毛から電気を出すみたいね」
「それはもう被害者が出ているので分かってますよ?それより、これ、どうするんですか?」
「どうしようか?取り敢えず、君も触ってみる?」
急にポンコツになったフェザーに呆れて言葉を失いながら、ドッグが羊に目を向けた。身体から電気を発する羊。それが放置されていたら、何かしらの被害が出る。それこそ、目の前で倒れているピンクやフェンスのようになる人が続出するだろう。
この羊は何としてでも捕まえないといけない。
しかし、その方法は考えても、すぐには思いつかなかった。
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