魔術師も電気羊には触れない(4)

 植物の妖怪の掃討と言っても、植物の妖怪が何かをした事例はない。その対処は普通の植物と変わらず、要するに除草だ。ピンク達三人はシックルを手渡され、片っ端から生えた植物を除草するように言われる。


 それくらいだったら、仙人でなくとも問題はないように思えるが、これはあくまで妖怪なので、長時間触れることで妖気の影響を受ける可能性もある。

 これはれっきとした仙人の仕事だ。ピンク達、特にフェンスはそう言い聞かせ、シックルを振り始めた。


 ただ片っ端から生えている植物を刈り始めた直後、フェンスが自分達の仕事に対して、根本的な疑問を持った。


「これって、これで刈る必要ある?普通に機械使ったら良くない?」


 そのフェンスの一言に、全く気づいていなかったピンクが驚愕の表情を見せた。二人と違って、既に気づいた上で、それをしない理由まで分かっていたドッグは二人の様子に苦笑いを浮かべている。


「仙人じゃないと何があるか分からないって理由なら、別に仙人が機械使って刈ったらいいだけじゃないのか?そうしたら、いいじゃん。ほら、仕事終わりだよ」

「そうはいかないのよ」


 フェンスの言葉を聞いていたフェザーが顔を出し、フェンスは聞かれていないと思っていたのか驚いた顔をしていた。フェンスの意見に賛同していたピンクも、そのフェザーの一言に疑問を覚える。


「何でそうはいかないんですか?オータムの言う通りだと思うんですけど?」

「いや、これってさ。妖怪だから許されているけど、普通に環境破壊なわけなのよ。雑草だったらまだしも、ここは私有地とかじゃないからね。無闇に草を刈ることもできないわけ。今回は植物の妖怪を刈ることで許可が出ているから、刈ったものが植物の妖怪じゃないって分かると、問題が発生するかもしれないから、それ以外は刈れないのよ」

「そんな細かいんですか?だって、普通の人は分からないでしょう?」

「普通の人はね。でも、奇隠所属の仙人で、政府側に加担しているというか、政府側の人間で奇隠にも所属している仙人とかいるからさ。そういう人が細かくチェックするのよ」

「そんな人がいるんですね」

「支部がある国には、大体一人はいるよ」

「だから、一つずつ確認して刈らないといけないのか…面倒くさ」

「正直、みんな面倒だと思ってるわよ。だけど、これだけの量になると、生態系に変な影響を与えかねないからさ。新種の生物とか生まれて、それが妖怪でしたみたいになったら、もっと面倒なことになるから」


 大々的に科学者が発表した新種の生物が妖怪と判明し、それを秘密裏に処理する自分達を想像したフェンスが嫌な顔をした。大きな仕事という部分は合っているが、要求される仕事があまりに細か過ぎる。そういう仕事はフェンスが苦手にしているものだ。


 仕方なく、黙々と作業を再開し、二十分が経とうとした頃には、ピンク達が担当した区画の妖怪がほぼ掃討できていた。普通の植物との境が少しずつ見えてきて、ホッとしたフェンスがしばらく閉じていた口を開く。


「報奨は何に使う?」


 未だ作業が残っているという最中に出たフェンスの一言に、ピンクとドッグはフェンスを一度見てから、無視するように作業を再開した。


「え?何で反応してくれないの?泣いちゃうよ?」

「まだ仕事が終わってないから、そういう話は余所でやってくれないかな?」

「空気読めてないの分かる?今は私語とかいらないの」

「何でそんなに辛辣なの?イライラしてるの?何が原因?」

「強いて言うなら、オータムかな…」

「強いて言わなくても、オータムだね…」

「泣いていい?」


 連帯責任というのか、私語を聞きつけたフェザーに怒鳴られながら、再び黙ったフェンスも含めた三人が最後の部分を終わらせようとする。ピンクとドッグがその結果、仕事を終わらせても、フェンスは途中でいらない時間を挟んだためか、元々作業効率が悪かったのか、一人だけまだ終わっていないようで、作業を続けていた。


 その様子を合流したフェザーに待つか手伝うか聞かれ、即答で待つと答えた二人が眺めている中で、だんだんとフェンスの動きがおかしいことに気づいた。正確に言うと、フェンスの動きは植物を刈るもので普通なのだが、その範囲が明らかにおかしい。一人だけやけに広過ぎるのだ。


「あれ?何か、オータムだけ広くない?」

「流石にもう終わっているはずだけど?その広さなら、私達だけで引き受けないし」

「ですよね。オータム。やり過ぎじゃない?」

「いや、でも妖気があるから、対象だろう?」


 そう言いながら、フェンスが作業を続けている。流石におかしいと思った三人が近づき、フェンスが刈っている場所に意識を集中させてみるが、確かにそこから妖気を感じる。


 ただし、その妖気は少し違った。


「あれ?何か、ちょっと妖気が弱くないですか?」

「弱いというか、壁一枚挟んだ感じだね」

「ちょっとオータム、手を止めて」


 ドッグに言われて手を止めたフェンスに避けてもらい、フェザーが代表して草を掻き分けてみる。


 その瞬間、その茂みの奥からにゅっと顔が飛び出してきた。

 それはだった。

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