虎の炎に裏切りが香る(18)
虎の妖怪と対面した場所から山の中を進み、何もないことを確認するように見回している冲方と傘井を見ながら、男は小さく笑みを浮かべていた。男がいるのは、冲方と傘井が調査を続ける山から見て、向かいに位置する山の中だ。山中に座り込み、浮かべた笑みは非常に満足げだ。
「虎はあれで良かったの?」
不意に聞こえた声に振り返り、男は驚いた顔を浮かべる。そこに立っていた少年は男がそこにいると思っていなかった人物だった。
「驚いた。お前が来るなんて思ってなかった。良く来られたな。ここまで遠いだろう?」
男がそう言うと、少年は小さく笑みを浮かべ、腕や足を見せてくる。着ている服は上下ともに小さく破けており、その見せてきた部分には小さな傷もできている。
「速く移動すること自体は簡単なんだ。ただこうやって、身体がボロボロになるから嫌なだけで」
「ああ、そうか。まあ、お前はいいじゃないか。何とでも誤魔化せるから」
「まあね」
少年は男の隣まで移動してきて、向かいの山の中を歩く冲方と傘井に目を向ける。
「それで虎はあれで良かったの?」
「あれか…あれはまあ、炎自体はNo.19よりも強かったが、それだけだな。特にここが弱いのが問題だ」
そう言いながら、男は自分の頭を指で叩いていた。
「うまく操れたら、武器の一つとして利用できるかと思ったが、最終的に我を失って俺の命令も聞かずに暴走していたからな。どうやって処理するか悩んでいたくらいだ。仙人が殺してくれて助かった」
最初は虎のことを思い出したのか、忌々しそうに喋っていた男も、最終的に上機嫌に変わっていた。少年はその機嫌の良さの理由が分からなかったが、不思議そうにしていることに気づいたのか、ただ話したかっただけなのか、自らの機嫌の良さに繋がる発見を話してくれる。
「それよりも、今回の最大の収穫は仙人も操れるという事実の発見だ。三級仙人で尚且つ気を失っていたこともあるのかもしれないが、動物やその辺の人間だけじゃなく、仙人も操れるとなると、場合によっては利用できるかもしれない」
「戦わせるの?」
「そっちもいいが、どちらかという献上品だな。No.18とNo.19は良くも悪くも欠陥品だったが、仙人を用いたら、完璧なものができるかもしれない」
「なるほどね。それは面白いかも」
少年が小さく笑みを浮かべると、男も満足そうに笑っていた。それから、少年の姿を眺めていたことで思い出したのか、視線を冲方達のいる山の方に向けている。
「そういえば、そこで耳持ちを見たが、どうなんだ?」
「ああ…まあ、ちょっと場所が場所だから、動きづらいんだよね。耳持ちって部分も、実際に目撃したわけじゃなく、推測部分が強いし」
「それくらいなのか……」
男は少年の顔をじっと眺めていた。その視線に気づいた少年が目を向けるが、男の表情からは考えの一切が読み取れない。
「何?」
「お前、変な情が湧いていないか?」
「耳持ちに?」
「いや、全てに」
その問いに少年は少しだけ戸惑っていた。まさか、男にそんなことを聞かれるとは思っていなかったような顔だ。
「No.0は考えを変えない。考えは変わらない。そのことは理解しているか?」
「もちろん。分かっているし、情なんて湧いてないよ」
「ならいいが」
「僕の役目は全うするよ」
少年の言葉に納得したのか、男はそれ以上の質問をしてこなかった。少年の隣で立ち上がり、少年の呟いた役目という言葉に小さく何度もうなずいている。
「役目か。そうだな。役目だ。俺もそろそろ、本来の役目に戻るとするか」
「ああ、材料の調達?」
「そうそう。それをしないとマムが怒り出すから」
男は凝り固まった身体を解すように背伸びをしていた。その体勢のまま、不意に疑問に思ったのか、少年の顔を見てくる。
「ていうか、お前は何で来た?」
「そうだった。それを忘れるところだった。No.14にプレゼントがあるんだよ」
「プレゼント?」
「そう。ちょうどいいのを最近、見つけたんだ」
そう話す少年の笑みに、男もつい同じように笑みを浮かべていた。
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