虎の炎に裏切りが香る(14)
虎と対峙することになった相亀達五人だったが、想像以上に苦戦を強いられていた。基本的に相亀と冲方が距離を詰め、近距離で戦うところを牛梁が少し後ろから援護する。その牛梁が援護しながら守っているのが美藤と浅河の二人、というように役割が分かれていたのだが、問題は相亀と冲方の二人が直接的ダメージを与えられていないところだった。
まだ冲方は二本の刀を用いているが、相亀は肉体を仙技によって強化して、虎を素手で殴る以外の攻撃手段を持ち合わせていない。そのためには炎が邪魔になり、その炎は刀を使っている冲方すら近づけさせないほどに強力だった。
牛梁による援護によって、二人は距離を詰められないにしても、距離を詰められることもなかったのだが、そのことによって虎を止めるほどのダメージを与えることができずにいた。
このまま、いつまでも虎とじゃれ合っているわけにはいかない。相亀や冲方が直接的に攻撃を当てるには、虎の炎が出ていない瞬間を狙うか、炎が出ないようにするしかない。
そうなった時に白羽の矢が立ったのが美藤と浅河だった。
「え?私達?」
冲方からそのことを伝えられ、美藤は驚き、浅河は面倒臭そうにしている。その間、虎の足止めを言い渡された相亀は一人で虎を相手に必死になっていた。
「ちょっと!?早く説明終わって!?こっち一人だと厳しいから!?」
「大丈夫だ、相亀。万が一の時は俺がいる」
「牛梁さん!!」
「怪我をしたら治療してやるから」
「牛梁さん!?それまで助けてくれないってことですか!?」
相亀が納得していないながらも、そうするしかないため、虎を必死に止めている間に、冲方が美藤と浅河に説明を続けていた。
「炎を気で飛ばすんですか?」
「それしかないと思う。お願いできるかな?」
「まあ、それくらいなら…」
美藤と浅河はそれぞれ表情が違っていたが、冲方の提案を受け入れていた。そのことを確認するなり、冲方は相亀の援護に入る。ギリギリの状態で戦っていた相亀はそのことで何とか一息入れることができ、余裕が生まれていた。
相亀に加えて冲方も距離を詰めたためか、虎が再び炎の勢いを増そうとしていた。その様子を見た冲方が美藤と浅河に合図を送る。その合図で二人が気を一斉に飛ばし始めた。美藤の威力は低いが数の多い気の弾は虎の炎を掻き消していき、浅河の威力の高い一発がそこから飛び出した炎を吹き飛ばしている。
それが数秒続けば、虎の炎は消える。相亀が虎との距離を詰め、その身体に拳を当てることに成功していた。虎が呻き、爪を相亀に振るってくる。それから逃れながら、相亀は拳に感じる虎の感触に笑みを漏らしていた。
「殴れたっ…!?」
相亀が虎と距離を取っている間に、冲方が虎との距離を詰め、その爪や牙を刀で受け止めながら、もう一方の刀で虎の足を斬ろうとしていた。足さえ止めてしまえば、残る問題は炎だけになると思ってのことだったのだろうが、その寸前で虎の炎が復活し、冲方の刀は弾き飛ばされる。
「しまった…!?」
咄嗟のことに体勢を崩した冲方に、虎の体当たりが入った。冲方は崩れた体勢で、それから逃れるように身を逸らしていたため、ダメージは深くなかったが、すぐには動き出せなくなっていた。
その間に虎が自分の炎を掻き消していた美藤と浅河に目を向ける。
「嘘…?こっち見てる…?」
「見てるね…!?」
美藤と浅河が慌てて気を飛ばしていたが、虎はその前に走り出していた。素早い動きに二人の狙いは定まらず、虎との距離はすぐに埋まってしまう。
そして、虎が跳躍のために踏み込んだ瞬間、牛梁が声を出していた。
「頭を下げろ!!」
言われるがまま頭を下げた美藤と浅河の目の前で、虎の身体が爆発した。浅河ほどの威力はないが、牛梁の飛ばした気が命中していた。
そのことに助かったと美藤と浅河が安堵したのも束の間、虎を覆っていた煙の中から虎が飛び出してきた。
「倒せてない!?」
美藤が驚きの声を漏らした直後、浅河が美藤を守るように覆い被さっている。二人は目を瞑り、虎からの攻撃に覚悟していた。
しかし、虎からの攻撃は二人に届くことがなかった。虎の爪が浅河の背中に触れる前に、その間に相亀が割って入っていた。
「間に合った!!」
虎を受け止めた相亀が叫んだ直後、牛梁の飛ばした気によって掻き消されていた炎が復活する。
「
相亀が炎の熱に手を放しかけた直後、牛梁の気が飛んできて、生まれてきた炎を掻き消していく。
その隙に冲方が相亀に捕まり動けなくなっている虎の近くまで移動してきていた。弾き飛ばされずに残っていた一本の刀を両手で握り、小さく呟く。
「ごめんね…」
冲方の刀が虎の首に向かって、勢い良く落とされた。
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