虎の炎に裏切りが香る(2)
タカの一件を消化できないまま、
それ以外でQ支部を訪れることはなかったのだが、迎えた週末はそう言ってもいられないようだった。冲方からの連絡があり、幸善はQ支部に呼び出されたからだ。
何の用かと思いながら、幸善はQ支部を訪れる。目的地はいつも使用している演習場だ。幸善の特訓のために冲方隊があまりに多用するため、既に演習場の一つが貸し与えられている状態だった。その演習場に呼び出されたからには幸善の特訓に関する何かなのだろうかと幸善は考える。
演習場には既に幸善以外の冲方隊の面々が集まっていた。冲方を含めても幸善が最後であり、そうなったら怒り出すのがいつもの
「おい、お前…気が抜けてるんじゃねぇーのか?遅過ぎるだろ?」
「いいだろ。時間には間に合ってるんだから」
「仕事だぞ?普通は早く来るだろうが」
「仕事って…」
そう言ってから、演習場内の雰囲気に幸善は気づいた。演習場にやってきた幸善に軽く挨拶こそしてきたが、それを終えるとすぐに
「頼堂君も、これを読んで。揃ったから、説明を始めるよ」
冲方から受け取った紙に目を落とすと、そこには山の情報が載っていた。北信越地方にある山のようだが、その山の情報よりも気になったのが、その山の情報に添えて書かれていた妖気の情報だ。複数の妖気がその場所で観測されている、とそこには書かれており、その一文を読んだことで幸善は気がついた。
これは仕事の招集だ。
「今回の調査はその山の妖怪調査。書いてある通りに、その山の近辺で複数の妖気が観測されているんだけど、妖怪自体は見つかっていないから、それを探すことが目的だよ」
「これって、何で私達が受けるんですか?かなり遠いですよね?」
「ああ、それなんだけど、この山を調べた理由がね。例の話なんだよ、頼堂君」
「例の話…?」
その言葉の意味が最初は分からなかった幸善だが、思い当たる節はすぐに見つかっていた。
「もしかして、タカの故郷ですか?」
「そう。それを調べていたら、この山に行きついたらしいよ」
「じゃあ、この妖怪って…」
「タカの言っていた虎の可能性はあるね。まだ可能性だけど。まあ、どちらにしても、正体不明の妖怪は調査しておいた方がいいから、調査することになったみたいだよ」
「でも、これってかなり大変じゃないですか?」
不意に相亀が紙から顔を上げて聞いていた。その言葉の同意するように水月と牛梁もうなずいている。
「広いから?」
「まあ、それも問題としてはあるけど、一番の問題は山ってところだな。足場が悪く、視界も悪い。妖怪がいるとして、その妖怪がどこから襲ってくるか分からない。はっきり言って、俺達三級仙人が行っても足手まといになりそうな案件だ」
「俺も同感だ。この話を俺達に持ってきた理由が分からない」
幸善には分からないが、相亀と牛梁の指摘は的を射ていたようで、冲方は少し焦ったような顔をしていた。その表情には流石の幸善も気づく。
「何かあるんですか?」
水月が聞いた途端に冲方は困ったように頭を掻き始める。
「まあ、そうだね。一番の理由はタカの一件が関わっているから、その当事者に任せたいってところかな。あとは二級仙人を揃えるのが難しかったってこともあるらしいけど」
「絶対にそっちが本当の理由じゃないですか」
「難しいってそんなに人数が必要なんですか?」
「規模とか含めて、十人前後は欲しいところだったんだけど、三人しか手空きがいなかったから、その三人に仕事を任せる形になったんだよ」
「ん?俺達は?」
「その三人の内の一人が私だから。君達も、ね?」
幸善達が顔を合わせて何とも言えない顔をしていた。納得はできたが、納得したところで呆れにしか繋がらない。取り敢えず、仕事と言われたらやることに変わりはないが、その理由で呼ばれても、自分達に仕事をこなせるのかは怪しいところがあると思っていた。
「ということは別の仙人と今回は協力する形ですか?」
「そういうことになるね。まあ、ただ今回は規模的捜索よりも安全な捜索をメインにしたいから、全員が一緒に行動することになるんじゃないかな?」
「なら、まあ、多少は安心かもな」
相亀はそう言っていたが、その間も冲方の表情に変化が見えないことを幸善は気にしていた。他に何かあるのではないかと思いながらも、そのことを聞けないままに幸善達は目的の山のある近くに移動することになる。Q支部から日本全国と繋がっていると、こういう場面で便利なようだ。
「ところで、その他の仙人は?」
「既に現地にいるよ」
そう答える冲方に連れられ、幸善達は北信越地方に移動する。目的の山のすぐ近くに出られたようで、そのQ支部を出たすぐの場所に、今回一緒に仕事をこなす予定の仙人達が待っていた。
その仙人達のところに連れていかれた幸善達は冲方から紹介を受ける。
「今回のために揃った二級仙人が彼女達二人。どちらも私と同じで三級仙人を連れていて、その三級仙人の子達も一緒に行動する予定だからね。あっちの彼女が
そう言いながら、冲方が少し離れたところに立っている一人の女性を指差した段階で、幸善は冲方が困った顔をしていた理由を悟っていた。それは冲方の表情に気づいていたか分からないが、気づいていたのなら、水月と相亀も同じなはずだ。
「
そう紹介された女性の近くに
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