鷹は爪痕を残す(11)

 いくら足を気で強化したとはいえ、衝撃の全てを吸収できるわけではない。タカを捕まえた高さから落下したことで、着地の衝撃に襲われた幸善は未来少年コナンのように全身を震わせることになっていた。


 その間にツタに捕らわれていた水月と相亀はツタから解放されていた。どうやら、ツタそのものが消えたようで、ツタによって固定されていただけで街灯に捕まっていなかった相亀は無防備な状態のまま、街灯から落ちている。


いったっ!?」

「だ、大丈夫!?」


 合流するためにやってきた水月が驚いた顔で相亀を見ていた。相亀は咄嗟に仙気で身体を強化し、ちゃんと受け身を取ったようで、相当な高さから落ちてきたが、痛いだけで済んでいる。


 そうして、水月と相亀が幸善に近づいてきた頃には、幸善を襲っていた衝撃も和らぎ、幸善はタカから話を聞こうとしていた。


「さあ、どうして、俺達を煽っていたのか理由を聞こうか」

「煽ってる前提で聞いてるし」


 呆れた様子の相亀の声を無視し、タカを睨みつけていた幸善だったが、すぐにタカの様子が少しおかしいことに気づいていた。特に逃げられないように掴んでいた翼に違和感を覚え、良く確かめてみると、妙な痕があることに気づく。


「これは何か、みたいな…?」


 幸善が不思議そうに翼を見ている間に、タカの嘴から先ほども聞こえた青年の声が聞こえてくる。


「まさか、儂に追いつけるとは」

「いや、一人称」


 タカの口から聞こえてきた儂という一人称に幸善の頭は軽く混乱していた。もしかしたら、勝手にタカと思っていただけでワシだった可能性があるのかとか、いらないことを考えてしまう。


「どの仙人にも不可能だったことから、儂は既に諦めていた」

「いやいや、勝手に話を進めないでくれ。こっちはまだ、若い声で儂っていうタカのところで止まってるから。頭の処理が追いついてないから」

「まさか、ここでついに捕まるとは」

「聞けよ」


 片方の言語は理解できないながらも、確実に話が通じていないと分かる雰囲気に、水月と相亀は顔を見合わせて混乱していた。その様子に幸善も気づき、何とかタカの言いたいことを理解しようと試み始める。


「最初から話してくれ。何が言いたいか分からない」

「儂は探していたのだ。儂の速さに追いつける者を」

「それで俺達を煽っていたのか?」

「そのようなつもりはない。ただ見定めたかっただけなのだ。儂の速さに追いつける者を」

「見定める?どうして?」

「儂は探していたのだ。儂の速さに追いつける者を」

「同じ言葉しか話せないようにプログラミングされてる?」


 あまりに話が通じないタカに幸善の怒りは高まっていたが、タカの姿をした妖怪相手に怒っても仕方がないと、寸前のところで踏みとどまっていた。きっと自分の聞き方が悪いのだと言い聞かせることにして、幸善は努めて冷静に振る舞いながら、別の聞き方をしようとしていた。


「どうして、追いつける者を探していたんだ?」

「それは儂の故郷を守るためだ」

「故郷?守る?」


 ただでさえ鋭いタカの目が、更に鋭くなった気がした。そのあまりに真剣な眼差しに、幸善は固唾を飲む。


「儂はあの突如出現した忌々しいを退治できる者を探していたのだ」

「虎?その虎がお前の故郷を壊そうとしているとか、そういうことか?」


 幸善の問いにタカが動こうとしていた。それがうなずきなのか幸善が確認するよりも先に、幸善の意識を引っ張るように水月が声を出した。


「頼堂君!?」


 そのあまりに焦った声に、幸善は水月を見るために顔を上げた。


 その直後、こちらに猛烈な速度で走ってくる人物がいることに気づいた。その人物の顔や服はあまりに突然のことで見られなかったが、その人物が奇妙な体勢を取っていることはすぐに気づく。その体勢の意味が分かったのは、その人物の手の中に握られた物を見たからだ。


 こちらに走ってくる人物は、完全にを構えていた。


 咄嗟の判断ができず、幸善がどうしようかと動きを止めた瞬間、幸善が握っていたはずの翼が大きく動き、幸善の胸に強い衝撃がぶつかる。


 タカが蹴った。そのことはすぐに分かったが、幸善はその行動の意味を正確に把握できていなかった。

 逃げられる、と幸善がを思った直後、幸善の視界の中に近づいてきていた人物が入ってくる。


 幸善はそこでようやく、その人物がであることに気がついた。


 どうして、ここに?いや、それよりも、どうして刀を?幸善の中で疑問が膨らんだ瞬間、その答えを突きつけるように、少年が構えていた刀を振るう。それは幸善がタカに胸を蹴られた直後のことであり、その刀の軌道上には未だタカがいた。


 そして、幸善の視界の中で、少年の振るった刀がタカに触れる。

 タカのが飛び上がった。

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