鷹は爪痕を残す(9)

 合流した幸善達は一度、ちゃんとした作戦を立てることにし、話し合いを始めていた。まずは水月がピンと指を立て、最初の確認をする。


「タカの妖術はで確定みたいだね?」


 幸善と相亀が水月の立てた指に導かれるように、上を向いていた。そこには、ついさっき幸善がぶつかった街路樹が生えており、その上の方では、さっきまでそこになかったはずのツタが絡まっている。それはちょうど、タカが止まっていた場所だ。


「まあ、流石に三回見たら確定だろ?」

「ああ、何?二人共、遊んでたわけじゃないんだ?」

「いやいや、遊ばないよ?」

「仕事途中にツタで遊ぶ高校生とかエキセントリック過ぎるだろ?」


 水月はともかく、相亀なら十分にあり得るのではないかと幸善は内心思っていた。ツタで遊ぶかどうかは別として、仕事途中に遊ぶことくらいはありそうだ。


「ていうか、ツタが妖術とかあるの?植物とかじゃなく?」

「そこを限定できるかは分からないけど、ツタだけを作り出したり、操ったりする妖術って可能性は十分にあるよ。特定の妖術って、寧ろメジャーな方じゃないかな?」

「あ、そうなの?俺って、まだグラミーの音くらいしか、真面な妖術を見てないんだけど、それくらい幅広い方が少ないんだ?」

「まあ、あれも音っていうよりも、声とも取れるでしょ?そういう風に限定した方が強い効果にしやすいとかあるんだと思うよ」

「そういうことかー」


 幸善が納得している隣で、相亀が街路樹の上の方に絡みついたツタを見上げていた。その目は忌々しいものを見るように歪んでいる。


「あれ、切れるまで、かなり時間かかったんだよな。単純な強度がツタっていうよりもゴムみたいだったぞ?」

「ああ、それ分かる。私も刀を振るくらいだと切れないから、仙気で刃を強化する必要があったくらいだし」

「つーか、そんなに強いツタなのに、何で俺達をすぐに拘束してこないんだろ?わざわざ、要所要所で生やす必要ないだろ?」

「一度に使える限界があるとかかな?」

「ああ、そのことなんだけど、あのタカ、何か俺達のことを煽ってるみたいなんだよね」


 幸善の報告に水月と相亀がきょとんとした顔で見てくる。幸善と違って二人は今のところ、タカに煽られている実感があまりないようだ。


「さっき、俺が疲れて立ち止まってたら、この木の上に止まって、わざわざ俺のことを見てたんだよ。普通に考えると、そのまま飛び去ったらいいだけだろ?あれは絶対に挑発してる」

「いやいや、何でそんなことをする必要があるんだよ?お前の被害妄想だろ?」

「そんなわけないって!!あれは完全に煽ってた!!」


 熱弁する幸善だったが、相亀は完全に信じる気配がなかった。幸善の話を冗談半分で往なしており、途中からは聞いているかも怪しい。


 相亀はダメだ!!話が通じない!!と思った幸善が今度は水月に説明しようと、さっきから一向に会話に入ってこない水月に目を移した瞬間、水月が深く考え込んでいることに気づいた。途端に静かになった幸善がきっかけとなり、相亀も水月の様子に気づいたようで、幸善と相亀は互いに不思議そうな顔をしながら顔を見合わせることになる。


「どうしたの?水月さん?」

「頼堂君が見た時って、タカがこの木に止まってたんだよね?」

「え?あ、うん。そこから、俺のことを見てた」

「それって、ちょうどあの辺りじゃない?」


 水月がツタの絡まった場所を指差したので、幸善はうなずいて答える。それによって水月は何かを確信したようだった。


「何か分かったのか?」

「多分、あのタカはどこにでもツタを生やせるわけじゃないんだと思う。限定的…多分、自分が触れたところとか、そういう条件だと思う」

「そういえば、俺の時もあいつが止まってた場所から生えてきたような」

「私の時も一度触れた壁から生えてきたから、その可能性が高いと思う」

「なら、片っ端から止まっているのは、お前を煽っているんじゃなくて、足場を潰していっているのかもしれないな。もしそうなら、かなり面倒だけど」


 身体能力の強化に慣れている相亀でも、タカのいる場所まで跳ぶためには、それなりの高さが必要だ。例えば、幸善達の傍にあるツタの絡まった街路樹などは正にそれなのだが、それくらいの高さの物を全て潰された場合、幸善達は完全にタカを捕まえられなくなる。


「それって、どうするの?もう無理じゃね?」

「足場を全て潰されてたら無理だな。諦めよう」

「ちょっと待って。ボー…そう簡単に諦めるわけにはいかないよ」


 真剣な表情で制するように手を伸ばした水月に、幸善と相亀は何とも言えない目を向けていた。


(今、完全にボーナスって言いかけたな…)


 二人が同じことを思って、同じように呆れているとは気づかずに、水月は真剣に考え込んでから、幸善と相亀をじっと見てくる。


「ど、どうしたの?」

「ちょっと二人に提案があるんだけど」

「嫌な予感しかしない」


 この後、相亀はこの予感が的中していたことを知ることになる。

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