鷹は爪痕を残す(4)

 幸善と相亀は水月から本格的に仙人の仕事の説明を受けようとしていた。冲方に怒りを向け、自分達の勘違いに散々悶絶した後のことだ。

 水月がスマートフォンに届いた冲方からの仕事の連絡を確認している。


「仕事内容は妖怪の捜索、その捕獲だね」

「どんな妖怪?」

「見た目はタカみたいだよ」

「タカ!?鳥の!?」

「鳥じゃないタカって何だよ?とんねるず?トシの相方?」


 相亀の冷静なツッコミに幸善は顔を歪めていた。そこはテンションが高まって言っただけで、具体的にされると恥ずかしい上に腹が立つ。


「鳥のタカで間違いないよ。以前から奇隠が探してた妖怪みたいだね」

「以前から?」

「そう。けど、捕まえることができなかったみたい。かなり逃げ足…この場合は逃げ羽?が速いみたいだね」


 別に逃げているのが鳥でも逃げ足でいいだろうと思いながらも、そのことを真剣に考えている水月も悪くないと幸善は思っていた。

 その間に相亀は辺りを見回して、驚いた様子で水月を見ている。


「その妖怪を探して、捕まえる…ここで?」

「みたいだね。今回は人が住んでいるところに現れたから、奇隠は一刻も早く捕まえたいみたいだよ。誰かに危害を加えられたら、奇隠の存在意義に関わるからね」

「じゃあ、そのタカを探して、捕まえたらオッケーってことか」

「簡単に言うとそうだね」


 仕事内容を理解した幸善と相亀は揃って準備運動を始めていた。動きの速いタカを捕まえるとなると、相亀に教わった身体能力強化の仙技を使わないといけなくなるかもしれない。これは早速、仙技を試すチャンスだと思い、幸善は密かに張り切る。


「あ、そうだ。今回は私達以外の仙人も動いているらしいよ」

「俺達以外の仙人?誰?」

「さあ?私は知らないけど、いくら早く捕まえたいからって、遠くの仙人が来るとは思えないし、この辺りに住んでいる仙人だと思うよ」

「まあ、誰が見つけて捕まえても一緒なら、その仙人も味方ってことだよな。なら、協力するかもしれないな」

「そうとも限らないよ」


 水月がピンと人差し指を立て、幸善の前で左右に振り始める。その意味が幸善には分からないが、相亀は分かっているようで、「お前は何も知らないな」と言いたげな表情で見てきており、そのことに幸善はイラっとする。


「妖怪を見つけて捕まえた仙人にはボーナスが出るんだよ」

「あ、そういえば、何かそんな説明を受けたような…どれくらい?」

「妖怪によって違うから何とも言えないけど、これくらいは出るんじゃないかな?」


 そう言って水月が胸の前で両手を広げてみせた。それをまっすぐに見つめてから、幸善は水月の顔を見る。


「十円?」

「その一万倍」

「え…マジ…?」

「まあ、予想だけどね。あと私達は冲方隊で仕事を引き受けているから、ボーナスは隊で分けることになるよ」

「どんな感じで?」

「どうだろう?」


 水月が首を傾げながら考えていると、相亀が割って入ってくる。


「冲方さんが九割、残りの一割を今日いない牛梁さんを含めた四人で割る感じだ」

「その場合はその二五〇〇円で冲方さんを殴る権利は買えますか?」

「お釣りも出ますよ」

「二人共、ふざけすぎだよ」


 水月に軽く怒られて、幸善と相亀は笑って誤魔化す。悪ふざけはこのくらいにしておいて、ボーナスが出るとなると考えないといけないのは、他の仙人の存在だ。


「ボーナスの有無は良いとしても、そうなったら、他の仙人が協力せずに邪魔してくる可能性もあるってこと?」

「基本的にはないけど、全くないとは言えない感じだね。中にはそういう仙人もいるって聞くから」

「なら、一応そっちも警戒しないといけないのか。ちょっと面倒だな」

「まあ、そもそも、そのタカが簡単に見つかるとも思えないしな。こんな住宅街のど真ん中でタカとかどこにいるんだよって話だよ」

「確かに」


 若干投げやりな様子で呟く相亀に幸善も同意していた。タカが飛んでいたら、幸善達仙人ではなくても目が行くはずだ。既に一般人の間で騒ぎになっていてもおかしくはない。


「タカってくらいだから、空を飛んでいるとは思うんだけどね」

「空って広過ぎるだろ」

「同感だな」


 幸善と相亀が愚痴を零しながら、空を見上げる。


『あ』


 その瞬間、揃って間抜けな声を漏らし、動きを止めていた。


「どうしたの?」



 幸善と相亀の視線の先で、優雅にタカが飛んでいた。

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