鷹は爪痕を残す(3)

 放課後になって、Q支部に向かうために学校を出た直後、幸善はスマートフォンに届いた通知に気がついた。送ってきた相手は水月であり、Q支部の外で待ち合わせしようと書かれている。

 それを見た瞬間、幸善の動きに思考、更には呼吸までもが止まり、幸善の周囲だけ完全に時間が止まったようだった。


 あれ、見間違いかな、と一応は疑問に思った幸善が改めて読んでみて、再び訪れた衝撃に口元を押さえる。


(これはデートの誘いだ!?)


 幸善はあまりの喜びに口元を押さえたまま、身体をピクピクと震わせていた。


 が、もちろん、これは勘違いだ。冲方から牛梁が来られないために幸善の特訓が休みであることと、仙人としての仕事が冲方隊に入ったことを聞いた水月が、その仕事のために幸善を呼び出しているだけなのだが、冲方は水月だけに伝えて満足した上に、そのことを知らない水月が仕事とわざわざ書かなかったため、このように勘違いが起きていた。


 ちなみにこの勘違いは幸善に限った話ではない。デートではないにしても、同じ内容の連絡が届いた相亀も似たような勘違いをしており、二人はドキドキとしたまま、水月との待ち合わせ場所に向かっていた。


 その結果、待ち合わせ場所で水月よりも先に、二人は顔を合わせることになった。


 それもそのはずだ。何せ、二人は同じ高校から、ほとんど同じ下校のタイミングで、同じ待ち合わせ場所にやってきたのだ。同じタイミングで到着するのも必然だった。


「はあ!?何で、お前がここにいるんだよ!?」

「それはこっちの台詞だ!?何でお前が!?」


 幸善と相亀がお互いの顔に驚き、状況の理解ができないまま、怒りを向けることで互いに牽制する。この時は相手がこの場所にどうして現れたか分からないが、水月と待ち合わせしていることを悟られてはいけないと二人共が考えていた。


 そのため、お互いに怒ったフリを続けながら、この場所にいる尤もらしい理由を考えていた。

 とはいえ、お互いに動揺しているので、真面な理由の一つも思いつくはずがない。


「俺はアレだよ……ちょっと散歩…」

「散歩。へぇ~」

「何だよ?お前は何でここにいるんだよ?」

「俺は…俺も散歩だよ…」

「そうか。お前もか」


 二人は揃って真面な理由の一つも言えないことを気にしていたが、二人共そのことを気にしたことで、相手の理由をちゃんと聞いていなかったので、お互いに疑問に思うことはなかった。

 それよりも次に、どうやって相手をこの場所から遠ざけるかをお互いに考えている。


「つーか、お前は早くQ支部に行けよ。特訓があるだろう?」


 先に理由を見つけた相亀が幸善にぶつけると、幸善は悔しそうに唇を噛み締める。相亀にしては正当な理由過ぎて、幸善は誤魔化そうにも言葉が出てこない。


 しかし、相亀を同じように陥れる言葉は見つかっていた。立ち去らなければいけない方向に話が進んでも、ここで水月と相亀がバッタリと逢わないように仕向けるため、幸善はその言葉を躊躇いなく口に出す。


「それなら、お前がここにいたら、意味ないだろ?昨日に続いて、お前が教えてくれるんじゃねぇーのかよ?」

「は、はあ?そんなの毎日教えなくてもいいだろうが」

「せっかく、仙技を覚え始めたところなのに、ちょっと期間を空けて忘れたら、どうするんだよ?お前はずっと俺に教えるつもりなのか?」

「…チッ」


 幸善の指摘に相亀が悔しそうに舌打ちをする。これは幸善の見事な道連れが炸裂し、二人は揃ってQ支部に向かうことになる―――ように思われた。


 しかし、その前に問題の水月が二人の前に現れていた。その登場に二人共が焦り、咄嗟にどうやって誤魔化そうかと頭を働かせる。


 その直後、水月が口を開いた。


「二人共早いね。それじゃあ、行こうか」


『ん?』


 幸善と相亀が揃って不思議そうな顔をして水月を見る。水月はその視線に首を傾げ、二人の様子を逆に不思議そうに見ている。


 この直後、水月に疑問をぶつけ、驚きながら水月の説明を受けた幸善と相亀のヘイトが、冲方に向くことになるのは語るまでもない。

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