人鳥は愛に飢えている(8)
スーパー近くに見つけた人気のない場所に、相亀は東雲を連れ込んでいた。見られたペンギンの説明と称した言い訳をしたい相亀だが、東雲はスーパーにいた時よりも警戒しており、相亀の説明はなかなか聞いてもらえていない。
それはもちろん、相亀が東雲を人気のない場所に連れ込んだからなのだが、この時の相亀はその場所に東雲の手を引っ張ってくるので精一杯で、全くそのことに気づいていなかった。
それでも、めげることなく相亀が必死に説明を続けていると、その姿と相亀に抱きついたまま離れないペンギンの姿に、東雲の警戒も少しずつだが解けている様子だった。だんだんと相槌の回数が増え、やがて疑いの目は消えないながらも、ちゃんと話は聞いてくれるようになる。
この時の相亀の説明は、自分が幸善と一緒に働いているのは動物保護に関する施設で、そこでどこからか逃げ出していたペンギンを保護することになり、今は自分が世話をしているのだが、離れてくれないので騒ぎにならないように気をつけながら、スーパーまで同行した、というような、事実ながらも大事な情報の省いた説明だった。
東雲はバイトと思っているが、相亀と幸善が同じ場所で働いていることは知っており、そこに間違いはない上に、奇隠や仙人、妖怪のことを隠している以外の説明はほとんど実際のものと同じだ。相亀は嘘をついているのではなく、情報を隠しているだけなので、仮に相亀が嘘をつくのが下手でも、気づかれる嘘がないのでバレないはずだ。
相亀はそう思っていたが、そうだとしても、突拍子もない話だったようで、全部を聞き終えても、東雲は疑いの目を相亀に向けてきていた。
「じゃあ、その施設に連れていってよ。そうしたら、信じるよ」
「え?」
相亀はその東雲の発言に動揺する。Q支部に部外者を連れていくことは基本的にできない。連れていくとしたら、以前の幸善のような記憶操作をしたい時くらいだ。
何と返答したらいいのか悩み、このままでは怪しまれると思った相亀は率直に思ったことを口に出すことにした。
「急に部外者を連れていって大丈夫か分からないから、今度、頼堂に言ってくれ」
あとは幸善に任せよう。相亀は押しつけた。
「ふ~ん」
東雲は疑うような目を相亀に向けてきているが、それもペンギンを見たところで変わる。
「まあ、可愛いペンギンだよね」
「う、うん?うん…ん?」
取り敢えず、うなずいてみながらも、急に論点がずれたことを相亀は不思議に思っていた。相亀がうなずく姿を見て、相亀に抱きついていたペンギンはじたばたと騒ぎ出す。
「普通に考えて、何か犯罪なら、わざわざペンギンを連れ回すことはしないよね?」
「ま、まあ、そうだな…」
最初に疑われた誘拐でもそうだが、それを言い始めると更に論点がずれそうなので、相亀は口を閉ざすことにした。
「相亀君は信用できないけど、そのペンギンが相亀君に懐いていることを信用していいと思うの。やっぱり、悪い人には懐かないと思うし」
「そ、そうなのか…?」
前半の信用できない部分も気になるが、後半の謎の理論も相亀には良く分からなかった。悪い人だとしても動物に懐かれたり、動物を可愛がったりする人くらいはいるだろうと相亀は思うのだが、東雲の中の常識は違うらしい。
「取り敢えず、その話を信じてみることにするよ」
そう言いながら、東雲はペンギンを撫でようと思ったのか手を伸ばし、嘴で手をつつかれていた。
「痛っ!?えっ!?何で!?」
「悪い人って思われたんじゃない?」
「どうして!?そんなに悪くないよ!?」
「ちょっと悪いのかよ…」
何としてでもペンギンを撫でたかったのか、東雲が今度はペンギンではなく、相亀の方に手を伸ばし、相亀の腕を掴んでくる。
「ほら、君と一緒。ちゃんと仲良しだから」
東雲がそう言った瞬間、ペンギンはいつもの鳴き声を上げて、東雲に体当たりを噛ましている。それから、相亀と東雲の間で両翼を広げ、立ち塞がっていた。
「ど、どうして…!?」
東雲はショックを受けた様子だが、ペンギンと出逢ってから、他の人間への対応を知っている相亀は特に不思議に思うこともなかった。
「まあ、頼堂も触ろうとしたら拒絶されてたから」
「幸善君も…?」
そう呟いてから、東雲は相亀をじっと見つめ、驚いたように声を出す。
「そんなペンギンに懐かれるなんて…相亀君は凄いんだね…ちょっと見直したよ…」
真面目なトーンで語る東雲に、相亀は複雑な心境になる。どうやら、東雲から相亀に対する評価がペンギンに好かれていることで上がったようだ。そのことを良いことと思ったらいいのか、それ以前が悪過ぎると嘆いた方がいいのか、相亀には分からなかった。
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