鼠は耳を齧らない(7)

 水月の案内でQ支部内の廊下を歩きながら、足下にダクトを発見すると、幸善は屈んでダクトに耳を近づける。ダクト越しに誰かの足音は聞こえてくるが、声はあまり聞こえてこない。たまに聞こえてきても、鼠を探す声ばかりで鼠の声ではない。


 それを何度か繰り返している間に、鼠が少しずつ捕まっているようだった。水月がスマートフォンを取り出し、画面を眺めて伝えてくる。


「六匹目が見つかったらしいよ」

「俺が見ただけでも七、八匹はいたから、まだいるね」

「声は聞こえた?」


 幸善はダクトに耳を近づけながら、かぶりを振る。ここもダメだったかとガッカリしながら、幸善と水月は次のダクトがある場所に向かおうとしていた。


「それにしても、ダクトに繋がる場所が多くない?」

「Q支部は地下だしね。それにあくまで日本支部だから、結構広いんだよ」

「あの公園の下にそんなに広い施設があるなんて」

「ん?。ここはじゃないよ?」

「はい?」


 幸善が聞き返した瞬間、幸善と水月の足下を何かが通り過ぎた。そのことに二人はすぐ気づき、咄嗟に視線を下に向ける。その何かは二人が姿を見る前に、その場を通り過ぎてしまったが、そこから聞こえてくる声は幸善の耳に届いていた。


はこっちか」


 その声は鳴き声として水月の耳にも届いたらしく、水月が幸善の顔を見てくる。


「今の鳴き声って、鼠だったよね?」

「武器庫…」

「え?」

「武器庫の場所を確認してた」

「武器庫…?」


 水月はすぐにスマートフォンを操作し始めていた。鬼山に連絡しているのかと思ったが、そうではないようで、幸善に画面を見せてくる。


「すぐそこだよ」


 Q支部のものと思われる地図が画面上には表示され、その中では赤と黄色の丸が点滅している。廊下の途中にある赤い丸は幸善と水月の現在地を示しているとすぐに分かったが、もう一つの黄色い丸は幸善の知らない部屋だ。


「ここが武器庫?」

「そう」


 幸善が今いる廊下の突き当たりを左に曲がり、その先に伸びる廊下の左手側、二つ目の扉がその部屋に繋がっているようだった。


「行こう」

「え?ちょっと待って。俺が行っていいの?」

「武器庫は少し広くて物が乱雑に置かれているから、頼堂君がいた方がきっとすぐに鼠が見つけられる。見つけたら、私に声をかけて。私が捕まえるから」


 水月に言われるがまま、幸善は廊下を突き進み、さっきの地図で見た武器庫に入っていく。


 武器庫はその名前が示す通り、世界各国の武器が保存されていた。剣や銃などの見覚えのあるものから、中には見たことのない武器まで置いてある。


(妖怪と関わるのに、こんなに武器がいるのか?)


 そう思ったところで、幸善は相亀が一度見せたことを思い出す。


(そういえば煎餅を爆発させた奴も、まるでための力みたいだった。もしかして、とかいるのか?)


 幸善がそう考えている頃、水月は武器庫内にダクトを見つけていた。ダクトを移動しているということは、ここから侵入してくるかもしれないと思い、水月は屈んでダクトの奥を見ようとする。


 その瞬間、ダクトから勢い良く何かが吹き出してきた。水月はその勢いに押され、尻餅を突いてしまう。飛び出してきた何かに揉みくちゃにされる中、水月は目を瞑っていた。

 その何かの正体は目を開かなくても分かった。視覚の代わりに尖った聴覚がさっきも聞いた鳴き声を捉えたからだ。


 水月は揉みくちゃにされた状態で、全身の気を動かしながら、瞬間的に周囲に放出する。水月の身体を中心に起きた小さな爆発で、鼠達は水月の周囲に散らばるように吹き飛んでいた。簡単に数えても十匹は超えている鼠が気絶しているが、それ以上の鼠が武器庫に侵入してしまっている。


「頼堂君!?逃げて!?」


 水月のその声が聞こえてきた頃、幸善は武器庫の中にを見つけていた。何かにかけられた布を取ろうと思い、手を伸ばした瞬間に水月の声が聞こえてくる。その声に導かれるように幸善が顔を向けたところで、自分に向かってくる数十匹の鼠の大群に気がついた。


「はあ…?」


 そして、鼠の大群が幸善に飛びかかってきた。

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