第17話 シヴァの休日
噴水広場で待つシヴァ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(ノースタウン)
今日は色々と変だった。
ユグレッドの元へ向かうと、任務の依頼を先輩のグフォルに言い渡される。
尋ねる暇もなく、ギルドに入ってきたエドとゾロロに連れられ図書館へ向かい、樹化異についての資料の捜索。
何もしない休日のはずが、ソフィアと会うまでにどっと疲れてしまった。
(噴水広場)
噴水広場のベンチに座るシヴァ。
「少し早く来すぎたか...」
シヴァは集合時間の30分前から噴水広場のベンチに座ってソフィアのことを待っていた。
シヴァはぼーっとしながら昔のことを思い出していた。
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7人の同志で、親友を助けに向かったあの日...。
和国の識神神社(しきがみじんじゃ)には雨が降っていた。
識神神社の後ろに聳える魔法樹(まほうじゅ)。
華の大陸に三本しか存在しない大樹に埋まった親友の肉体は全身の至るところまで全て真っ白になっていた。
その姿は人間の形をした悪魔、妖刀を握った殺人鬼...。
それでも同志は諦めることなく、魔法樹から生まれた穴に飛び込み、眠る親友の魂を呼び覚ます。
しかし、既に死した魂は目覚めることなく、在るべき場所へと還ろうとする。
親友は無理やり魂を人に呪いとして残すことでこの世に生き残る。
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シヴァにとってこの記憶は最も思い出したくないトラウマであった。
親友の見たことない冷たい笑顔、真っ白な体、その姿こそ地上で見た最後の彼女だった。
「生き返ってもあの姿なのかな...?」
シヴァは自分の行いが正しいのか、間違っているのか、悩んでいた。
時計の針は予定より30分過ぎた頃、
ブラックのワンピースに淡いピンクのコートを着た女性がシヴァの方へと近寄ってくる。
シヴァは女性を見るなり、ベンチから立ち上がり頬を赤く染める。
「そ、ソフィア...」
化粧をしたソフィアは凛とした顔立ちに大人の美しさが加わっており、誰よりも可憐であった。
ソフィアはシヴァの前にやってくる。
「お待たせしました、シヴァ」
シヴァはソフィアの格好を見て思わず言葉を漏らした。
「綺麗...。ソフィア、いつもに増して素敵さ...」
あまりに自然に出た言葉にソフィアは少し照れる。
「ありがとう、シヴァ。嬉しいです...」
シヴァはソフィアの前に手を出す。
「行こう、予約してあるさ」
ソフィアはシヴァと手を握るとレストランに向かって歩いていった。
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(レストラン前)
「シヴァ、ここで間違いないのですか?」
ソフィアは思わずシヴァに尋ねる。
「うん、ここさ!」
シヴァは自信満々の顔を浮かべていた。
シヴァがソフィアに紹介した店は、店の形が鯨のようになっている少し高価な大衆レストランであった。
ソフィアは初めて入る大衆レストランに少し緊張していた。
シヴァに連れられてソフィアはレストランの中へと入る。
店内は海賊街をイメージしており、店員の全てが眼帯をつけている何とも不気味なお店であった。
シヴァとソフィアは夜の海が一望できる展望席に座る。
シヴァとソフィアの席の近くにはピアノが置かれていた。
ソフィアは怪しい物を見るような目で辺りを何度も見渡していた。
シヴァとソフィアの元に海賊の見た目をした店員がやってくる。
注文を言わなければならないのだが、ソフィアはどうすればいいか分からず戸惑ってしまう。
シヴァは店員に"カリブ海のおまかせ2つ"と言うと、海賊の見た目をした店員は去っていった。
料理が届くまでソフィアとシヴァはたわいもない話で盛り上がった。
料理がやってくると、ソフィアは衝撃を受けた。
ラム酒を見立てた果実のジュースに、海鮮尽くしのワンプレート、バケットが机の上に盛大に並べられた。
ソフィアは目を輝かせて机の上の料理に齧りついた。
シヴァは何より喜んで食べるソフィアを見て、幸せを感じた。
「ごちそうさまでした。シヴァ、とても美味しい夕食に誘っていただきありがとう」
いつも上品なソフィアは、大衆レストランに来ても綺麗なことにシヴァは感動する。
「喜んで貰えて良かったさ」
シヴァはソフィアの嬉しそうな顔に安心する。
「折角ですから私からも何かシヴァに贈り物をさせていただきます」
ソフィアは席を立つと、後ろのピアノに向かって歩いていく。
ソフィアはピアノの前に立つと靴を脱ぎ捨て、息を大きく吸い込む。
吐き出すと同時にピアノの鍵盤を叩き始める。
突然のピアノの音色に戸惑う人々。
しかし、あまりの美しい音色と素敵な演奏に次第に心を掴まれていく。
優しいソフィアの人柄の出た演奏は、この上なく温かく、聴く人全てを幸せな気持ちへと変えていく。
シヴァはソフィアの演奏を聴いていると自然と涙が溢れ出して止まらなくなる。
「いつもありがとう、ソフィア」
シヴァはソフィアの演奏に感化され、心の声が言葉として表に出る。
誰よりも楽しそうにピアノを弾くソフィアの姿にシヴァは見惚れてしまった。
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(噴水広場)
冬の終わり。
星光が照らす夜道をシヴァとソフィアは手を繋いで歩いていた。
「ソフィア、今日は楽しめたかい?」
シヴァは尋ねる。
ソフィアは笑顔で頷く。
「はい、とっても楽しかったです」
シヴァは足を止めるとソフィアの方を向いて話す。
「ソフィア、いつもありがとう。君には感謝しきれないほどお世話になってるさ。だから、これからもよろしくさ」
ソフィアはシヴァに笑顔で応える。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
シヴァは再び歩き始めるとソフィアはシヴァに話しかける。
「また、連れて行ってください。美味しいお店に」
シヴァは胸が熱くなるほど嬉しかった。
「もちろんさ!美味しい料理、絶対に食べに行こう!」
シヴァとソフィアの手を繋ぐ距離は人が1人入れるほど遠かったのが、今では肩と肩が触れ合っていた。
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(シヴァの家)
ソフィアは部屋に入ると心の奥底から沸き立つ感情を抑えることができなかった。
踊りたくなるような、叫びたくなるような、気持ちの高鳴りを抑えることができない。
言葉にすることのできない幸せの感情、はっきりと分かるのは"恋をしている"ということ。
ソフィアは服を脱ぎ捨てると、そのままシャワー室に向かった。
ソフィアは鏡に写るニヤけた自分の顔に思わず笑ってしまう。
ソフィアはシャワー室に入り、シャワーを浴びながらしみじみと感じる。
「(私、今"幸せ"だ...)」
幸せを噛み締めた腑抜けた自分の顔を見ようとシャワー室の鏡を覗き込む。
すると、後ろに緑色の人間の形をした液体があることに気がつく。
ソフィアは慌てて振り向くとシャワー室の壁に押さえつけられて、口を塞がれる。
触れられた緑の液体はスライムであることをソフィアはすぐに察する。
スライムは姿を構築していき、砂漠で出会ったケモンになる。
「ずっと見てたよ、騎士の女。砂漠で君に取り憑いたあの時からずっとね。ケヒヒヒヒ」
ソフィアに訪れた絶対絶命の危機...。
予測不能のスライム男┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
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※時間と日付について
この世界では...、
1日24時間!
各月は全て 28日!
である。
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