第12話 砂漠の訪問者
混乱する観光客┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(地下の遺跡への一本道)
チームシヴァの一員である、情報屋ゾロロ、薬剤師の希麗(きれい)、料理人のエド、運転手のカリティア、助手の紅覇(くれは)の5人は、爆破音の発生元へと向かっていた。
借りているバギー車を運転しながらカリティアは少し恐怖を感じていた。
「急に爆発って何なのよ、全く...」
何が起きているのか気になるゾロロはカリティアのような恐怖は感じていなかった。
「無駄口を叩くな、とにかく車を走らせろ」
カリティアは頬を膨らませて怪訝な顔を浮かべながらバギー車のアクセルを踏みつける。
4人乗りのバギー車の屋根に座る紅覇、後方から飛んでくる何かに気がつく。
「なにか来る」
紅覇の声を聞いた後部座席に座る希麗は後ろの窓から空を見上げて正体を皆に伝える。
「ねえ、あれシヴァだわ。あ、こっちに向かってくる」
シヴァは勢いよくバギー車の真後ろに着地すると、屋根に座る紅覇に事情を伝える。
「城に樹化異が出たさ!ソフィアが交戦してる、すぐに助けに向かっておくれ!」
シヴァの伝令を聞いた紅覇は爆発のことをシヴァに伝える。
「シヴァ、爆発した。あっちから煙が上がってる」
シヴァは紅覇の話から作戦を伝える。
「凄い爆発で僕も驚いたさ。爆発の方は僕がどうにかする、安心しておくれ。それより皆は城を頼むさ!」
車内でシヴァと紅覇の会話を聞いていたゾロロは助手席からカリティアに伝える。
「聞こえたか?すぐに城に向かうぞ」
カリティアはゾロロに怒りのこもった声で話す。
「分かってるわよ!行けばいいんでしょ!?」
カリティアは急ブレーキからのハンドル操作を駆使し、車の進行方向を真逆に向ける。
ドリフトを繰り返しながら暴走車は真っ直ぐ城に駆けつけて行った。
「凄い運転さ...。みんな、そっちは任せた!」
シヴァは暴走するバギー車を見送ると地下の遺跡へと向かっていった。
(地下の遺跡)
逃げ惑う人々。
大きな蛇の顔の石像が大きく口を開け、地下の遺跡へと誘っている。
しかし、今は蛇の口から毒が吐かれたように人々が溢れ出てくる。
逃げる人々の群れの最後尾に、左腕と右腕にズレたブロックの刺青が描かれた黒肌に銀髪の男が現れる。
膨れ上がった上半身の筋肉は、もはや芸術の域に達するほど立派に鍛えられており、体長は軽く2メートルを超える大男であった。
「破壊する、地下の遺跡を破壊する」
男は何度も同じことを呟きながら蛇の顔を両手で触れる。
男は石像の蛇に触れた途端、蛇の顔に亀裂が生じ、砂のように地面に崩れ落ちてしまう。
瓦礫が地面に落ちると同時に砂埃が一面に飛び散る。
崩れ落ちる蛇の顔を見ながら男は高らかに笑い声をあげる。
「ガハハハハ、これぞ我の力!"破壊の呪人・アース"。触れた物を全て壊す最強の力は誰にも止められない」
「やめておくれ、おじさん」
砂埃の中から1人の男の声が聞こえる。
アースは声が聞こえる方を向いて聞き返す。
「お前、誰だ?」
砂埃が消えると共に男の姿が明らかになる。
そこに立っていたのは、1人の少年"シヴァ・グリフィン"であった。
アースはシヴァを指さしながら笑い声をあげる。
「ガハハハハ。誰かと思えばガキじゃねえか!おい小僧、この俺に勝てると思っているのか?」
シヴァは地面に魔法陣を投影し、朱殷の槍を取り出す。
「君の方こそ、僕に勝てると思っているのかい?」
シヴァの挑発にアースは怒り狂う。
「上等だ!殺ってやる!『バースト ウェイブ』」
アースは両手で地面の一部をひっくり返すと、シヴァに向かって地面の隆起の波が襲ってくる。
シヴァは槍を襲ってくる隆起に向かって構える。
「無駄さ。『聖火・蒼龍一閃(そうりゅういっせん)』」
シヴァは左手を蒼き炎で燃え上がらせ、槍に炎を纏うと、槍を隆起に向かって突き刺す。
シヴァの槍の突き攻撃は、青い炎が一筋の熱光線に変わって隆起の壁に向かっていく。
強力な高熱の炎は一瞬で大地の波を焼き払い、光線はアースの顔の真横を通過する。
攻撃を放ったシヴァはアースに向かって槍を向ける。
「悪い、外してしまったさ。次は必ず当てる」
アースはシヴァとの実力差に足が震え始める。
「(何者だ、こいつは?あの炎は何だ?このままではまずい!早く地下の遺跡を破壊せねば...!)」
アースは額の汗を拭い、シヴァに指をさして震えを誤魔化す。
「ガハハハハ。お前、俺に感謝しろ!今は遊んでいる暇はない!あばよ!」
アースはシヴァに背を向け、蛇の顔からすぐに伸びる地下の遺跡へ繋がる階段を全速力で駆け下りて行った。
アースは暗い階段を下り、地下の遺跡の前にやってくる。
地下の遺跡は、文明が栄えた頃に作られた礼拝所である。
遺跡内は何も無く、柱だけが至る所にある広い空間である。
階段を下りて正面の壁にのみ、女性の裸体の壁画が一面に描かれている。
高さ15メートル、幅50メートルに及ぶ巨大な壁画には、真ん中に後ろ姿の裸体の女性が水辺で水を浴び、体が蛇に巻き付かれ、女性の肩には蠍が乗っており、水辺の奥の陸地で山羊の群れがこちらを見つめる絵が描かれていた。
シヴァは慌ててアースを追って地下の遺跡へやってくるとすぐにこの壁画が目に入る。
壁画の前に立つアースはシヴァの目を見て話を始める。
「今から1000年前の話だ。生命樹の消失、サン教の誕生、この壁画はその当時に描かれた作品だ。サン教の教徒は大地の女神として彼女の背中に礼拝する。ここは言わばサン教にとっての"三大聖地(さんだいせいち)"の1つ。これは何を意味していると思う?」
シヴァはアースに訪ね返す。
「聖地が意味しているってどういうことだい?君は何を知っているのさ?」
アースはシヴァの方から壁画の方を向いて高らかに話し始める。
「サン教の三大聖地は、"生命樹への道標"として作られていたのだ!聖地に書いてある謎の古代文字、これこそ生命樹の在り処を示す鍵なのさ」
シヴァはあまりの衝撃に思わず笑みが溢れる。
「そうなのかい?それは本当なのかい!?」
アースはシヴァの方を再び向くと笑い出す。
「ガハハハハハハハ。我ら"Treedom(ツリーダム)"の目的は生命樹を利用し、世界中の人々を死という恐怖から救うことだ!樹化異に変えてな」
「樹化異が人を救うなど二度と口にするな!」
シヴァはアースのことを鋭い目で睨みつける。
シヴァはアースにゆっくり歩み寄りながら語り始める。
「樹化異になった人の魂を見たことがあるか?黒く淀んだ世界、負の感情が人となって押し寄せてくる世界を!君は見たことがあるのかい!?」
シヴァは左腕に蒼き炎を燃やしながら語り続ける。
「君たちが何を考えているのか僕には理解できない。でもこれだけは間違いなく言える。人の命を弄ぶな!失っていい魂などこの世にあるものか!」
アースは両手に力を込め、シヴァに向かって手の平を前に突き出す。
「じゃあ、教えてやる!失うべき魂はお前だと言うことを!喰らえ、『バースト キャノン』」
アースの両手の真ん中に高濃度の魔力砲が作られる。
飴色の光を発する魔力弾はシヴァに向かって一直線に放たれる。
「もう誰も失わない為に僕はこの力を手に入れたのさ。誰も傷つけず、魂だけを眠らせる力!『聖火・夢幻刀(むげんとう)』」
シヴァは左手に蒼き炎の太刀を錬成する。
左足を前に、太刀を頭の上に構え、破壊弾が来るのをじっと待つ。
破壊弾がシヴァの間合いに入ったその時。
シヴァは夢幻刀を思いっきり振り下ろす。
破壊弾は真っ二つに裂け、アースの顔がシヴァからはっきり見える。
時間が止まったような感覚が2人を襲う。
アースは何もすることができず、ただ呆然とそこに立ち尽くす。
シヴァは夢幻刀の形状を、太刀から槍に変形させる。
「アース、僕の勝ちさ」
シヴァは蒼き炎で作られた槍をアースの心臓目がけて投げつける。
槍は一直線に飛び、アースの心臓を確実に捉える。
「安らかに眠れ、破壊の男よ」
シヴァの囁きと共に、アースは仰向けに倒れ込む。
炎の槍が刺さったはずのアースには一切の傷が見当たらなかった。
シヴァは地下の遺跡を後にしながら呟いた。
「夢幻刀で心臓を焼かれた者は、一夜の間の活動を停止する。君が次に目覚めるのは明日の朝ではない」
恐るべき炎の精霊魔法...。
次回、"オシリス城"攻防戦!┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
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※炎の精霊魔法※
"無から有を、有を無に"
全ての始まりである炎から全ての物を生み出し、また炎によって全てのものを燃やすことのできる魔法。
炎の精霊魔法使いに選ばれた者は、頭の中の想像と炎の操作を上手く扱うことで様々な現象や物を生み出し強くなる。
基本的な炎の色は温度や規模によって変化し、ほとんどの魔法が緋色、高熱になれば青くなる。
(シヴァの場合)
最も印象深いのが、識神神社(しきがみじんじゃ)で親友の詩音(しおん)を失った日のことから、詩音の妖刀を模した太刀を錬成している。
シヴァの蒼い炎は青い炎の中でも例外であり、高温でないが技が強力であることから蒼き輝きを放っている。
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