第10話 夜の砂漠

無事に少女を送り届けるシヴァ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(黄聖国 首都"オシリス")



首都病院から出てくるシヴァとソフィア。



ソフィアはほっと息をつく。

「それにしても良かった。アリアは弱っていましたが命に別状はないようです」


シヴァもソフィアと同じことを思う。

「本当に良かったさ。砂漠の中で3日間も耐えたなんて凄いことさ」





シヴァとソフィアを追いかけて、一緒に首都へ戻ってきた旅人のルースが話しかけてくる。

「おーい、お二人さーん!」



シヴァとソフィアは病院の方を振り返る。



ルースはシヴァとソフィアの近くまでやってくるとあることを提案する。

「狩人と騎士のお二人さん、本当に助けてくれてありがとう。お礼と言ったら何だが今日の飯でも奢らせてくれ」



シヴァとソフィアは目を見合わせて笑顔を浮かべて頷く。


「うん、ありがとさ!皆も呼んでくるよ!」

シヴァは急いでチームの皆がいる宿へと向かっていった。



ルースは首を傾げて尋ねる。

「えっ...皆とは...?」



ソフィアは笑顔のままルースに教える。

「シヴァのチームの事です。全員で7人いるのですよ」



ルースは思わぬ事実に仰天する。

「えぇーー!!!マジかよ...」



こうしてルースを含めた大夕食会が始まるのだった...。









(黄聖国 首都"オアシス" レストランバー"Rar")



騒々しい物音をたてて7人の男と女がご飯にがっついていく。



貴族のソフィアはあまりの品のない作法に怒りを通り越して逆に興味を抱く。






ここは大衆レストラン"Rar(らー)"。


バーも兼ねたレストランで、地元ならではの料理や名酒が楽しめる。






ルースは食べている皿が空になると手を挙げて店員を呼ぶ。

「おーい、料理追加だ!何でもいいから持ってこい!」



ルースはシヴァたちのあまりの食べっぷりに疑問に感じる。

「お前ら狩人だろ?普段からいいモノ食ってるんじゃないのか?こんなにがっついてよ」




情報屋のゾロロはルースの方を向いて言った。

「何言ってるんだ。君が払ってくれるんだろ?普段はお金のことを考えて色々我慢していたんだ。こういう時に欲望を爆発させないとダメだろ!」



ゾロロの横に座る運転手のカリティアも同じようなことを口にする。

「普段は質素なパンとたまに出る卵...。やっとありつけたホンモノの飯...、2週間ぶりの飯!!」



カリティアの横に座る狩猟助手の紅覇(くれは)は、誰よりも黙々と料理を口に運んでいく。


紅覇の横に座る薬剤師の希麗(きれい)は、「美味しい」と言いながら料理を頬張っていく。


カリティアの横に座る料理人のエドは、料理の名前と味をノートにまとめるのに必死になっている。






あまりの個性の強さにルースは思わず吹き出す。

「ぶっははははは。お前ら変な奴らだな。まあ、俺が言えたことじゃねえか」



ソフィアはルースに尋ねる。

「ルース、貴方はなぜ旅をしているのですか?ただの観光には見えませんが」



ルースは改まってソフィアに旅の理由を話す。

「俺が旅をしているのは、"Treedom(ツリーダム)"って組織を探す為だ」



組織の名を聞いたゾロロは席を立ち上がり、目を見開いてルースに問いかける。

「おい、"Treedom(ツリーダム)"を探しているって正気か?」



シヴァはゾロロの態度に気になり話しかける。

「ゾロロ、Treedomって何さ?」



ゾロロはゆっくり席に座るとTreedomについて話し始める。

「"Treedom"世界で最も有名で、最も謎の秘密組織だ。一部では奴らが樹化異を生み出した組織と囁かれている。俺も何度も調べたが何一つ情報が出てこなかった」



ルースはゾロロに話した。

「そりゃ出てこねえよ。"Treedom"は国家認定の秘密組織だからな」



シヴァたちはルースの言葉に驚愕する。



ソフィアはすぐさまルースに尋ねる。

「国家認定...?どこの国なのですか?」




ルースが話の続きを話そうとした時、後ろからルースを殴る女性が現れる。


「何もかも話すんじゃね!」

猫のような顔をした黒人の彼女はルースに怒る。


「痛っ!何すんだよリリー!」

ルースは叩かれた頭を抑えながらリリーの方を振り返る。



リリーはルースの肩を持つとシヴァたちに話しかける。

「すまない、このダメ男が世話になった。お代は済ませておくからゆっくりと旅を楽しまれよ」




リリーがルースを連れて店を出て行こうとした時だった。




「大変だ!樹化異(きかい)が出たぞー!!」

店の中に血相を変えた男が入ってくる。



シヴァたちが慌てて駆けつけようとした時、ルースが行く手を阻む。



シヴァはルースに問いかける。

「何しているのさ!?早く樹化異を討伐しないと!」


ルースはシヴァに言う。

「任せとけ、俺たち"ソロモン旅団"にな!」



ルースはそう言うと店の外へと走っていった。






シヴァたちは心配になり店の外へと向かう。



すると驚きの光景を目にする。




樹化異の騒動はまるでなかったような日常があるのである。


「これで全部か?」

ルースは槍を片手に地元民と話している。




「もう樹化異を...?」

ソフィアはあまりの仕事の早さに目を疑う。


驚くシヴァたちの後ろからリリーが歩いてくる。

「私たち"ソロモン旅団"は、必ず"Treedom"を見つけ世界のどこかにある"生命樹(せいめいじゅ)"を見つけてみせる。では、またどこかで会おう」




リリーとルースは砂の舞う夜道を歩いて行ってしまう。







シヴァはゾロロに気になったことを尋ねる。

「ゾロロ、ソロモンって何?」


ゾロロはシヴァに話す。

「聞いたことないのか?"神童ソロモン"の名を?」


シヴァはゾロロの方を向いて頷く。



ゾロロはシヴァにソロモンについて話す。

「樹化異で多くの人が死んだ事件、"91年事件"。世界中の人々を混乱と恐怖から救ったのが、1人の天才魔導師"ソロモン"だ。世界三大魔法使いにも数えられる程の実力を持つ」


シヴァは"ソロモン旅団"と長い付き合いになるだろうと何となく感じた。








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(黄聖国 首都"オシリス" オシリス城)



オシリス城の中に、島華国の使節団がやってくる。



長い長いテーブルの前に通された使節団は、代表の王子である"珀 麗考(はく りきょう)"を中心に席に座る。






少し待たされた後、国王であるハイラト王、若いハイラト王の妹である"ジャスミン姫"が使節団の元へ現れる。



席に着くとハイラト王が口を開く。

「この度は我々の提案を受け入れて下さり誠に感謝申し上げます。こちらが我が妹、ジャスミン姫でございます」


珀王子はハイラト王に笑顔で話す。

「随分と話が早いのですね、ハイラト王。私はまだ国に来たばかりですよ、明日の朝にもう一度話を伺いましょう。今日は姫と2人にしてくれますかな?」









(オシリス城 庭園)



小さな泉のある黄聖国の城の庭園。



ジャスミン姫は浮かない顔で珀の後ろに離れて立つ。


珀はジャスミン姫と何も話すことなく庭の泉を覗き込む。




珀はジャスミン姫の方を振り返り、話しかける。

「貴女は乗り気ではないようですね、姫君。違いますか?」


ジャスミン姫は珀から目を逸らして呟く。

「はい...。私には運命の人がいるのです...」


ジャスミンは自分が発言してから発言の重さに気がつく。



しかし、珀は笑顔でジャスミンに言う。

「そうでしたか、姫君。運命とは残酷なものですね、全くだ。しかし、運命もあるのかもしれません。私の友達の"シヴァ"という男が今、この国にいるのです。折角だし会いたいなぁ」


ジャスミンはシヴァの名を耳にすると顔を急に真っ赤にする。

「し、シヴァ様が、この国に...?」



酷く動揺するジャスミン。


果たして二人の関係とは...!?





砂漠の旅、初日終了┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈






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※世界三大魔導師(せかいさんだいまどうし)


"大賢者"イフリート


"神童"ソロモン


"怪物"プリンケプス


の3人である。

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