第9話 砂漠の王国

バギー車で眠るカリティアとソフィア┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(黄聖国)



ここは聖大陸(せいたいりく)の南東にある国、黄聖国(きせいこく)。


国土の90%が砂漠で覆われており、人々が生活しているのは遊牧民を除いて、沿岸部に位置する首都"オシリス"だけである。









(黄聖国 ラヴィーン砂漠)



首都オシリスから目の前に拡がる広大な砂漠"ラヴィーン砂漠"。


夏である今は一年の中で最も気温が高い季節であった。


今日の気温も49度...。







そんな猛暑の日に、砂漠の中を1台のバギー車が走っていた。



バギー車のハンドルを握る運転手のカリティア・メーテルは口から愚痴が息するように出てきた。


「暑い...。しんどい...。辛い...。喉乾いた...。遠い...。汗臭い...」

カリティアの愚痴は止まりそうになかった。




カリティアと全く違う反応を見せていたのは、狩人のシヴァ・グリフィンであった。


「見渡す限り砂の草原が本当に広がっているなんて凄いさ!」

シヴァは出発して2時間以上経過しているのにも関わらず砂漠の景色に飽きていなかった。



カリティアはシヴァに尋ねる。

「アンタ飽きないなんて変よ?普通は見飽きてる頃でしょ?」


シヴァはカリティアの方を満面の笑みで見つめる。

「えっ、どうしてだい?見飽きる訳ないさ!」


カリティアはシヴァのあり過ぎる好奇心に呆れる。




4人乗りのバギー車の後部座席にはソフィアが乗っている。


カリティアはゆっくりと後ろを振り返る。


するとソフィアは顔を真っ赤にして水を飲んでいた。




カリティアはあまりの酷暑からソフィアのことを気遣う。

「ソフィちゃん、大丈夫?無理せず水分補給するのよ」


ソフィアは水を飲みながらカリティアに頷く。


「こんなに砂漠なんて要らないわよ、全く」

カリティアは前を向くと再び愚痴を言い始める。






そんな時、シヴァは急にバギー車の座席の上に立ち上がる。


「見つけた!カリティア、あとで迎えに行く!距離を詰めておいてくれ!」

シヴァはそう言い残すと高速で動いて消えてしまう。




「ちょっとシヴァ!?嘘でしょ...」

カリティアは急に心細くなる。


人々を守るはずの狩人が砂漠の真ん中で若い娘を2人置き去りにしたからだ。





その時だった。


カリティアの背後から砲弾のような巨大な音が聞こえる。


恐る恐る後ろを振り向くと体長が10メートルに及ぶ巨大なサソリが現れる。




「ぎゃぁあああーーー!!!」

カリティアは叫び声をあげると同時にアクセルを全力で踏む。


バギー車は車体を傾けさせながら砂漠の中を疾走する。




サソリの移動速度はバギー車の全力に簡単に追いつく。


カリティアはサソリのあまりの速さにパニックに陥る。

「ちょっと何なのよ!何でこんなに速いのよ!」



カリティアが焦っていると暑さに体力の限界に達していたソフィアが話しかけてくる。

「カリティア...、シヴァはどこに行きましたか...?」


カリティアはソフィアに即座に答える。

「知らないわよ、1人で砂漠の中を走っていったんだから!今はそれどころじゃないのよ!」



ソフィアはカリティアの言葉を聞くと態度が急変する。

「全く、あの男は...。何度言えば分かるのでしょう!?監視されているということに!!!」


語尾を強めたソフィア。


シヴァへの怒りをサソリに対してぶつける。




ソフィアはバギー車の車体の上に立つと、サソリに向かって魔法を唱える。

『オリヴァースラッシュ』


激しい閃光を放った斬撃は、波のようにうねりをあげてサソリに向かって飛んでいく。


ソフィアの強烈な一撃は巨大なサソリを真っ二つに斬ったのだ。




「はあ!?(何よ、この子は。めっちゃ強いじゃない!?)」

カリティアは心の中でソフィアに初めて恐怖心を抱いた。



ソフィアは何事をなかったかのようにバギー車の中に戻ってくる。

「カリティア、すぐにシヴァを探しましょう。しっかり説教せねばなりません」


カリティアはソフィアの真面目さに呆れる。


「了解よ、ソフィちゃん」

カリティアはバギー車の速度を落として近くのオアシスに向けて車を走らせた。











(黄聖国 オアシス "ボトルネック")



近くのオアシスについたソフィアとカリティア。


カリティアはオアシスの泉を見つけるとバギー車を停めて泉に向かって走っていく。



「やったわ、ようやく水に辿り着いた!」

カリティアは勢いよく泉に飛び込む。


ソフィアはバギー車から簡単な荷物を持つとカリティアの方に近づいていく。

「カリティア?大丈夫なのですか、オアシスの水に入っても?」


しかし、カリティアは慌てて泉から陸に上がる。

「ダメ、水が熱い...。とにかく燃料と水分だけ貰いにいきましょ」




ソフィアとカリティアが燃料の補給に向かおうとした時だった。



「おーい、ソフィアー!カリティアー!」

聞き馴染みのある声が遠くから近づいてくる。




「シヴァー!貴方には話さなければならないことが山ほどあります!!」

ソフィアはシヴァに対してかなりご立腹であった。







しかし、ソフィアの怒りはシヴァが近寄ってくるとすぐになくなってしまう。


なぜなら、シヴァは知らない人を2人も連れていたからであった。


1人は長い髪をした男性、もう1人はとても小さな少女であった。



シヴァはソフィアとカリティアに事情を説明する。

「長い髪の人は、"ルース"、旅人をしている人さ。砂漠で迷子になっていた少女と一緒に首都に向かっている途中でラクダがサソリに怯えて逃げてしまって帰る手段を無くしていたところを助けたところさ!」



シヴァの説明を聞いてカリティアはため息をつく。

「シヴァ?あなた結局何がしたいわけ?もしかして、その人たちも首都に届けるっていうんじゃないでしょうね?」



シヴァは笑顔でカリティアに向かって頷く。



カリティアは頭を抱えて項垂れてしまう。

「はあ、どうしてこうなるのよ...」



長い髪の旅人ルースはカリティアの腰を叩いて話しかける。

「まあまあ、いいじゃねえか。とりあえず首都まで仲良くしようぜ」


カリティアはルースに言う。

「あのね、私は許可してないから!連れていくなんて言ってないから。ねえ、ソフィちゃん?」


カリティアはすぐにソフィアへの同意に意味がなかったことを知ることになる。




ソフィアは少女に向かって話していたからだ。


ソフィアはしゃがみこんで少女の頭を撫でながら話しかける。

「怖かったね、もう大丈夫ですよ。貴女のお名前は?」



少女はソフィアに向かって小さな声ではあったが名前を言う。

「アリア...。アリア・ウォーカー...」



ソフィアはアリアの両手を優しく握ると優しい笑顔を見せる。

「アリア、分かりました。アリア、これから貴女の命をこの騎士ソフィアが責任をもって首都までお連れします。では、行きましょう!」



カリティアは両手で頭を掻きながら雲無き空に叫んだ。

「ああー!!4人乗りのバギー車にどうやって乗るんだ!?」












(砂漠の王国 オシリス城)



オシリス城へ向かう運河の海岸に1隻の船がやってくる。




王の妃のヘスティアが国王のハイラトに港に船がやってきたことを伝える。

「国王様、島華国(とうかこく)の船が見えましたよ」


ハイラト王は海岸の島華国の船を見て不敵に笑う。







港にも1人の男が降り立つ。

「砂漠の王国は本当にあるのだな。面白い」


翠色の絹の服に身を包み、常磐の髪をなびかせた美少年。


彼は国を背負ってきた王子、その名を"珀 麗考(はく りきょう)"。






滝壺の同期、登場┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





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※島華国(とうかこく)※


東の大陸(華の大陸)の南方に位置する大きな島国。


世界一巨大な魔法樹(まほうじゅ)があることで有名である。

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