第5話 騎士"ソフィア・オリヴァー"

黒塗りの魔動車が2台┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(ノースタウン 噴水広場)



数分前...。



シヴァの仲間である情報屋のゾロロ・オリンピアは、狩人の依頼が来ていないかギルドに向かっていた。


「ここはよく冷えるなぁ」

ゾロロは雪の積もった白銀の道を踏みしめながら足を進める。



まだ5時だと言うのに、11月のノースタウンは既に真っ暗だった。







そんな時だ。


ノースタウンの可動橋が降り、大型の黒塗り魔動車が2台も乗り込んで来たのだ。


平和なノースタウンに訪れた突然の出来事にゾロロは困惑する。

「いったい何事だ?」


ゾロロは近くの街灯に身を隠して黒塗り魔動車から出てくる人をじっと見つめる。





ガチャッ


車から降りてきたのは、侯爵の"カルデラ・オリヴァー"であった。


カルデラの後ろには、

最高裁判長の"ジャスティス・アポロ伯爵"に、

守護局長の"ウェポン・ウィーズリー伯爵"がついていた。



3人は、DW(ドラゴンウォーリアーズ)のギルドに乗り込んでいく。





「ちっ、まずいな。すぐにアイツらに知らせないとな」

ゾロロは慌てて来た道を戻って行った。







(ギルド内)



ギルドの扉を開けるとカルデラは大声でいう。

「貴様らに問う!シヴァ・グリフィンはどこだ!?」



カルデラの一言に誰も答えることなく目を逸らす。



奥のバーカウンターに座るユグレッドはゆっくりと立ち上がるとカルデラに話しかける。

「さあな、アタシたちも探していたところだ」



カルデラはユグレッドのことを睨みつける。

「小娘、冗談もその辺にしておけ。貴族の私が直々に来ているのだぞ、この意味が分かるか?」



ユグレッドは目を細め、グラスをテーブルの上に置くとカルデラに向かって歩み寄る。



カルデラの目の前まで来るとユグレッドは滑舌よく言う。

「わ・か・り・ま・せ・ん。ノースタウンに帰ってくるなり急にいなくなったの、分かる?」



カルデラが怒りのあまりユグレッドに手をあげる素振りを見せる。



するとユグレッドを庇うように、後輩のイーサンとレベッカの2人が両手を広げて前に立つ。



さらに顔を赤くするカルデラの肩をポンッと叩いて、裁判官のジャスティスは前に出る。



ジャスティスはユグレッドと目を合わせると話し始める。

「カルデラ君、落ち着きなさい。我々は彼らと喧嘩をしに来たのではないのですよ?決定事項を伝えに来たのです。」



ユグレッドはジャスティスに尋ねる。

「決定事項とは何の事だ?」



ジャスティスは国王のサインが書かれた契約書をユグレッドに渡す。

「それは新しく狩人になったシヴァ・グリフィン君に関することが書かれた契約書です。是非、お読みになってください」



ユグレッドは契約書の内容に目を通す。

「おい、これはどういうことだ!?お前たちは何を考えている!?」



ジャスティスはユグレッドに契約書の内容を詳しく話す。

「簡単なことです。シヴァ君の身分は移民、異例の炎の精霊魔法使い、彼には反乱する可能性がある」



ユグレッドはジャスティスに怒りを露わにする。

「だからと言って狩人に成ったばかりの彼に"騎士の監視"をつけるなんて有り得るか!?」



ジャスティスの後ろから侯爵の騎士カルデラが逆ギレする。

「黙れ!貴重な騎士を1人あの小僧につけてやるのだぞ!?狩人活動を禁じられんかったことに感謝しろ!」



ユグレッドはとうとう怒りが限界に達する。

「要件は伝えたんだろ!?じゃあ、さっさと出ていけ!」



眼鏡をかけているジャスティスは指でブリッジを少し動かすと、手を後ろに組んで入口をユグレッドに見えるように後退する。

「まあ、そう苛立つな。担当する騎士をまだ紹介していないであろう?」




ギルドの中に1人の騎士が入ってくる。




ジャスティスは入ってきた騎士をギルドの皆に紹介する。

「紹介しよう。シヴァ君の監視を務めるのは、"ソフィア・オリヴァー君"だ!」



皆の前に現れたのは、シヴァと同級生の"ソフィア・オリヴァー"だった。



ユグレッドはソフィアの姿を見て、父親であるカルデラに向かって言う。

「娘に監視をさせるとはな?貴族騎士も厳しいことをさせる」



カルデラはソフィアの肩を掴み、ユグレッドを睨みつける。

「娘の腕に不満かな?不安なら手合わせしても構わんぞ!?」



ユグレッドとカルデラが火花を散らす。






そんな中、ギルドの中に誰かが入ってくる。




「ユグ姉、貴族の人が来ているって聞いたけど何かあったのかい?」

ようやくギルドにシヴァが顔を出す。



ジャスティスはシヴァの腰に手を回してソフィアのことを話す。

「君の監視官として"ソフィア・オリヴァー騎士"が任命されたのです」



ジャスティスの話を耳にしたシヴァは予想外の反応を見せる。

「うん、よろしくさ!」




すんなり受け入れたシヴァにユグレッドは驚きを隠せなかった。

「おい、シヴァ!?騎士の監視だぞ!?こんなの滅多にない判断なんだぞ!?」



詰め寄ってきたユグレッドにシヴァは笑顔で話す。

「えっ、そうなのかい?僕は別に気にならないさ。それにソフィアが一緒に狩人活動してくれるなら頼りになると思わないかい?」



ユグレッドは頭を抱えて項垂れる。

「はあ、そうなのか?そういうものなのか?」



シヴァはソフィアの方を向いて手を差し出す。

「ソフィア、これからよろしくさ!」


ソフィアは差し出されたシヴァの手を握る。

「はい、よろしくお願いします。シヴァ!」




「ソフィア!」

カルデラがソフィアに向かって怒鳴る。


ソフィアは肩を硬直させ、カルデラの方を向く。


「蛮人とあまり慣れ親しまぬようにせい!それに貴様の仕事を監視だ!娯楽を楽しまぬように!」

カルデラはソフィアに伝え終えると颯爽と黒塗りの魔動車に乗り込む。



「では、失礼します。ご達者で、ソフィア・オリヴァー君」

カルデラに続いて、ジャスティス裁判官とウェポン守護局長も魔動車に乗り込んだ。




黒塗りの魔動車は明かりのない夜道を帰って行った。









ソフィアは黒塗りの魔動車が去っていくのを寂しそうに見つめる。




雪の降る中、ソフィアはギルド前の噴水をじっと見つめながら立っていた。



「ソフィア、寒くないかい?」

防寒対策を施したシヴァは、薄着のソフィアを心配する。


「ええ、心配ありません。今日は宿を探して休みますから...」

両肩を震わせながらソフィアはノースタウンの繁華街に向かう。



冷たい風が吹く。



ソフィアは両手に息を吐きながら雪の中、歩みを進める。



ソフィアが歩いていると、突然首に温もりを感じる。



「冷えるよ。ここは君が思っているよりも寒いからさ」

シヴァは自分が巻いていたマフラーをソフィアの首にかける。


「いえ...、だ、大丈夫ですから...。あ、ありがとうございます...」

ソフィアはシヴァのマフラーをぎゅっと握りしめる。



マフラーを握るソフィアの手をシヴァが優しく握る。

「手袋もしていない。ここだと危険さ」


ソフィアは消えていった車の残像を見ながら呟く。

「そうですね、一刻も早く何処かに入らなくては...」



きょろきょろと辺りを見渡すソフィアであったが、知らない土地に雪で視界も悪く宿を探すにも大変だったのだ。




シヴァはソフィアの手を引いてある場所に歩き始めた。

「ソフィア、着いてきて!いい場所がある!」


ソフィアはシヴァに連れられて行くことにする。



握るシヴァの手の温もりにソフィアは何だか込み上げてくるものがあった。




シヴァは足を止め、店を指さす。

「着いた!ここさ!」


ソフィアはゆっくりと店の看板に目を向ける。




"FISHMAN(ふぃっしゃーまん)"


ここは世界中の味が楽しめる"西風居酒屋"であった。





ソフィアの宿!?┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈






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※騎士(きし)※


白聖国に数十人しかいない精鋭の戦士。


殆どが貴族で構成されており、国内の領地の政策を考えたり、国内の防衛を担当する。


騎士になれなかった者を"守護(しゅご)"と呼ぶ。


守護は国内に何万人といる兵士である。

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