第6話 狩人の憩いの場

来店するシヴァとソフィア┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(ノースタウン "FISHMAN"店内)



午後9時...。


街中のたくさんの人が居酒屋に集まってきていた。



そんな中、シヴァとソフィアは2人で来店する。



「いらっしゃい!あら、シヴァ君じゃない?」

店の女将である"ピクシー"はシヴァの方に駆け寄ってくる。



「いらっしゃい、シヴァ。今日は彼女と一緒か?」

対面式の厨房から店主の"フィッシャー"が話しかけてくる。



「2人とも久しぶりさ!今日は友達がノースタウンに来たから2人の店を紹介したくて。ソフィア、ここに座って」

シヴァはカウンター席に座ると、隣の席にソフィアを案内する。


ソフィアはシヴァに言われた通りに隣の席に座る。



店内は北方デザインの施されたシンプルで木の温もりを感じる設計になっていた。



ソフィアは店内を見渡しながらシヴァに話す。

「随分、綺麗な御店ですね...」


シヴァはソフィアに笑いかける。

「そうかい?それは良かったさ」


シヴァが笑うとソフィアも笑顔を浮かべる。



「お二人さん、ご注文は?」

女将のピクシーは優しく2人に話しかける。


「僕はいつもので頼むさ。ソフィアはどうする?」

シヴァはソフィアの方を向いて尋ねる。


ソフィアは貴族で育った為、注文の仕方が分からなかった。

「で、では...、私もシヴァと同じものを...」


シヴァはソフィアが戸惑っているのを察知するとピクシーに注文を伝え直す。

「ごめん、ピクシーさん。やっぱりアッチでお願いするさ」


ソフィアはシヴァの注文に首を傾げる。


ピクシーは何が言いたいか分かったのかシヴァにウインクする。






ソフィアは出された水を飲みながらシヴァに尋ねる。

「シヴァ、このお店はよく来るのですか?」


シヴァは深く頷く。

「うん、よく来るさ。ホワイトスクールに通っていた時の休暇はここで過ごしたものさ」


ソフィアはいった。

「そうなのですね。シヴァにとっては家のような場所ですね」


シヴァはグラスを回しながら話した。

「両親を亡くして家を無くしてから島の村長の場所で過ごした僕にとっては、本当の家のように感じている場所さ」


シヴァの話を聞いたソフィアは少し寂しい気持ちになった。


「不思議なことに僕が一緒に過ごした父と母は本当の親じゃないらしいのさ...。僕は"覚醒児"だから...」

シヴァの両親は生まれると同時にシヴァに魂を吸収されている。


ソフィアはシヴァの方を向いて話した。

「きっと愛情が溢れすぎていたのですよ。私は父と中々距離を縮められません...。顔も髪の色もあまり似ていませんし...」


シヴァは微笑する。

「確かにあまり似てないさ。母親に似ているんじゃないかい?」


ソフィアは首を少し傾けながら話す。

「それがそこまで似ていないのです...。私は一体誰の娘なのでしょう?」




シヴァとソフィアが話していると店主のフィッシャーが話しかけてくる。

「ソフィアちゃん。話が逸れるようだけど、おじさんの昔の知り合いにいた舞台女優さんによく似てるよ」



シヴァはフィッシャーに話した。

「おじさん、その人ってこの前話してくれた"Lさん"のことかい?」


フィッシャーはいった。

「ああ、そうだ。その人は騎士と結婚するんだが、本当は好きな人がいたのよ。叶わない恋って奴だな...」


ソフィアは話し終えたフィッシャーの暗く沈んだ表情が妙に印象に残った。





「さあ、できたぜ!和国(わこく)の友達が教えてくれた絶品メニューだ。オムライス、食べてくれ!」

フィッシャーはシヴァとソフィアが注文したオムライスをテーブルの上に並べる。


ソフィアは初めて見る庶民の料理に感動する。



「美味しそう...、いただきますさー!」

シヴァはソースをかけるとオムライスを頬張った。


ソフィアもシヴァの真似をしてオムライスを一口食べる。

「美味しい...」


初めて食べるフワフワの食感にソフィアはヤミツキになる。




「良かったよ、気に入ってくれて...」

フィッシャーはシヴァとソフィアが食べる姿を見るなり涙を流し始める。


泣いているフィッシャーを見て、女将のピクシーが話しかける。

「どうしたの?」


フィッシャーはピクシーに話した。

「いやぁよ。シヴァたちを見ていると昔を思い出してな...」


「そうね...。まるで2人が蘇ったようね...」

ピクシーもしみじみと語る。


シヴァとソフィアは何が何なのか理解できず顔を見合せ首を傾げる。








ご飯を食べ終えたシヴァとソフィア。



ソフィアはずっと思っていたことをシヴァにぶつける。

「シヴァ、ずっと気になっていたことがあります。ホワイトスクールからの異例の留学...、あれは何だったのですか?」



シヴァはソフィアに真相を打ち明ける。

「暗殺通達、僕を殺しに魔女がやってきたのさ。少なからず白聖国は魔女と繋がりがあると考えて間違いないと思うさ。あの日の男たちも...」



ソフィアはテーブルをじっと見つめる。

「留学はやはり嘘だったのですね...。"僅か1年でホワイトスクールから追放した"と貴族の間で話されていたことが本当だったとは...」



シヴァはソフィアの方を向いて"華の大陸"の話を始める。

「でも、華の大陸に行ってよかった!ハッキリ言いきれるさ!大切な友達ができた、こことは違う文化に触れることができた。向こうでの日々はかけがえのない宝物さ」



ソフィアはシヴァの話に耳を傾けた。



シヴァはその後も実に楽しそうに華の大陸での日々を話してくれた。


"滝壺の寺院(たきつぼのじいん)"で出会った7人の仲間、高山地域で出会った村の人々、各国の王族たち...。








楽しさのあまりお酒を飲んだシヴァは眠ってしまった...。

(※お酒は15歳からOK!!)



椅子で眠るシヴァに女将のピクシーは毛布を被せる。

「シヴァくんはユグちゃんによく似てるわね。ソフィアちゃんと話せてきっと嬉しかったのよ」



ソフィアはピクシーに笑顔で言う。

「私もシヴァと話せて嬉しかった。彼はいつも私に大切なことを教えてくれます」



気がつくと時刻は午前0時を向かえていた。



閉店作業を終えたピクシーはソフィアの隣に座る。

「ソフィアちゃんには話そうかな?シヴァくんのこと」


ソフィアはシヴァの話に興味をもつ。

「ええ、是非聞きたいです」



店主のフィッシャーがピクシーとソフィアにチーズとワインを差し出す。



ピクシーは出されたワインを飲みながらソフィアに話し始めた。

「彼ね、留学先で親友を失ってるのよ。親友が樹化異(きかい)にされてしまってね、それを救えなかったっていつも話してる。彼は何も悪くないのに...」



ソフィアはじっとピクシーの話を聞き続けた。



「彼の昔の夢は"世界中の文化を見て回ること"。この広い世界を見て回って、それを色んな人に伝えたいっていつも言ってた。

でも、戻ってきてからはいつも同じことを言うのよ。


『親友を元の世界に戻したい、"世界の生命樹"を探す為に狩人になる』


ってね。親友のことがよっぽど好きだったのよ」

ピクシーはシヴァの寝顔を見ながら話した。



ソフィアは手元に置かれたワインを見つめながらいった。

「きっと救えますよ、シヴァなら必ず」




ソフィアは席を立ち上がるとピクシーに誓う。

「騎士ソフィア・オリヴァー、命をかけて彼の夢を全力で支えます」




ソフィアの宣言を見たピクシーと店主のフィッシャーは同時に呟いた。

「お願いします」




ソフィアには見えた。


ピクシーとフィッシャーの目に薄ら涙が出ていたのが。



シヴァとソフィアが彼らの涙の真相を知るのは、まだ先のことである...。




繋がる思い┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





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※生命樹(せいめいじゅ)※


全ての魂が生まれ、全ての魂が還る場所。


1000年前の事件をきっかけに地上から姿を消した。


この事実を知れる書物は残っておらず、謎多き存在である。

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