第2話 憧れの姉"ユグレッド・クリスタル"

王都を目指すシヴァ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




(白聖国 キングシティ クロワイト)



近代文化と旧式文化が混ざり合う王都"クロワイト"



舗装された輝石(きせき)の道路、立ち並ぶ灰桜に染まった高層建築物、街中を大量に走る魔動車(まどうしゃ)、山のように押し寄せる人々...。



少年シヴァ・グリフィンは、王都の都会ぶりに圧倒されていた。



「相変わらずこの街は凄いさ...」

シヴァは人々が行き来する交差点の真ん中でふと呟いた。









(クロワイト リボン運河付近)


シヴァは何とか運河付近の誰もいない橋の上にやってきた。



この橋を超えた先は、貴族しか入れない特別な領域になっている。



円形にできたクロワイトの都市は、中央に運河に囲まれた王族や貴族のみが住む町"ロイヤルリボン"がある。


そして、運河の外に富裕層の庶民や商売人が住む町"クロワイト"がある。




シヴァは決して踏み込めないロイヤルリボンの街を眺めながら橋の欄干の上に座る。


石で作られた欄干の上に座ると運河の方を見ながら"あの日"のことをまた思い出していた。




「あれからもう3年か...」

思い出せば夢の中の彼女は不思議なことに話していた。







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(3年前 滝壺の寺院)



地上にできた円形のドーム。


霧に隠された杜の中にある滝壺の寺院は古くから魔法を極める修行の地として一部の人に知られていた。




師匠を務める4人の幽霊。


シヴァも彼らの元で修行した1人である。




流れる滝の途中に建てられた空に浮かんだような寺院。


何かを祀るように建てられた4つの岩。


滝壺の底に広がる大きな魔法陣。


そして滝壺の上に存在する1本の大きな桜の木。




全てが不思議な滝壺の寺院で過ごす日々はシヴァにとって忘れることの無い時間だ。







そんなある日、シヴァは朝方に"式神詩音(しきがみしおん)"と2人で滝壺の傍で話していた。



詩音は滝壺の前にしゃがみこんで水を手で触れながら話し始めた。

「全ての物には光と影がある。陰陽に例外はない、必ずだ。シヴァ、光と影って何のことだろう?」


シヴァは詩音の横に寄り添うように座る。

「人には良い面も悪い面もあるってことじゃないかな?」


「ぷっ、ふははははは。何だ、シヴァも案外普通のことを言うだな」

詩音はお腹を押さえてシヴァのことをからかった。


「何がおかしいのさ!そういう詩音はどうなのさ」

シヴァは頬を膨らませて詩音から視線を逸らす。



詩音は両手を足の前で組んで滝の方を見ながら話し始めた。

「光と影は全く違うようでよく似ている。でも交わることは決してない、だからといって片方がなくなったら両方消えてしまう...。まるで世界そのものを現しているように思えるんだ」



話し終えた詩音はゆっくりと腰を上げるとシヴァの前で着ていた上の服を脱いで背中を見せた。


「詩音、その刺青は何だい...?」

シヴァは詩音の背中に描かれた陰陽の刺青を指さした。


「式神家に伝わる"式鬼神妖刀(しきじんようとう)"の紋章だ。この模様が消えない限り式神家の魂が消えることはない。肉体が消滅したとしてもだ...」

詩音の言葉はシヴァの心に妙に残った。






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(現在)


冷たい風が通り抜ける。


シヴァは空を見上げながらゆっくり息を吐いた。

「詩音の妖刀が僕の体内にある。詩音の魂は消えていない...。どうすれば元に戻れるんだろ...?」



シヴァが橋の上で物思いにふけていた。





シヴァの背中を ポンッ と誰かが触れる。


シヴァはゆっくりと後ろを振り向いた。




そこにはピンクブラウンの髪色をしたショートカットの見目麗しいお姉さんが立っていた。


目立つ緋色のコートを来ていることから誰なのかすぐに理解できた。



「ユグ姉、普通に声かけておくれ」

シヴァは橋の欄干の上から降りる。


「悪いな、シヴァ。それよりコーヒーでも飲みに行こ、ホントに疲れた...」

ユグはシヴァの肩に手を回すと近くのカフェに向かって歩き始めた。


ユグの手には赤い宝石のついた指輪が光っていた。











(白聖国 クロワイト ギンガムコーヒー店内)



スタイル抜群の23歳の彼女は、"ユグレッド・クリスタル"。


シヴァの職業"狩人(かりうど)"の先輩にあたる人物で、シヴァの憧れの存在でもある。


シヴァがまだホワイトスクールに通っていた時期に彼女と出会った。


それ以来、本当の姉弟のような間柄である。







店の端のテーブル席に座るシヴァとユグレッド。



席につくと、ユグレッドは氷のようにテーブルの上に溶けた。

「はあ、やっぱりロイヤルリボンの中は慣れないや...。アタシ1人じゃ到底来れなかった...。シヴァが着いてきてくれて助かった...」


シヴァはサンドイッチを食べながら笑みを浮かべている。

「僕が狩人になる祝賀会だから当たり前のことさ!」



※シヴァは今年、狩人になる16歳の少年である。



ユグレッドは外を眺めながら呟いた。

「相変わらず曇ってるね...。シヴァ、この1週間は何して過ごしたの?」


シヴァはサンドイッチを食べながら1週間の行動を思い出す。

「そうだな...。まずは下宿でお世話になった"ウォンド"さんの元を尋ねて、昨日はフランドール城跡を見てきたさ。凄く立派な建物で感動したさ!」


ユグレッドはシヴァの方を見ると優しく微笑みかける。

「帰ってきた時より随分と笑顔が戻ったね。良かった」



シヴァは左腕のセーターの袖をまくってユグレッドに黒炎が描かれた刺青を見せる。



ユグレッドはシヴァの刺青を見ると、少し間を空けてから言及した。

「炎の精霊魔法も上手く使えるようになってきたみたいだな」


「詩音のおかげさ。詩音に助けて貰えなかったら今でも僕はこの力を使えてない...」

シヴァはそっと袖を元に戻す。



シヴァは水を1口飲んでからふと尋ねた。

「ユグ姉、樹化異はいつになったら居なくなるのかな?」


ユグレッドもブラックのコーヒーを1口飲んでから答えた。

「分からない。"91年事件"で多くの人を失った代償に樹化異の倒し方を人類は獲得した。樹化異を利用して世界に恐怖をもたらした集団を倒しても樹化異は消えることは無かった。真相を掴めないまま3年、どうしたものか...」




次第に外に雨が降り始めた。


シヴァは窓を見つめながら呟いた。

「雨か...」


ユグレッドはテーブルに肘をついて顎を手のひらに乗せながらシヴァに話しかけた。

「雨は嫌いか?」


シヴァは正直に話した。

「嫌いさ。親友を失った日も雨だった、強制留学処分になった日も雨だった...。雨にいい思い出はないさ...」


ユグレッドもシヴァと同じように窓を見ながら話した。

「アタシの父が殺された日も、恋人が失踪した日も雨だったな...。雨は悪くないのにどうして雨が降るのかな...」




ユグレッドはコーヒーを飲むとシヴァに向き直った。

「まあ、明日は祝賀会!新しく就任する騎士と狩人を祝う日だ。シヴァ以外は全員が貴族、この国は何も変わってはいないが少しずつ変わっていくことを願わないとな」



シヴァもユグレッドの方に体を向ける。

「うん、楽しんでくるさ!」






明日、シヴァは正式に狩人になる┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈







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※ 狩人(かりうど) ※


白聖国の国際魔導戦士の名称


異常生物の駆除、生態観測、テロ組織の暗殺、パンデミックの原因追求など世界の均衡を守るために活動している組織


狩人になるには、ホワイトスクールの狩人科を上位2位に入らなけれざならない。


貴族より庶民に人気が高く、中でも"狩人闘技会"は国内で最も盛り上がる祭典である。

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