第3話 貴族の祝賀会

正装するシヴァとユグレッド┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(白聖国 クロワイト)



世界屈指の魔法学校"ホワイトスクール"。



世界中の10歳の子供が一斉に受験し、上位200名のみ入学が許可される選ばれし者しか入れない学校。


中でも騎士科と狩人科は定員30名ずつと人気が高く、各国の貴族や富裕層などの賄賂などで選抜されることが多い。


騎士科や狩人科に入れたとしても、実際に騎士や狩人になるのは、たったの2人ずつ...。


その為、騎士や狩人は白聖国の貴族が殆どを占めており、それ以外の者で就任した者はかなり疎外されていた。



貴族ではないシヴァはその珍しいタイプである。









(白聖国 クロワイト ロイヤルリボン プラチナ家屋敷前)



シヴァは黒のスーツに身を包み、ユグレッドが来るのを待っていた。



今回、騎士・狩人就任祝賀会が行われるのは、公爵プラチナ家の屋敷であった。


公爵プラチナ家は、公爵家の中で最も権力があり、当主のマディ・プラチナは、国王バルバロス・クラウンと同い歳でもある為、歴代の中でも権力が大きかった。






「悪いな、シヴァ。ちょっと髪に時間がかかってさ」

ユグレッドがようやく屋敷の前に現れた。


深紅のドレスに身を包んだユグレッドは、いつに増して美しさが際立っていた。



シヴァはあまりの美しさにユグレッドと目を合わせることができなかった。



「何?顔赤くして。ほら、行くよ!今日はパーティだ!」

ユグレッドはかなりの酒豪である。


今日は貴族の酒を好きなだけ飲めることから誰よりも楽しみにしていた。



「ユグ姉、ハイヒールだからコケないようにするんさ!」

シヴァはユグレッドが走って会場に向かう後ろから声をかけた。


シヴァの声を聞くことなく、ユグレッドは颯爽と屋敷の中へ入っていった。











(プラチナ家 屋敷内)



鉄の門の先には大きな噴水が2つ、広すぎる庭園が左右に広がり、その奥に大輝石(だいきせき)の豪邸が待ち構えていた。


神殿にしかない柱、守護獣"ユニコーン"の石像、金と赤が所々に混ざった純白の宮殿は、庶民のシヴァには理解できなかった。



「何さ、この建物は...」

シヴァは入口の前で小刻みに震える足を止められず、上を見上げたまま硬直してしまう。








「シヴァ!」

誰かがシヴァを呼んでいる。



シヴァが首を色んな方向に動かしていると、入口の階段から1人の容姿端麗な金髪の美少女が現れる。


白藍のドレスに身を包み、髪をアップした彼女は、侯爵オリヴァー家の娘"ソフィア・オリヴァー"である。




シヴァは思わず口から本音が飛び出る。

「ソフィア...、久しぶりさ...。今日はいつもに増して随分と綺麗さ...」


※シヴァとソフィアは、ホワイトスクールの同級生である。



シヴァに褒められたソフィアは顔を少し赤くしてシヴァから目を逸らす。

「そっ、そうですか...?気に入って頂けて嬉しいです。シヴァ、中で皆が待ってます!行きましょう!」


ソフィアはシヴァの右手を掴むと2人で階段を駆け上がった。







プラチナ家屋敷の中は庶民では考えられない程広く、深紅のカーペットが敷かれ、辿った先には何百人と入れる巨大な宴会場が設けられていた。


会場から窓の外を眺めると巨大なプールが設けられており、会場内のテーブルには見たことも無い食べ物が沢山用意されていた。



シヴァが会場の奥の方に目を向けると、誰よりも夢中になってユグレッドがワインを片手に食べ物を頬張っていた。






「凄いさ...」

シヴァは見たことも無い光景に感嘆する。


「ええ、プラチナ家はいつも豪華で驚愕させられます。シヴァは初めてなのですか?」

ソフィアはシヴァの方を向く。


「初めてさ...。貴族は凄い、憧れるさ...」

シヴァは貴族しか味わえない文化を肌で感じ、憧れと同時に嫉妬と怒りが湧き上がってきた。




ソフィアとシヴァが話していると、2人の男が近づいてくる。



「おーい、シヴァ。ソフィア。おひさー!」

派手な茶髪の彼は、伯爵スパーク家の次男坊"レオナルド・スパーク"である。(※愛称 : レオ)


「シヴァにソフィア、御機嫌よう」

少し髪の長い金髪の彼は、侯爵クイーン家の息子"アレキサンダー・クイーン"である。(※愛称 : アレク)



シヴァは2人を見つけると嬉しそうに話しかける。

「レオ!アレク!久しぶりさー!元気にしてたかい?」


レオは胸に拳を当てて答える。

「当たり前よ!それよりシヴァ、左腕どうなったんだ?」


シヴァはソフィア、レオ、アレクの3人に左腕を見せる。

「これが僕の義手さ。炎の精霊魔法使いの"イフリート"さん直々に錬成して貰ったのさ。おかげで僕も炎の精霊魔法使いになれたのさ!」


アレクは顎に指をあてていった。

「しかし、精霊魔法使いってこの世に4人しかいないんじゃなかったのか?」




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


(※精霊魔法使い)


この世の全ての魔法の中で、最も強力な魔法が"精霊魔法"


精霊魔法の種類は4つ。


有無を司る"炎"、記憶を持つ"水"、知識を持つ"風"、自然を司る"大地"


精霊魔法使いは各魔法を極めし4人のみしか生きられない。


これに例外は有り得ない...。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




シヴァはアレクの素朴な疑問に答える。

「イフリートさんが言うには、炎の精霊魔法で錬成された義手は稀に覚醒し、自身も炎の精霊魔法に近い魔法を使用することができるらしいさ」


ソフィアは目を輝かせてシヴァの左腕を見つめる。

「シヴァ、凄いです!世界で4人しかいない精霊魔法が使えるようになるなんて...!」


レオは頭を掻きながらソフィアに伝えた。

「ソフィアさん、聞いてました?シヴァは精霊魔法使いになった訳ではなくて、精霊魔法使いの能力が使えるようになっただけだぜ」


ソフィアはレオの解説に首を傾げる。


素直なソフィアにシヴァとアレクは思わず吹き出した。


同級生との久しぶりの会話にシヴァにも笑顔が戻った。








「ソフィア、一体誰と話している!」

シヴァたち4人の元に強面の騎士らしき男が近寄ってくる。


ソフィアは彼の姿を見ると口から声が漏れる。

「ち、父上...」


4人の前に現れたのはソフィアの父、首都騎士を務める"カルデラ・オリヴァー侯爵"であった。



カルデラはシヴァのことを鋭い目で睨みつけると大声で言い放った。

「この移民奴隷が!私の娘に話しかけるとは何事か!?」


カルデラの一言で祝賀会は静寂に包まれる。


ソフィアはカルデラの前に立ち反論する。

「父上、その言い方はないのでは!?」


「黙れ!お前はいつから私にそのような口を聞くようになったのだ!?」

カルデラはソフィアの頬を思いっきり抓る。


シヴァは咄嗟にカルデラの手を左腕で掴む。

「やめておくれ、カルデラ様。ソフィアは何も悪くない!」


カルデラはシヴァの手を払いのけると今日一番の声で怒鳴った。

「穢れた手で触るな!出ていけ!」


シヴァはカルデラに怒鳴られた瞬間、会場の外に向かって歩いていった。


「待って、シヴァ!」

シヴァの後を慌ててソフィアは追いかける。



追いかけるソフィアの手を誰かが掴む。



ソフィアが後ろを振り返ると、ユグレッド・クリスタルが立っていた。


ユグレッドはソフィアに優しく話しかけた。

「安心しな、ソフィアお嬢様。彼は私が責任を持って対応します」


ユグレッドはソフィアに一言伝えるとシヴァの後を追いかけて行った。







(リボン運河 橋の上)



シヴァは橋の欄干に両肘をついて星空を見上げていた。



そこに1人の男が近づいてくる。

「少年、そんなところで何してる?」


シヴァは男に向かって尋ねる。

「君は誰だい?」


男は煙草を咥えながらシヴァの隣に近寄ってきた。

「俺はレオの叔父、"ガードナー・スパーク"。世界一貴族が嫌いな貴族だ。見る限り、会場を追い出されたみたいだな?」


シヴァはガードナーに話した。

「そんなものさ。僕は移民、どこで生まれて誰が本当の親か分からない男さ。仕方ない...」


ガードナーはシヴァの背中を2度叩いた。

「仕方なくない。貴族だから偉い訳ではないし、人間の命は皆平等だ。でもな、善人にも悪人にも信じるべき道義ってのはあるんだ。"貴族は庶民より優れている"、恐らく追い出した奴の道義だ。そう考えると、ちっとは楽になるだろ?どうだ?」


シヴァはガードナーに笑みを浮かべた。

「うん、嫌な気持ちが薄れてきたさ。ガードナー伯爵」


ガードナーはシヴァに向かって手を差し出した。

「これからは"ガードナーおじさん"で構わない。また、いつでも相談に乗ってやる」


シヴァはガードナーの手を握った。

「うん、ありがとう。ガードナーおじさん」


ガードナーは煙草を運河に捨てると少し生えた髭を触りながら話した。

「おお、いいねえ!ガードナーおじさんも悪くない」




シヴァとガードナーが話しているところにユグレッドが走ってやってきた。

「シヴァー!どこだー!?シヴァー?」


シヴァはユグレッドの姿を見つけると手を大きく振った。

「ユグ姉ー!ここー!橋の上ー!」


「じゃあ、またな。元気で過ごせよ、シヴァ坊」

ガードナーは一言だけ言い残すと姿を消してしまった。



ユグレッドはシヴァの前までやってくると両手を両膝について息を整えた。

「はぁ...、はぁ...、ここにいたのか...。全く探したんだからな、慣れないヒールで走って...」


シヴァは頬を指が掻きながら謝った。

「すまないさ、貴族領地にいたら怒られると思ってさ...」


ユグレッドはシヴァの手を掴むと、ツカツカと歩き始めた。


シヴァはユグレッドに尋ねた。

「ユグ姉、どこにいくのさ?」


ユグレッドはウインクして嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「何って、帰るの。シヴァが抜け出してくれたおかげで社交辞令しなくて済んだ。ありがとう」



シヴァは所属するギルドの先行きが思いやられた。






シヴァとユグレッド、堂々帰還┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





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※狩人ギルド※


東の"ST(スノータイガース)"

...最も人気の狩人ギルド。歴史もあり、伯爵家であるスパーク家が運営する為、資金面も充実している。


南の"GK(ジャイアントキングス)"

...最も強い狩人ギルド。女子禁制のギルドで、屈強な男たちが集う。


西の"FQ(フェアリークイーンズ)"

...最も華やかなギルド。男子禁制のギルドで、伯爵家であるホワイト家が運営している。アイドル的人気が高い。


北の"DW(ドラゴンウォーリアーズ)"

...最も働く狩人ギルド。新設である為か人気が無く、実績も無い。一部ではDW(デビルウィーカーズ)(弱い悪魔たたち)とバカにされている。

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