第16話 再起、グラニカの決意
魔王の後継者と思われる襲撃者との戦闘から一夜明け、王立孤児院の半壊した廊下には、勇者セフィロと聖女ファーリア、そして、未だ茫然自失のグラニカが、部下のディルに支えられるようにして立っていた。
ディルや元教徒の職員が素早く避難誘導を行ったお陰で、シスターや子供たちは全員が無事で、襲撃者の姿すら見ていない。
セフィロとファーリアには、避難を終えたディルが、事前にパラドンが訪問した際に置いていった遠隔通信水晶で状況を伝え、朝方にはすぐに駆けつけてくれた。
「孤児院の子供たちに被害が出なかったのは幸いだったけど……凄まじい力だな」
セフィロが、瓦礫となった壁の破片を掴み上げる。
孤児院の外周を囲むような設計の廊下は、ちょうど昨日エンデュミオンが薪割りをしていた小屋のある側だけが、壁や天井がズタズタに切り裂かれたり、一部が完全に消失していたりと、昨夜の戦闘の激しさを物語っていた。
「グラニカさん、お辛いでしょうが、エンデュミオンさんをお救いする手掛かりになるかもしれません。昨夜のことをお話いただけますか?」
ファーリアは今にも泣き出しそうなグラニカを胸に引き寄せ、頭を撫でる。
彼女達は、かつての旅の中でも数少ない女同士ということもあって、他の仲間より心を許せる友人なのだった。
「ファーリア様、ごめんなさい……私、何にも出来なかった……エンデュが、転移を使ったのも、私のせいだ……」
グラニカは、昨日のことを二人に話した。
エンデュミオンが突然山ほどのショコラ持参で訪ねてきたこと、そして、襲撃者との戦闘中にエンデュミオンが言っていたことを。
「……エンデュの見立てだと、影を操る魔法を扱ってた。実際、閉じ込められたら私の本気でも破れない強度。間違いなく、相当の手練れだよ」
グラニカの鬼の力は、セフィロとファーリアも承知している。並の拘束魔法や、魔法壁ならばグラニカは問答無用で破壊できるので、それだけでも襲、撃者の魔法が強力だったことがわかった。
「影を操る……強力で、さらに魔王の系譜に関連があるとなれば、恐らく先々代の操影魔法でしょうか」
「なるほど、操影魔法か。確かに、先々代、つまり俺達が倒した魔王の先代が使っていたと聞いたことがあるな。エンデュミオンもそれに気付いていたから、魔王の後継者だと確信したんだろう」
先々代の魔王と共に術式の失われた
それを使いこなすことが出来るのは、それこそ魔王本人か、『魔王の証』によって力を伝承された後継者しかいないはずだ。
魔法の第一人者であるエンデュミオンはそこに気付いた上で、グラニカを守るために転移を行った。そうセフィロは結論付けた。
「でも、実体を持たない闇か。敵は、正体を隠して襲撃する必要があった……?」
そうだとして、その上で特徴的な古代魔法を使ったのは愚作だ。少なくとも魔王の側に属する存在だと、自分から証明したのだから。
「グラニカ、昨夜のうちに、エレナリアにも連絡はしてある。魔王宝玉から後継者を割り出すことができれば、エンデュミオンを探し出せるかもしれない。希望は、捨てないで欲しい」
そのセフィロの言葉に、しかしグラニカは未だ後悔の念を拭いきれない。
「エンデュ、最後、私に『悪く思うな』って。バカ…… そんなの、無理に決まってる……!」
だが、そこで挫けるような弱さはとうに捨てた。
グラニカ=シオンは力なき少女ではなく、簡単にすべてを諦めるほど弱くもないのだ。
「待ってて、エンデュ。あなたが何処にいようと……私達、必ず助けるから」
『時空転移』は全宇宙のどこかへ、文字通り時間と空間に係わらず転移する大魔法。エンデュミオンが今も生きている保証はどこにもない。
だが、そんなことは関係なかった。
何度も救われた恩がある。
殺しかけてしまった罪もある。
そして、抑えていた想いもある。
その全ての絆を手繰って、絶対に見つけ出す。
聖母となった暗殺者は、瞳に決意を宿し、再びその手に刀を握る覚悟をする。
魔王の後継者討伐、そしてエンデュミオン捜索の旅が幕を明けようとしていた。
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