第14話 再会、不屈の狂戦士
謎の襲撃者との戦闘、転移魔法『時空転移』により襲撃者を道連れに、どこともわからぬ異空間に跳んだエンデュミオン。
気が付くとエンデュミオンは奇怪な風景の街、2020年の東京へと転移していた。
言葉の通じぬ炎天下の都心で、熱中症により意識を失うも、声を掛けてきた女子高生によって病院に運び込まれたエンデュミオン。
そして、ベッドの上で目を覚ますと、聞き覚えのある声の男が病室に入ってきたのだった。
(………どうする、別に起きても問題はないはずだが、しばらく寝たふりを続けるか?)
原色のパーカーを着て、眼鏡を掛けた青年。
どう見てもリュノスケだが、この状況が全て敵の幻覚でないとも限らない。
判断する術がない以上、警戒を続けるのは間違いではないはずと、狸寝入りを決め込む。
しかし、エンデュミオンはリュノスケこと遠堂 竜之介の洞察力のを些か侮っていた。
『いや起きてるでしょ、エンデュさん』
(くっ、いや、これは鎌かけだ。呼吸を乱さず、目をしっかり瞑れば……!)
しかし、起きる様子のないエンデュミオンを前に、竜之介は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、ニヤリと笑う。
『エンデュさーん? おっと、これはまさか? 王子様ならぬ仲間のキスでないと起きないっていうアレ? たはー、惜しい! これがグラニカ殿だったら、拙者、迷わずマウストゥマウスで』
『貴っ様ァ!! そんなことをしてみろ、その黒髪、頭皮ごと炭にしてくれるぞ!!』
・・・・・・・・・・・・・・・。
安い挑発にまんまと激昂し、ベッドから飛び起きてしまったエンデュミオンに、気まずい空気が流れる中で、竜之介と澪奈の目線が鋭く突き刺さる。
「なーんだ、やっぱ起きてんじゃないすか~」
「起きてたね。ていうか兄貴、さっきからそれ何語で喋ってるの?」
竜之介の妹、澪夏には二人が話している内容がニュアンスでしかわからない。
それもそのはず、先程から竜之介が話しているのは、エンデュミオンのいた世界の公用語の一つ、東ガレオン語なのだから。
「
竜之介は、二人の会話が気になる素振りを見せる澪奈をなんとか宥めすかし、背中を押して家に帰らせる。
ここから先の会話は、あまり聞かせるようなものでもないからだ。
『まーた東ガレオン語を話す機会があるとは、正直微塵も思ってなかったんすけどね』
そう言って頭をかく竜之介の口許は、少しだけ笑顔だった。
竜之介が右拳を上げると、何も言わずともエンデュミオンも同じように拳を上げる。
『_______お久しぶりっす、エンデュさん』
『フン、私こそ貴様ともう一度逢うとは思っていなかったぞ』
二人は、真正面から拳をぶつけ合う。
勇者一行、その絆は三年が経った今も変わらずそこにあった。
『いやぁ~、なんか変わってないすね。でも、ちょい痩せました?』
『やかましい。貴様こそなんだ、その奇怪な色の服装は』
旧友との再会、これが世界を救った大魔導師と狂戦士の会話だと気付く者はいないだろう。
いつまでも旧交を温めていたい所ではあったが、互いにそろそろ本題に入らねばならなかった。
『……貴様がいるということは、つまりここは』
『ええ、ここは俺が元々いた世界。地球の日本って国、そこの首都 東京です』
エンデュミオンの想像は、どうやら当たっていたらしい。あの不可解な光は、転移魔法が発動した時に起こる、時空の歪みによるものだったのだ。
『どうやら、詳しい事情を話す必要があるな』
エンデュミオンは、魔王宝玉から消えた魔王の証、グラニカの孤児院に攻め入ってきた謎の襲撃者との戦闘について話し始める。
話終えるまで、竜之介は見舞い客用のパイプ椅子に逆向きに座り、背もたれに顎を預けながら黙って聞いていた。
『____これが、私が把握している情報全てだ。目を覚ました時には、一人でこの世界にいた。グラニカが無事だと良いんだが……』
転移の直前、グラニカから向けられたのは、エンデュミオンを引き留める言葉だった。
あの時は、もう戻らぬことを覚悟していたが、こうなった以上はグラニカの安否を確かめるまでは帰還を諦めるわけにはいかなかった。
『"時空転移"で戻れる、わけじゃないんすよね』
『ああ、"時空転移"は一種の賭け。元より、自分ごと相手を異次元へと消し飛ばす為の魔法だ。こちらの世界から行き先を選ぶことはできない』
魔法は、大気中のマナからも魔力を引き出すことで発動させるが、こちらの世界は向こうとくらべて極端にマナ濃度が低いという事情もある。
小規模魔法ならともかく、転移魔法のような大規模なものは、エンデュミオンの持つ魔力だけでは到底足りないのだ。
『だが、貴様と会えたのは本当に幸運だった。私が、この世界に跳んだのも何か意味があるのかもしれない。頼む、リュノスケ。どうか私と、元の世界へ戻る方法を探してくれないか』
エンデュミオンが頭を下げる。
あの自信過剰、ナルシスト、人間ごときに頭を下げるなんて考えられない高慢ちきな大魔導師の頼みを断れるほど、竜之介は非道ではなかった。
『へへっ、水くさいっすよ、エンデュさん。俺らの仲じゃないすか。それに魔王に関係あるなら、俺も無関係じゃない。見つけ出しましょう、帰る方法』
おそらく、魔王の後継者はグラニカとエンデュミオンのどちらかを狙っていたはずだ。
万が一、魔王の後継者がエンデュミオンより先に元の世界に戻った場合、グラニカが危ない。
『おお、すまない……私は、お前のことを誤解していたのかもしれない、ぐすっ、ふふ、私としたことが、目の前が霞んで来た……』
竜之介が照れ臭そうに差し出した手を、エンデュミオンはしっかりと握る。
かつてのささいないざこざから、竜之介に微かな苦手意識を持っていたことをエンデュミオンは悔いた。
だが、エンデュミオンはこの時忘れていた。
遠堂 竜之介、この男の二面性を。
不屈の
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