第5話 化け物


 ザシュッ。


 短刀が化け物の髪を切り、切り離された白い髪が、重力に従ってハラハラと地面に落ちる。


「ぐが......」

「おばば様! これが私の正義です」


 子どもと化け物の間に立ち塞がった遥に動揺したのは、集落の人間だった。

 遠巻きに見ていた彼らは、絶望の表情で遥に向かって叫ぶ。


「お嬢ちゃん、こいつには敵わない......っ」

「無理さね......っ!」


 残念ながらその忠告は遅かったらしく、遥の目の前にいる化け物は、歯を剥き出しにして遥に敵意を向けた。


 しかし、化け物は遥に襲いかかるどころか、何故か、少しずつ、ジリジリと後退していく。

 地面に落ちていた化け物の髪が、ボッと燃え上がり、そのまま灰に変わって消えていった。


 化け物と遥の睨み合いが続く。

 お互いに、お互いの出方を伺っている。

 集落の人間は、もしかしたら、という淡い期待と、行方がわからない未来に恐怖しながら、二人の様子を見守っていた。



 グシャ。



 その拮抗状態を破ったのは、どこからか現れた鎖だった。

 鈍く光る鎖が化け物の身体に巻き付き、限界まで化け物の身体を締め付ける。

 ボキボキと骨の折れる鈍い音がし、化け物は、苦しそうな声を喉から絞り出して吐血した。

 地面に吐かれた血が、火を上げて消えていく。


「理性が残っていたようだな」

「はい、ボス。拷問いたしますか」


 それを行ったと思われる人物が、遥たちの目の前に姿を現した。


 一人は、化け物を締め上げている鎖を片手に持った綺麗な女性だ。姫カットの黒髪ロングヘアーで、何故か首輪をしている。

 黒ミニスカートに網タイツ、黒ブーツと、全身黒い服を着ており、真っ白な肌が異様に目立っていた。


「いや、拷問はいいだろう。そのまま殺せ」


 もう一人は、両手をジーンズのポケットに突っ込み、薄手のコートを肩を出して着ている、高身長の格好いい女性だった。

 へそ出しのノースリーブで、抜群のスタイルを見せつけている。

 腹筋はうっすらと割れているのがわかった。

 髪はウルフカットで金髪に染めて、メガネをかけている。


「御意」


 黒髪の綺麗な女性がそう返事をする。

 すると、鎖が物凄く強い力で引き締まり、捕らえられていた化け物は、絞られた果実のようにグシャッと潰れた。

 化け物は絶命し、その身体から火を上げて灰になっていく。

 鎖は、化け物の全身が灰になったと同時に脆く砕け散った。



「......何を見ている。子どもは助けなくていいのか」


 静寂を破ったのは、金髪の女性だった。

 金髪の女性の言葉を聞いた集落の人間は、慌てて張り付けにされた子どもを介抱しにいく。

 遥は、急に現れた女性二人にどう対応して良いのか分からず、ただただ短刀を構えることしかできなかった。

 そんな遥を見た黒髪の綺麗な女性は、目を吊り上げて遥を睨む。

 綺麗な女性だが、三白眼の目で睨まれると怖さが倍増だった。


「まあまあ、そう睨むな。綺麗な顔が台無しだぞ」


 金髪の女性は、黒髪の女性の頭をポンポンと撫で、一歩遥の方へ近付いた。


「ぐへへ、ぐへへへ」


 黒髪の女性は顔を真っ赤にして喜んでいる。

 遥は、黒髪の女性が残念な人なのだということを理解した。


「巫女装束を着ている君」


 金髪の女性は、遥に向かって話しかけた。

 「何ですか」と遥が首を傾げると同時に、金髪の女性は遥に何かを放り投げる。

 遥が危なげなくそれを受け取って確認すると、それが白い石の付いたネックレスだということが確認できた。


「それを付けてくれないか。害をなす物ではない」


 遥はよく分からなかったが、突然現れた女性二人が悪い人では無いと思ったので、ネックレスを付けることにした。

 それと、ネックレスは遥の趣味と合っていた。


「ああ、ありがとう。それと、子どもを介抱している人間。幸いなことに重症ではない。出血も眉が切れているから実際より派手に見えるだけだ。しかし、そうだな。心配だと言うのなら、念のため、今日は安静にさせて様子を見た方が良いだろう」


 子どもの血を拭っていた女性は、金髪の女性の言葉を聞いて泣いて「ありがとうございます」と何度もお礼を言っていた。

 他の集落の人間も、遥と女性二人に口々にお礼を言う。





 その日の夜は、遥と女性二人は、集落の人間と一緒に広場で食事をした。

 集落の人間は、あの化け物がいつ来たのかを話してくれた。



 この集落には、昔から、動物などの生け贄を山の神に捧げる儀式があったらしい。

 捧げた動物は集落の人間のご飯になっていたので、一種の祭りのような感じだったそうな。


 それがある日突然、神を名乗る化け物が現れ、人間を要求するようになった。

 あの化け物が喋ったのかという衝撃が遥を襲ったが、彼らが話す感じだと、昔はもう少し知性があったようだと遥は感じた。


 化け物は、生け贄を貰うと、集落の田んぼや畑を獣から守ってくれたそうな。


 遥は今回の事件を通じて、おばば様が知らない事も世の中には存在するのだということを学んだ。

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