第6話 都会


 エンジンの振動が遥の身体を小刻みに揺らす。

 遥は、生まれて初めて車に乗っていた。

 運転席には金髪の女性が、助手席には黒髪の女性が乗っているため、遥一人で後ろの席を使用していることになる。


 実は、昨夜、集落の広場での食事の後、遥は金髪の女性から雇用の話を持ちかけられ、仕事を提供してもらうことになったのである。


 その仕事とは、集落で遭遇した化け物、すなわち鬼を狩って人間を守る仕事だった。



「ボス。自己紹介がまだだと思われますが、いかがなさいますか」


 今まで黙っていた黒髪の女性が、金髪の女性にそう進言した。


「ああ、そうだったな。失礼、巫女装束の君。私はしがない便利屋の社長をしている。実際は鬼退治だから、これは表向きの話だがね。便利屋N。従業員は君を入れて六人だ。私のことはボスかリーダーとでも呼んでくれ」


 金髪の女性、通称ボスは、自分の名前は名乗らず、前を向いて運転しながらそう言った。

 黒髪の女性が続いて話す。


「ウチは一ノ瀬凛。ボスの秘書みたいなことをやってる」


 凛は、ーサイドミラー越しに遥を睨みながらそう言った。

 凛の目はつり目で黒目が小さいため、遥はボスとは違った威圧感を凛から感じた。


「私は、遥です」


 遥は縮こまりながらそれだけを言う。

 凛は鼻を鳴らしながら、それ以上は何も言わずに遥から目線を逸らした。

 遥にとっては気まずい時間が流れる。



「遥君。家事は得意かな?」


 しばらくした後、ボスが唐突にそう尋ねた。


「えっと、はい。山で暮らしていたので得意だと思います」


 遥はおばば様に教えられていたので、木の実の採集や狩猟、川での洗濯や掃除などは全て出来るのである。

 しかし、それが人間の文明かと言われたら甚だ疑問であった。


「なるほど。では、家電の使い方は凛に聞いてくれ。わからないことがあったらメンバーの誰かに聞けば教えてくれるだろう」

「わかりました」


 その後は、特に誰も何も話さずに時間だけが進んでいった。

 遥は、車の窓から外の景色を眺めながらボーッと過ごした。


 田園は街に、街は都市へと変化していき、車は高層ビルが立ち並ぶ都会へと辿り着く。


 途中でボスが車をどこかに預けたので、数十分は歩かなければならなかった。


 都会を歩くボスの後ろを、遥は着いていった。





「着いたぞ」


 ボスがそう言った時には、すでに日が暮れていた。


「ここが“N”だ」


 それは、高層ビルの間の路地裏を進み、少し奥に行った場所にあった。

 普通の人が気軽に入れるような雰囲気の入り口ではない。


「ウチらは声を大にして言えるような職業じゃないからね。今どき鬼退治なんて、桃太郎かっての。一般の人に話したら馬鹿にされるから便利屋っていう程を装ってるだけよ。だから、あんたもそうした方がいいわ。ってか、しなきゃ吊るし上げるから」

「凛君。説明感謝する」

「至極光栄です、ボス」


 鬼退治だなんて非現実的だと思っていた遥だったが、実際に化け物に会った上に、鬼狩りの組織まで存在していることを知った以上は嫌でも信じるしかなかった。

 もともと疑っていたわけではないが、信じ切れていなかったのも事実だった。


「これから、よろしくお願いします」


 Nの入り口を前に、遥は二人に頭を下げた。

 ボスから貰ったペンダントが、遥の首元でキラリと光る。


「こちらこそ、遥君のような勇敢なメンバーを迎えられて嬉しいよ。一緒に鬼を駆逐しよう」


 ボスは、自信に満ちた声に僅かな悦を含めながら遥を歓迎した。

 凛は、気に食わなさそうに遥を睨むも、何も言わずに顔を逸らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます