第8話バイト先で


 「「ごちそうさま」」


 「後片付けは、こっちでやっておくから、遊んできていいよ。」


 「いいよ、私も手伝うから。」


 「いや、料理してもらったんだから、このくらいのことは、僕にやらせてよ。」


 そういうと、遠山さんはしぶしぶ


 「わかった。ありがとう。」


 と言ってくれた。


 食器を洗い終えると、そろそろバイトに行く時間になった。


 「遠山さん、僕バイトの時間だから、出掛けるけど、これこの家の鍵だから、無くさないのように、気おつけてね。」


 「わかったよ。行ってらっしゃい。」


 「……行ってきます。」


 久しぶりに、言われたな。何ヶ月ぶりくらいだろう。




 いつもどうり、バイト先に着いたらか、店長に挨拶しようとしたら、店長がとてつもなく落ち込んでいた。


 「店長今来たんですけど、なにかトラブルでもありましたか?」


 「あぁ、篠原君か。いやね、昔君がバイトの面接にきたとき、娘がいるって言っただろ。」


 「確かに、僕と同い年の娘さんがいるって、聞いた事ありますけど。」


 「その娘が、今日から男の家に入り浸ってるんだよ。」


 「男の家って、彼氏ですから?」


 僕の家とは、反対だな。僕は、入り浸られてるって感じだし。けど、彼女じゃないんだよな。


 「多分そうだと思うよ。」


 「よくそんなことを、わかりましたね。」


 「娘が昨日、言ってきたんだよ。明日から篠原って子の家に行くって。そういえば、君も篠原だったよね。」


 「篠原ですけど、彼女なんていないですよ。欲しいとは、思いませんし。」


 同じ苗字なのか。


 「だよね。君に限って、彼女なんて作ろうとは、思わないだろうから。」


 「反対しなかったんですか?」


 「初めての娘のわがままだから、あまり反対はしたくないんだよ。それに、妻なんか「私の子に春が来たー」って、大はしゃぎしてたからね。」


 「反対しようものなら、私は今日ここにいないよ。」


 ここにいないって、殺されちゃうの!?


 「そ、そうですか。なんて言うか、怖いですね。」


 「君も気おつけた方がいいよ。女って生き物は、一見か弱そうに見えるけど、ほとんどの家庭は女が牛耳ってるから。」


 「なんか、生々しいですね。」


 「そういう世界なんだよ。家庭って言うのは。」


 なんだか、嫌だな。


 「だから、君はそんな女に、捕まらないように、気おつけなさい。」


 「わかりました。」


 「おっと、バイトの時間だったね。すまないね、こんなことを聞かせてしまって。」


 「いえいえ、そんなことないですよ。では行ってきます。」


 女ってやっぱり、怖い生き物なんだな。遠山さんは、そんな女じゃなきゃいいんだけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る