第4話名付け


 「お邪魔しまーす。」


 「どうぞ。今は散らかってるけど、我慢してね。」


 「いいよいいよ。上がらせてもらってるのは、私なんだからね。ねぇねぇ、猫ちゃんってどこに居るの?」


 「猫? 猫なら、そこの部屋にいるよ。」


 「なら、猫の世話してくるね。」


 あーあ、いっゃったよ。片付けの手伝いをしに来たんじゃ無かったっけ。


 よっぽど、猫が好きなんだな。


 仕方ないから、1人で片付けるか。本当は、1人でするつもりだったし。


 それにしても、酷い有様だな。よく見れば、椅子の脚も引っかかれてるよ。




 ふぅ、やっと終わったな。そういえば、遠山さんはどうしたんだ? かれこれ、30分くらいたったと思うけど。様子を見に行くか。


 「遠山さん、入るよ。」


 「えっ、あ、篠原くん? どうしたの?」


 そこには、子猫と遠山さんが買っておいた、遊び道具で遊んでた。


 「いや、30分くらいたったけど、片付けてる間、1回も出てこなかったから。」


 「あっ、そういえば片付けの手伝いできたんだった。ごめんね、忘れてて。」


 「いいよ。猫の面倒を見てくれてたんでしょ。そんなことより、よく猫と遊べたね。」


 「えっ? なんで?」


 「だって、その猫、僕が道具で遊ぼうとしても、ゲージどころか、段ボールからも出なかったんだよ。」


 「そんなことないよ。私が来た時は、ゲージを開けただけで、よってきたよ。」


 美人って、猫にも好かれるのか。すごいな、美人パワーってやつは。


 「それでさ、この子の名前って、もうつけちゃった?」


 「まだだよ。僕って、名ずけるセンスがないから。」


 「へぇー、例えばどんなの?」


 「吾郎」


 「えっ? ごめん、もう1回言ってくれない?」


 「吾郎とか四郎、などなど。」


 「あはは、それは、さすがにないよ。いつの時代の、名前よ。」


 「そういうなら、遠山さんがその猫の名前、考えてあげてあげたら?」


 「そうだね。どんな名前が、いいとかあるかな?」


 「呼びやすい名前なら、何でもいいんじゃないかな。」


 「そうだね。外見が真っ白だし、真っ白だから、真白とかでいいんじゃないかな?」


 「安直だね。」


 「あはは、何か言ったかな? 篠原君?」


 こっわ。目からハイライトがなくなってるよ。


 「イエナンデモナイデス。」


 「そう、それならいいよ。まさか、名前をつけてもらってるのに、文句言うわけないもんね。ねー真白。」


 「ミャー」


 真白、お前はどっちの味方なんだ? 飼い主よりも、そっちを取るっていうのかよ。


 「ほら、真白もこの名前、気に入ってるって、言ってるよ。」


 「そっか、なら名前は、真白で決定だね。」


 「そういえば、遠山さん帰らなくてもいいの? もうそろそろ、7時になるけど。」


 「えっ、もうそんな時間なの? 早く帰らないと。」


 「なら、自転車でおくろうか? そっちの方が、早いだろうし。」


 「大丈夫だよ。だって、私の家ここから、結構近いから。」


 「そっか、なら送ってかなくってもいいかな?」


 「ちーがーうー。そこは、『暗くなるから、僕が送ってくよ。』って、言うところでしょ。」


 「そうなんだ。なら、送ってくよ?」


 「なんで、そこで疑問形なのよ。けど、ありがとうね。」


 うっ、笑顔が、まぶしい。


 「なら、早く行った方がいいよね。」


 「そ、そうだね。早く行こうか。」


 「そうだ。ねぇ、また遊びに来てもいい?」


 「えっ、他の友達とかと遊ばないの?」


 なんで、1人暮らしの男の家に、来ようと思うんだ?


 「うん。だって、いつも遊ぶとき、学校の男子が、いっしょに来て、よく口説いてくるんだよ。もう、逆に気を張って疲れるんだよ。」


 「なんだか、大変そうだね。」


 「大変そうじゃなくて、大変なの。だから、真白に癒してもらおうかなって。」


 「そうなんだ。なら、午前中に来なよ。午後は、バイトがあって、よく家にいないから。」


 「えっ、なら真白って、午後一匹のなるってこと?」


 「そうなるね。」


 「なら、篠原君が返ってくるまで、待っててあげるよ。」


 男の帰りを、家で待つって、もう夫婦がすることじゃん。


 「いいよ、それは遠山さんに悪いし。」


 「大丈夫だって、こっちの方が、勉強もはかどりそうだし。」


 「そ、そっか。」


 なんだか、夏休みが大変なことに、なりそうな予感がする。

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