第5話 波乱しか無い日

「なるほど……この世界でも、そんなゲームみたいなシステムがあったのですね……!」


「いやー、まさかカウちゃんだったとは!ギルドで一番つるむお前と再会できて僕も嬉しいよー!」


ゴリラを倒し終わった私達は、進化前に、スキルやレベルの概念等を、スズネさんとぼっちゃんに教えていた。


私とぼっちゃんは、pack of wolvesでもビビラーコンビとして知られる程いつも一緒にいたので、ギルド内では特に仲が良い方だ。そのためか、さっきまで生まれたての小鹿みたいだったぼっちゃんも、今はすっかり上機嫌である。


「全く調子良いな~。ま、それは良いや。それで、みんな何レベルに上がったんですか?私は13まで上がって、余裕で進化可能ですよー!」


「フッフッフ、アタシはピッタシLv10だよ!だからアタシも進化オッケー!」


「私もLv11まで一気に上がりましたね。進化可能、みたいな声も聞こえました。」


「僕は……まだLv8……だったかな?そんな声が聞こえたかな。」


ふむ、じゃあぼっちゃん以外はみんな進化可能……か。


「それじゃあ、さっそく私は進化しよっかな!ゴールドさん並みに早く大きくなりたいな~。」


「ちょっと待った!みんな、一つ聞いて欲しい。」


進化を試みようとする私を引き留めるゴールドさん。どうしたどうした?


「どうしたの?強くなれるなら早くなった方良いんじゃない?そうすれば僕も助かるし。」


「いや、この進化には一つ難点があってね、進化が始まると、途端に意識を失っちゃうんだよね。アタシは前それを知らなくて、適当な獣道で数時間は眠ってたかも。」


………この人また大事なことを言い忘れてないか……?


「え、まじですか?」


「なるほど、それで私達が一度に進化すれば、動けるのはぼっちゃんのみになってしまい、万が一他の魔物に襲われでもしたら、ひとたまりも無いですね。」


「そんなことなったら、僕誰も守れないからね!!!」


何故か誇らしげな顔をしているがそれは誇れることじゃあ無いぞぼっちゃん。


「まー、そういうわけよ。てことで、進化は1人、もしくは2人ずつ行った方が良いよ。」


「そっか、なるほど……。」


「ならば、私は最後で構いませんよ。進化途中の警戒は私がしておきます。幸い、先程のレベルアップで体も幾分か軽くなりましたので、いつでも皆様をお守りすることができます。ですので、ここはどうか、お二人が進化を始めてください。」


「けど、もし魔物が来たら……。」


「分かった、じゃあ頼むよスズネちゃん。カウちゃん、アタシ達は進化しとこう。戦力アップは大事だよ~!てことで、お休み!」


それを言い終えたあと、進化を試みたのだろう、ゴールドさんは、フッ……と倒れこんだ。


一瞬不安になったが、すぐに寝息が聞こえてきた。ふむ、それじゃあスズネさんに甘えて、私も進化しようかな……。


えーと、どうすれば良いんだ?進化したいです進化したいでーす!


適当に心の中で進化したいと唱える。すると声が聞こえてきた。


『レベルが一定以上に達しています。そのため、進化が可能となっています。実行しますか? Yes/No』


もちろんYes!


『進化の願いを受諾しました。個体名:カウワード は、種族フォレストウルフから、グレーターフォレストウルフへの進化を開始します。』


その声が聞こえると、すぐに目の前が真っ暗になり、急に眠気が襲う。へぇー……これが……進化の………感覚………………か…………………。






……………………は!そして、私は目を覚ました。すると、体が一回り大きくなっていて、眠る前よりも、体も軽い感じがする。


ステータスを解析したいところだが、それはスズネさんが進化を終えてからにしよう。どうやら、先にゴールドさんが先に目覚めていたようで、すでにスズネさんは進化による眠りについていた。


「おお!すごいな!カウちゃんが大きくなった!ゴールドさんは……なんか一回り小さくなった……?」


あれ……たしかにそうだな。今の私よりちょっと小さいような……?


「フッフッフ、まあ、あるすごい進化を遂げたからね!まあ、これはスズネちゃんが起きてからのお楽しみにしてもらおっかな!」


ムムム?何を隠してるんだ……?まあ良いや。とりあえず、スキルポイントもまあまあ余ってることだし、スズネさんが起きるまでは、自分のスキルでも見直すとするか……。




そして数時間は経っただろうか、もうすぐ明け方というところ、スズネさんが目覚めた。


進化途中の人を見るのは中々面白かった。目覚める直前まではなんの変化もないのに、目覚める直前で突然光だし、グレーターフォレストウルフとなったスズネさんは、みるみる大きくなったのだ!


いやぁ、自分もこうなっていたのかーと思うと、生命の神秘だなぁ~って感動するね。


「おはようございます。これで、進化、できたんですかね?」


「うんうん、スズネちゃんもばっちし大きくなってるから、ちゃーんと進化してるよー!」


「ねえねえーゴールドさぁん、スズネも起きたんだから、さっき言ってたお楽しみっていうの教えてよー。」


「あ、そうだそうだ、私も気になってた。教えて下さいよー。」


「フッフッフ、まあまあそう慌てないの。じゃあ行くよー!」


そう言ってゴールドさんは目を閉じ、じっと立つ。すると、なんとゴールドさんがゆっくりと、で立ち上がったではないか。


そして、進化の時の発光より少し暗く体が光り……みるみる全身が変わっていく。そう……人間の体に……人間のから……だ………あ……。


「じゃーーーん!!!どうだ!アタシは今回の進化で、ワーウルフ!つまり人狼に進化したから、念願の人間の姿にも変化できるようになったのさ!良いだろーう!どうだ驚いたか!」


ワーッハッハッハと高笑いするゴールドさん。その姿を見て、私とスズネさんは思わず目を逸らす。


「ん?どーしたカウちゃん、スズネちゃん。なんで後ろ向いちゃったの?」


そして、ぼっちゃんはすこーし顔を赤らめながら、ゴールドさんに指摘する……。


「に……人間にまた変われるなんて、そりゃすごいねぇ……!すごい……けど……ゴールドさん……自分の体を良く見てみなよ……?」


「え……?アタシの体……?」


「長く狼やってたから、感覚が違うから気づかなかったんだろうけど……ゴールドさん、今なんも着てないよ………?」


そう、私とスズネさんが目を逸らした理由、それは……人間体に変わったゴールドさんは……なんも服を着ていない、つまり素っ裸だったというわけで………。


「あ………ああ……ああああ………キャアアアアア!!!!!」


ゴールドさんにしては珍しい、女性らしい悲鳴が森中に響いたのは、言うまでも無いことだった……。


























叫んだあとのゴールドさんは、すぐに狼状態に戻り、しばらく隅っこで、一人プルプル震えていた。


珍しいゴールドさんの姿を見て、実はちょっと笑いそうなのは黙っておこう。


え……?なんでぼっちゃんはずっとゴールドさんを見れていたのかだって?だってぼっちゃんは女の子ですから。ええ、そりゃあもうまじもんのボクっ娘です。


今は私とスズネさん、ゴールドさんぼっちゃんで2:2の男女比である。


「ご……ごめんねゴールドさん!僕がすぐ言わなかったから……!」


「いやあ、私もまさかこういう人外定番の、進化直後の全裸状態っていうお約束を忘れていたのは悪かったからさぁ………。機嫌直してくださいゴールドさん、幸い私もスズネさんも、すぐ目を逸らしましたし。」


「うるさいうるさい!!一瞬でも 男に裸見られたのなんて彼氏と父親以外では初めてなんだから恥ずかしいに決まってんじゃんか!!!」


「ゴールドさんって意外と乙女ですよね。普段はそういうの気にしなさそうな雰囲気ですけどね。」


「ねー、普段は男勝りでハイエナ切り刻んでる人なんですけどねー。」


「まさにギャップ萌えってやつなのかな?」


「あんたら……ここぞとばかりに言いたいことを……!」


仲が良いからこそできる励まし方、これがpack of wolves流です。


「まーそれよりもですよ。要はグレーターフォレストウルフの次の進化が、ワーウルフになれるってことですよね。そうなると、俄然レベルアップモチベーション上がるんですけど、結局自分らも裸のまま人間体になるってことですよね?そうなると、衣服の調達が……。」


「糸と針と布があれば……。」


「ん……?なんか言ったぼっちゃん?」


「糸と針と布さえあれば……簡単な手縫いなら僕できるよ……?」


「え、ほん……。」


「ほんとに!?ぼっちゃんできるの!?」


食い付きはええなおい。


「うぇ!?う、うん、できると思う…。」


「ああ、たしかに、ぼっちゃんがオフ会で着てたゲームでのぼっちゃんのアバターのコスプレ、あれ全部自作でしたしね。」


「まじで!?あの凝った衣装手縫いなんだ!」


さすがボッベルって名前なだけあるな、手芸のプロだったか、ぼっちゃん……。


「けど、それこそ、この辺り一面ジャングルの世界で、糸と針と布を用意するのは、かなり難しいのでは?」


「そこはアタシに任せな!手芸道具と素材はアタシがなんとかするわ!あんたらは、さっさとレベルアップしてワーウルフに進化しちゃいな!」


この人、さっき隅で赤い顔してプルプルしてた人とは大違いだな……。まあ良いけど。


「ま、ゴールドさんがそう言うんなら良いんじゃないんですか?じゃあ日暮れにまたこのキャンプ地に集合で、さっそく行きましょうよ。時間がもったいないです。」


「て言っても、僕たち特に時間制限ある目標とか無い気がするけどね~。」


「まあでも、時は金なりですよぼっちゃん。それではゴールドさん、私達は先に行かせてもらいます。またここで落ち合いましょう。」


「ほーい!んじゃアタシもさっそくしゅっぱーつ!デュア!」


調子いいな~、何がデュア!だよ……。こうして私達は、手芸用の道具&素材探しのゴールドさん、レベルアップを兼ねた狩り班の私達に別れ、行動することとなった。






















さーて、お掃除お掃除~♪と言いつつも、実はまあまあ強い敵と戦っていた。

この前の巨大ゴリラのしたっぱ的存在、ただのアルムコングの群れである。


こいつら、進化系のグレーターに比べたら、ステータスは全然弱くて、ぼっちゃんでさえ魔法無しでまともに戦えるという始末。


そうそう、そのゴリラを解析して分かった。

解析で見れる説明が、結構詳しくなっていたのだ。


『HP:ヒットポイント、その者の体力の略称。』


こんな感じだったのが………!


『HP:ヒットポイント、その者の体力の略称。この数値が0になった時、その個体は死亡する。』


これでそのスキルがどういう効果をもたらしてくれるのかとかが多少分かるようになった。(完全では無いんだよね……。)


そしてもう一つ、危険度というものが分かるようになっていた。

ステータスやスキルを解析した結果、その対象がどれ程やばいのかを、F~SSSまで簡単にランク付けしたものらしい。


いやSSSて……そんなん来たら間違いなく死ですやん……。


ちなみにゴリラ共は危険度D、まあまあって感じ?

ぼっちゃんもおんなじくらいだろうか?でもスキルも含めて判断するしなぁ~。後で解析してみるか。


そんなこんなで着々とレベルアップを進める私達、もうすぐ日暮れだし、そろそろ帰るか~と、キャンプ地に向けて出発しようとした時だった。




本当に、突然だった。




ほんの少し、ストンと、着地する音が聞こえた程度だった。


ここにいる三人全員の、敵影探知、気配察知共に引っ掛からず、気配を消してこちらに近づいた存在が、恐らく今後ろにいると思われる。


グレーターになると使えるようになる威嚇なんか目じゃない。


その存在が発するプレッシャーは、並々ならぬものじゃない。





見たくない。




振り返りたくない。




けど、私はそれを見る義務がある。




この中では、私しかステータスを見ることができないのだから。


攻撃はされていない、じゃあ、ゆっくり振り返っても大丈夫?


そうして、恐る恐る振り返った時、私の視界にいたのは、真っ黒な目をした、人型で赤髪の獣。

じっとこちらを見つめて立っていた……。


あれは……ワーウルフ……?

とにかく解析をしないと……!


そうして、スキル『解析』を発動する。


しかし、私の頭に流れ込んだ声は、極めて非情なものであった。


『解析に失敗しました。

これにより、対象の情報を獲得できませんでした。』


!?この世界に来てついにきた……解析不能の相手……!


いや待て!怯えるなカウワード!お前の頭は何のためについている!



考えろ!この状況の最適解!



ワーウルフなら言葉通じる?



和平交渉が望ましい……けど何か気にくわなかったのか明らかに表情が険しくなってる!



どうするどうするどうするどうするどうするどうする!!!!!



今までの死の恐怖とは段違い……!

確実にどうにもならない恐怖……!

万が一にもなにもできない!

私達の生殺与奪は、あのワーウルフに委ねられてる……。



しばらくこっちを睨んだワーウルフは、私達のキャンプとは反対方向に向かって去って行った。

ものすごいスピードで…………。



そのワーウルフが去った安堵からか、私ははぁ~と息をつく……。

息をするのを忘れていたようだ……。


スズネさんとぼっちゃんを見ると、スズネさんは青ざめながら震えていた。ぼっちゃんは、涙を流しながら座り込んだ。


なんだったんだあのバケモノ……。

少なくとも、確実に格上。巨大ゴリラなんて一捻りだろう。


なんとなく、解析みたいに相手の情報を覗くスキルがあるなら、それを妨害するスキルなり魔法なりあるだろうと予測はしていた。


だから、解析失敗には何の疑問も持たなかった。


ワーウルフが去って数分が経つ。私達は、誰一人として行動を起こす者はいなかった。


未だに、死の恐怖を切り抜けた余韻で体に力が入らないのだ。


もう少し、もう少しだけ休ませて。



























数時間が経った頃だった。

予定していた素材も、それっぽいのを見つけ、アタシのテンションはそれなりに上がっていた。


これで帰れば服、服ができるぞ~!ようやく大の字で眠れる日が……!

と、ここでアタシは重要なことに気づいた。


あれ……?でもこれ結局、ぼっちゃんがワーウルフになって人間体に戻らないと、手芸なんてできないんじゃ……?


そうだよ!あんなモフモフと鋭い爪しか取り柄無い腕で手芸なんてできるわけないじゃん!てことは……これ素材持ち帰ってもすぐ人間体生活~!とはいかないわけか……。


アタシのテンションは少し下がった……。(._.)


そんな悲しい事実に気づいた時だった。

急に、目の前の景色がグニャリとネジ曲がった。

といっても、360°全部ではなく、目の前だけ。

これは…………こういうファンタジーでよくあるチート、空間魔法とかいうやつでは……!!


てか、え?空間魔法だと?まさかカウちゃん達一行の誰かが取得した?それとも第三者?

いずれにしろ、強い奴が現れるには違いない……!警戒してアタシは距離を取る。


答えは後者。


歪んだ空間から出てきたのは、明らかにただ者ではないような雰囲気を醸し出している白髪の男が現れたのだった……。


「やっほ~♪君が、例の狼ちゃんかな~?」


なんだ?このチャラいお兄ちゃんは……?その後に続き、二本の角を生やした男がやってきた。


ヤギと牛の角足して二で割った感じか?完全にファンタジーの魔族って感じだな……。


この世界に来て強くなったからだろうか?なんとなく魔力というか、相手のパワーみたいな流れを大まかだが感じることができる。


この二人の男を見て分かる。どちらもアタシより格上だな。


特に手前の白髪チャラ男。後ろの角男でも、昨日の巨大ゴリラと比べたら倍以上強いと思うんだけど、チャラ男は別格。


底が見えない。


けど、殺意は全く感じない。むしろ親近感が湧く程フレンドリーな雰囲気だな……。


「何者?」


けれど警戒は解かない。当たり前でしょ~?

こちとら一応ギルドのマスターやってんだから。日々ギルドに送り込まれるスパイとライアーゲームしてんだっつの!


このチャラ男がいつ豹変してアタシを襲うかなんてわからないんだし、いつでも全速力で逃げる準備はできているのだ。


こちらが警戒しているのが分かってか、チャラ男は残念そうな顔をしながらしゃべる。


「はぁ~そんな警戒しないでよ~。別にまだ君達を殺せっていう命令が出たわけじゃないんだからさ~?」


まだってことは出る可能性あんじゃねえかこのやろう!

てか、君達って……カウちゃん達のこともバッチリ把握済みですか……。


アタシはより警戒を強めチャラ男を睨み付ける。


ここで、角男がやれやれといった雰囲気で話し出す。


「やれやれ、これじゃあ話しが進まなそうなので我から説明させていただこう。端的に言うとだな、我々はお前らを勧誘しに来たのだ。」


「………勧誘?」


「そ!勧誘!俺たちはね~、魔王軍からの遣いなんだよ~!ちなみに俺、お偉いさんだからね~。偉いんだぞ~!逆らうなよ~!」


「要約すると、この魔王軍の一員として、お前らも加入しないかと言うことだ。ちなみに、お前らの中ではお前が一番強いということでお前に接触させてもらった。魔王軍は実力主義だからな。」


チャラ男は放って置くとして、聞き捨てならないワードが出てきたな。

魔王軍。つまり、魔王がいるってもう決定したわけだ。

やっぱそういう世界か~、まあスキルやレベルあった時点で分かってたけどね~。


しかしなんでだ?いきなり見知らぬ狼の群れをスカウト。

しかも、実力主義の魔王軍に。アタシ達多分そこの角男にも敵わないんですけど?

と、日が暮れてきたな。そろそろキャンプにみんなも戻ってくる頃だな……?そうだな……。


「…………場所を変えて良いか?アタシ一人じゃ判断しかねる。仲間の意見も聞いておきたい。」


「うんうん、そうだねそうだね!ちゃんとみんなで話し合った方が、大抵はよくなるよね~!」


「………良いだろう。案内しろ。」


うーむ、見事なまでにダメ上司と、それを完璧にフォローする後輩の良い例だな……。やりづらい。

とりあえずだ、みんなの意見を聞く為にも一度キャンプ地に戻ろう。

さて、どうしようかなぁ……てかこれ、拒否権あるのか……?




















「やばやば、もう日暮れだ!急いで戻らなきゃ!」


「少し急ぎましょうか。」


さっきの出来事で、だいぶ動けなくされたけど、なんとか立ち直り、私達はキャンプ地に動き出した。


ぼっちゃんも、落ち着いてきてはいるけど、しゃべってはいないな……。


心配ではあるが、今は立ち直ってくれるのを祈りながら見守るしかない。


と、キャンプ地が見えてきた。さすがにもうゴールドさんは帰って来てるようだ。

火がついている。


「いやー遅くなってごめんねゴールドさ……。」


「やほ~♪お帰り~もう三匹の狼ちゃーん!」


「遅かったではないか!待ちくたびれたぞ!」


「おかえり~カウちゃーん!スズネちゃーん!ぼっちゃーん!ささ、おにくやけてるわよ~!」


なんか白髪の男と角生えた男が増えてる……!?

しかも肉食ってる!?

んで近づいて来たゴールドさん酒臭!?

この人お酒飲んでる!?

どっから持ってきた!?


「え、え~と、どちら様で……?」


「なんかまおうぐんのひとらしいよ~?それいがいはきいてな~い。」


だめだコイツ、もう出来上がってる……!


すると、思い付いたかのように白髪の男が、こちらを向いて立ち上がる。


「あ~!そういえば詳しい自己紹介はまだだったよね~!俺は、魔王軍の魔の災禍パンドラの二柱の内の一柱!ゼルト・ヴァーン・ディザスターだよん!気軽にゼルトって呼んで良いよ!」


「そして我が、魔王軍スカウトマンの一人を担っている。マリス・クリーガーだ。よろしく頼む。」


……………うわぁ……なんかやばそうな人達来たぁ……。


「そ、それで一体何しにここに……?」


「お前らを、魔王軍に勧誘しに来た。これは魔王様自らのご意向だ。」


「うぇ!?勧誘……!?」


「なんだか全然状況が掴めないのは私だけでしょうか……?」


「それはたぶんスズネさんが正しいです……。」


さっきまでびくびくしてたぼっちゃんも、今では呆然としていた。


ん……?待てよ……?勧誘してきてさらには酔ったゴールドさん!?まさか……!?


「もしやゴールドさんが勝手にオーケーしてたりしませんよね!?」


「ん~?とりあえず、いいっしょ!っては……。」


「おおおおおいいいいい何やってんだぁーーーーー!!!!」


まじでなにやっとんじゃあ!

いくら酔ってるからって言って良いことと悪いことが……!


「お、落ち着くのだ!さすがにそんな返事で、我々が認めるわけなかろう!少し落ち着いて話そうではないか!」


「ふぇ……?」


半泣き状態の私を、マリスという男はなだめてくれて、順を追って説明してくれた。






まず、マリスが担っている役職<スカウトマン>は、野良である魔物や亜人種の中でも特に優秀な人材を見抜き、魔王軍に勧誘し加入させることが主な役割である。


この森には、特に特異的な魔物が発生しやすいらしいので日々見張っていたそうだ。


そこで、偶然私とゴールドさんを監視してたらしい。ぜんっぜん気づかなかった……!


ちなみに先日の巨大ゴリラは、マリスの同僚が私達をレベルアップさせようと送り込んだらしい。


早く強くなれば即戦力やろそれ戦えとかいう超スパルタ教育思考。

教育委員会があったらソッコーで訴えるレベルだわ!


まあでも、それに勝利したことで強くなった私達を見て、そろそろ勧誘を試みても良いのではないかとのこと。


強さは十分、知恵も持っていて仲間も増やす。

基本的に群れないフォレストウルフが群れ作って戦うだけでも結構な脅威らしい。

やっぱこの種族結構当たりなのでは……!


「そこでまずは、お前らのうち、一番強いと思われるそのリーダー格の狼に接触し、勧誘を試みたのだ。その狼は、冷静に仲間と話し合いたいと言い場所をこのキャンプ地に変えたのだ。ただ、そこでゼルト様が腹が減ったと言い出してな。そしたら、その金狼が肉を持ってきて焼いてくれたのだ。そこまでは良かった。だが、ゼルト様がな、肉には酒がいるだろと、自分の亜空間ボックスに収納していた酒を飲み始め、そこの金狼にも無理やり飲ませて……な。」


「ああ……それで……これ…ですか。」


「アハハハハ!ゴルちゃん分かってるねぇ!」


「あったりまえじゃないのヴァンちゃん!アタシはおおかみのりーだーだからね!」


なんかもう仲良くなってら……。

お酒の力ってすげぇなぁ……。


「なんか……お酒の力で意気投合していますね……。」


「僕お酒飲んだこと無いんだけど……?」


「ほらほら~!ぼっちゃんものみなよ~!このせかいにはほうりつなんてありゃしないぞぉ~!」


「ムグ!?ん……?うまい……けど……ねむ……い。」


ひどい大人に無理やりお酒を飲まされたぼっちゃんは、眠り上戸だったっぽくてたった一杯でぐっすりである。

良い大人も子供も誰もマネすんなよ♪


さて、話を戻すか。

ゴールドさんが話し合いをしようとここにきてお酒で酔っ払ったのは分かった。

だが、酔っ払いの適当な返事とはいえ、事実上了承は得ているので強制的に魔王軍に入れやこらぁ~!

みたいなことした方が私達を簡単に魔王軍に引き込むことができる。

なぜそれをしなかったのか?


「なぜ適当とはいえ、マリスさんはゴールドさんの返事をダシにして私達を無理やり軍に引き入れなかったんですか?その方が楽でしょう?」


「敬語は良い。嫌いだからな。」


「お……おお。そうか。じゃあ、なぜ無理やり軍に引き入れなかった?その方が楽だっただろ?」


「返答としては、まずお前らの意見を聞いていなかったからだ。お前の、魔王軍に対する印象がどんなものなのか知らないが、別に我々は恐怖政治のようなことはしていないぞ。別に武力で強制したりはしない。酔いつぶれる前の金狼がお前らと話し合うと言っていたのだから、我はそのお前らの意見も聞きたいだけだ。とはいえ、これでは少し気が散るな……。」


さっきの酔いどれ二人は、いつの間にか寝てしまっていた。


「すまぬな、返事はまた後日聞こう。そうだな……三日後にでもまた来よう。今は、このゼルト様が叱られぬように自室で寝かせるようにしなくてはな。」


「うん、分かった。次までに考えておくよ。えっとそれじゃあ、またなマリス。」


「ああ、また会おう。」


すると、マリスとマリスに抱えられたゼルトは姿を消した。

マリスが空間魔法でも使ったのだろう。

あいつも使えるのか……!いつか教わろう!


とりあえず今日は色々ありすぎた。

いつの間にかみんな寝ている……。スズネさんもいつの間にかお酒飲まされて寝てるわ……。


私も、明日に疲労を持ち越さないように、寝ることにした。

明日のことは明日の自分へ!それじゃあ、お休み!

こうして、波乱しか無い日は、ようやく終わりを告げるのだった。


また明日から、波乱しか思い浮かばないわぁ~……。

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