第12話 アンズは案内したい
「ご主人様と一緒に遊びたい! お散歩行きたい!」
アンズが元気よく手をあげて主張してくる。
いかにもワンコらしい提案だが、犬を散歩に連れていくのと人型生物と散歩に行くのはわけが違うような。
「他にやりたいことなんて思いつかないし、まあいいか」
と言って承知するとアンズはぴょんぴょん跳び跳ねた。
「やった! お散歩!」
このアパートは古くてあまり頑丈ないので不安になる。
「おい、気をつけろよ。住めなくなっちゃうだろ」
床に穴が開いたと仮定して、もう誰も修繕できる人がいない世界になんだ。
「安心しろ。ワシがいるかぎり対応できる」
とミヤコが誇らしげに言う。
「座敷童ってマジで最強じゃないか?」
できないことがあってもそんなのご愛敬でしかなさそうだ。
「ま、ひとまず散歩にでも行ってみるか」
あやかしの国とやらにはいったい何があるのか。
どんなあやかしがいるのか興味がないと言えばウソになる。
アンズたちみたいに俺に友好的なあやかしだらけだったらいいんだが。
一瞬不安になったが、危険が大きいなら誰かが止めるだろう。
アンズやココはもちろん、ミヤコも信用してよさそうだと思っている。
「わーい!」
アンズは無邪気に手を叩いて喜んでいるので他の面子に聞いてみた。
「ココとミヤコはどうする?」
「……一緒に行くわ」
「他にすることもないしのう」
ココはしぶしぶという感じで、ミヤコはやれやれという言葉が似合いそうな感じで答えた。
「ココはアンズと主人殿がふたりだけになるのが嫌なんじゃろう?」
不意にミヤコはそう言ってココをからかう。
「にゃ!?」
ココはまずはぎょっとし、次に目をグルグルにして手足をじたばたしはじめる。
「そ、そんなことないにょ! おに、あの人がどうなろうと、私には関係ないにゃ!」
ココは大きく動揺すると語尾が乱れるルールが発動してるなと感じたが、俺は沈黙を守った。
「みんなでお散歩楽しいもんね」
アンズは無邪気にニコニコしている。
「ええ、その通りね」
何だか意気込んでいるような感じでココは応じた。
姉をライバル視する妹と、それに気づかず可愛がる姉みたいな構図に見える。
どこに行こうか迷うが、どっちがどっちなのか方角が解らないな。
太陽を見ても時間がよく解らないので方向を推測できない。
ふと思いついてアンズに問いかける。
「なあアンズ、どっちが南なのか解るか?」
犬は帰巣本能があるというくらいだから、方角にだって強いんじゃないだろうかと思ったのだ。
「んんーあっちだと思う」
アンズはびしっとある方角を指さす。
「南に行きたいの?」
「ああ」
元々住んでた地域なら南にずっと進んでいけば、そのうち海か駅に出るはずだ。
あやかしの国にそんなものないだろうとは思うが、他に指標なんてない。
ひとまずやってみてそれから考えればいいのだ。
どうせ死ぬまで時間はたっぷりあるだろうからな。
この世界で病気になるかどうか気にしたほうがいいのか、それすら解らない。
ミヤコがいるならたいていの不幸は回避できそうだが。
「まあ行ってみるがいいだろう」
そのミヤコはそう言って先頭に立つ。
「あー、ミヤコちゃん、待って! アンズがご主人様を案内したい!」
アンズは叫びながら彼女を抜き去ってふり返る。
「ご主人様ー」
笑顔で手をふる姿は可愛いが追いかける気はしない。
「ゆっくり行こう」
「はーい」
俺が声をかけるとアンズは素直に隣まで戻ってきた。
「えへへ、ご主人様のお隣!」
何がそんなにうれしいのか解らないが、こんだけ喜んでもらえるなら悪い気はしない。
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