第10話 一緒に昼寝を
「現状でやることがほとんどないな。食料を探しに行く必要がないのならだが」
何もしなくても生きていけるとか最高じゃないか。
「……堕落しきってるのう、おぬし」
ミヤコには呆れられたが気にしない。
「ご主人様、一緒にねんねする?」
アンズが身を乗り出すようにして聞いてくる。
寝るのはひとりでいいとは言いにくい空気だ。
そう言えばアンズはデカくなってもかなり甘えん坊だったなぁ。
ひとりじゃないと寝られないってわけでもないのでうなずく。
「そうだな。久しぶりに一緒に寝るか」
「わーい! ご主人様と一緒!」
アンズは耳と尻尾を動かしながら飛び跳ね、全身で喜びを表す。
ここまで喜んでくれるなら受け入れてよかったなと思えてくる。
「グータラする気満々ね」
呆れたようにココが鼻を鳴らすが聞こえないふりをした。
「まぁ何もすることないじゃろうの」
ミヤコのほうは理解を示す。
「ココも一緒に寝るか?」
「え?」
聞いてみると驚いたように目を丸くしている。
「昔は一緒に寝てただろう?」
その時は犬と猫で川の字を作っていただけだが。
「よく覚えてるわね」
ココに意外そうに言われたのが心外だった。
「そりゃお前たちとの記憶だからな」
正確にはちょっと違う。
あの頃はいやなことはあまりなかったし、ココやアンズと一緒に過ごしていればたいていのことは忘れることができた。
「……ふ、ふーん」
ココは何でもないようによそおっているが、ものすごく喜んでいるのがとても解りやすい。
アンズはそれを見てニコニコしている。
俺とココが仲良く会話するのがうれしくてたまらないという様子だ。
「そういうことなら一緒に寝てあげてもいいわよ?」
フィクションのツンデレ美少女みたいな言い方がとても微笑ましい。
「おう、一緒に寝てくれ」
改めて頼むとすごく尻尾の動きがすごい。
そんなに喜んでもらえるのかとうれしくなるレベルだ。
「素直じゃないのう」
ミヤコがカラカラと笑ったが、聞こえないふりをする。
「んーと昔はアンズとご主人様とココちゃんって形で寝てたけど、それでいいの?」
アンズがこてっと首をかしげたのでうなずく。
「それでいいんじゃないのか?」
なぜならその形だと美少女ふたりにサンドイッチされるからだ。
どうせ寝るならそっちのほうが俺得だもんな。
「じゃあそうしよう」
アンズはニコニコして俺とココの手を引く。
ついついその背中に声をかけてしまう。
「アンズが昼寝に積極的なのは珍しいな。あの頃はご飯と散歩の時だけ元気だったが」
半分くらいはからかったつもりだ。
「えー、だって今はご主人様とこうしておしゃべりできるんだもん。何をするにせよ、とっても楽しいよ!」
アンズは太陽みたいな笑顔で言い切る。
その破壊力に言葉が見つからず、そっと彼女の頭を撫でた。
年頃の美少女相手だと緊張してしまうが、あのアンズが相手だと思えば平気である。
気の持ち方って大切だなとこんな形で思い知るなんてなぁ。
人生、何があるのかさっぱり読めないな。
寝室に行って敷布団の上に寝転がるが狭い。
「これはきついな」
「アンズ、おっきいからね」
「むー」
俺、ココ、アンズの順番だ。
「まあアンズが悪いわけじゃない」
とフォローする。
一人暮らし用の部屋に布団なんだから、人間大の生き物が複数寝るのはきついのだ。
「もっと広いところだったらいいんだが」
ホテルのスイートルームとかに行けば、それこそ広くて快適だろうな。
誰もいないならサービスは一切受けられないが。
「どこかに行ってみる?」
ココが寝転がって俺の胸に入り込んで上目遣いで聞く。
「どっか行くって言ってもなぁ……」
一応車の運転免許は持ってるがペーパードライバーだし、そもそも車を持ってなんかいないし、こっちにないだろう。
自分の車を買える人生を送ってみたかった。
「とりあえず寝てそれから考えよう」
俺はひとまず先送りにする。
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