第9話 アンズはちょろい

 カギを開けてミヤコたちを中に入れつつ、俺以外の人類がいなくなったのならカギをかける意味がないのではと思った。

 

 誰もいないんじゃ泥棒だっていないだろうし、そもそも金品を盗んだところで使い道がなくなったんだから。


 ストレスやしがらみから解放されて晴れ晴れとした気分になる。

 両親はすでに亡くなっているし、親しい友達や知人がいたわけでもない。


 俺が死んで悲しむ人はおそらくいなかったように、失って悲しい人たちも俺にはいなかった。


「さてこれからじゃが、どうする?」


 ミヤコは水色のビードロのような瞳を向けてくる。


「何もしなくてもいいなら寝て本でも読んでようか」


 ちょうど読みかけていた本と漫画が残っているんだ。


 もっとも俺以外の人類がいないってことは、永遠に続きが読めないのか。

 それはかなりキツイなぁ。


 俺は舌の根も乾かないレベルでさっきまでの自分の考えを否定した。

 好きな作家、クリエーターがいなくなるってメチャクチャつらい。


「ミヤコに聞きたいんだけど、本の続きを入手するってできるか?」

 

 無茶ぶりだろうなと思いつつダメで元々のつもりで問いかけてみる。


「無理じゃな」


 ミヤコは顔をしかめて答えた。


「その願いをかなえるためには死者を生き返らせる必要がある。ワシにそんな能力はない。あやかしの国に存在しているものを集めることならできるが」


「そうなんだな」


 そういうものだと言われたら納得するしかない。

 何もかも解らないことだらけなので、説明されたところで理解できない自信があるし。


「同じ理屈で食料をここに呼び寄せることはできるってことか?」


「うむ。現在存在しているものなら、消費期限とやらがすぎずに保管することもできるぞ」


 食べものをここに持ってくることができる上に、消費期限を超えて長期保存できるって最強じゃないか?


 ミヤコがいれば大丈夫ってアンズが言っていた理由がようやく解った。


「そう言えば何で食料はあるんだ? あやかしの国なんだろう?」


 問いかけるとミヤコが教えてくれる。


「あやかしの多くはニンゲンの国で過ごした経験があるからじゃな。懐かしく思って食したいと願って再現する者がおるのじゃ」


 あかやしと言っても何だか人間っぽいな。


 まあ人間の言葉が通じるし、人間と過ごした記憶も持っているなら、当時食べていたものを食べたくなったとしても不思議じゃないか。


 そこで俺はココとアンズを見た。


「こいつらは違っていたようだが」


 ミヤコはふんと鼻で笑う。


「おぬしへ遠慮しただけじゃろ。おぬしがこやつらの好物を持っていればねだっていたと思うぞ?」


 再びふたりに視線を向けるとココは当然という顔をするが、アンズは慌てて首と手をふる。


「ち、違うよ!? ご主人様に許可なく食べたりしないもん」


 アンズ、ミヤコの言葉否定できてないと思うぞ。

 声に出さなかったのは彼女に対する俺なりの思いやりだった。

 

「そうだな、アンズは偉いな」


「えへへ」


 褒めておくとうれしそうに照れる。

 ちょろいなと思ったがそこが可愛くもあった。

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