第6話 誰もいない

「なあアンズ、ココ、誰もいないんだが」


 こいつらは何か知ってると思って声をかける。


「誰もいないよ?」

 

 黙って後をついてきていたアンズはそう言った。


「だからご主人様の匂いを探すの楽だったもの」


 アンズが何を言っているのか解らない……いや、思考がマヒして理解が進まない。

 誰もいない?


「それってどういう意味だ?」


 思わず聞き返してしまう。


「私が知ってる限り、あなた以外の人間は誰もいないってことね」


 ココが残酷なくらい遠慮なくはっきりと言った。

 俺以外の人間が誰もいない。


 何もかもいやになって投げ出して引きこもっていた間にいったい何があったというんだ?


「わあーっ!」


 息を大きく叫んで力いっぱい叫んでみたが何も起こらない。

 こんなことをすれば家から人が出てきてクレームが飛んでくるだろうに。


「あーびっくりした」


「いきなり叫ばないでよ」


 驚いて耳をふさいでいるあやかしになったアンズとココがそれぞれ言ってきたが、それだけだ。


「え、何で? 誰もいないって何で?」

 

 何がどうなってるのかという疑問が脳内を埋め尽くす。

 普通に電気はついてたし、ガスも水道も通ってただろ?


 だから部屋の外がどうなってるのかってことにまったく疑問を抱かなかったんだ。


 誰もいなくなったんならライフライン系って使えなくなるんじゃないのか?


 飼っていた犬と猫があやかし化したのはまだ受け入れられたんだが、これってどういうことなんだろう?


「ご主人様」


 アンズが寄ってきてぎゅーとハグしてくれる。


「だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ」


 甘くも平坦な言葉を連続でくり返した。

 女の子らしい柔らかさとあったかさと甘い香りに少しずつ落ち着きを取り戻す。


「さんきゅ」


「えへへ」


 礼を言うとアンズは照れながら体を離した。


「解らないことだらけだが、まずは食料を探さないとな」


 他はどうだか知らないが俺が借りてる部屋に関してはライフラインは問題ない。

 つまり食べものさえ確保できたらしばらくの間は心配はいらなくなる。


「食べもの? ご主人様ってきらいな食べものって何かあった?」


「何もないよ」


 好ききらいが特にないくらいしか俺のとりえなんてない。


「じゃあ何か探そうよ」


「俺もやるよ」


 と言った。


 みんなの中で飯を食う必要があるのは俺だけなんだから、何もやらないというのもな。


「うん、一緒に頑張ろう!」

 

「私もやるの?」


 ココはそう言ったが反対はしなかった。

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