第5話 ここはあやかしの国

 人間っぽいふるまいも多少はできるようになってるが、動物の時がベースになってるんだろうか。


 あやかしなんて存在を見るのはこれか初めてだからただの推測だが。


「でもお外はうーん……」


 明るく無邪気で悩みごととは無縁そうなアンズが迷うなんていったい何事だ?

 外ではいったい何が起こっているんだ?


 ふたりを見ていると疑問と不安がわき起こってくる。


「一緒に行けばいいじゃない。アンズが一緒ならたいがいは平気でしょ」


「うん、アンズがご主人様を守るよ!」


 ココに向かってアンズが力強く言った。

 

「ちょっと待ってくれ。アンズに守られなきゃいけない状況なのか?」


 急速に不安が拡大してくる。


 アンズはたしか家畜をコヨーテやクマから守るため、ヨーロッパで愛用された超強い種だとおじさんが言ってた。


 コヨーテやクマに一対一で勝てる、あるいは撃退できるってすごい犬がいるもんなんだなと子ども心に思ったものだ。


「んー、なんて言えばいいのかわかんないや」


「どう言えばいいのか、たしかに難しいわね。言葉で通じるかしら?」


 アンズたちは困ったように首をかしげるが、すぐにアンズは表情を明るくする。


「でも大丈夫だよ。アンズとココが一緒だからね?」


 具体的な答えは何も言ってないな、こいつ。


 そう思ったけどアンズとココが来るまで何ともなかったんだし、きっと大丈夫だろうと考える。


「とりあえず行ってみるか。えーっと財布と通帳はどこに置いたっけな」

 

 外に出るのは久しぶりなので最後に置いた場所を忘れてしまった。

 十分くらい探し回ってようやく通帳と財布を見つける。


「じゃあみんなで行くか」


「うん」


 面倒だから室内着から着替えなくてもいいか。

 サンダルを履いて外に出て鍵をかけて階段を下りる。


 ……うん? 何か変だな?

 太陽の位置的に昼前だろうに、周囲に誰も人がいない。


 いつもなら誰かが通りかかったり、自転車やバイクが走っている場所なんだけどなぁ。


 水をうったような静けさってやつが不気味すぎる。


「うん?」


 よくよく見ると俺が住んでいたところじゃないぞ。

 なぜか住んでいたアパートだけが同じ外見だが、他はまったく違っている。


 たとえば近くにあったコンビニや郵便局がない。

 どこかで見たような気がするがすぐには思い出せなかった。


「……何か変じゃないか、ここ?」


 思わず言うと、


「ここはあやかしの国だから」


 アンズがそう答える。

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