第4話 ふたりは昔通り

 序列が崩れると犬は命令を聞かなくなるらしいという情報も思い出したので、何も言わないことにする。


 水を飲み終えたふたりが俺の前に座ってアンズが問いかけてきた。


「ご主人様、これからどうするの?」


「どうするかな」


 俺ひとりだけならこれからもずっと引きこもっていてもよかったんだが。


「そう言えば食材はもう残ってないよな」


 ココが作ってくれて食べた分で冷蔵庫はすっからかんになったはずだ。


「ええ。もうちょっと何とかならないの?」


 冷静さを取り戻したココがお姉さんぶった口調で言う。


「買い出しに行かなきゃか」


 面倒くさいがスーパーと銀行のATMに行くか。

 そう思っていたらふたりは奇妙な表情で俺を見る。


「何だよ?」


 明るい、あるいはクールな表情とはかけ離れていたので不気味に思って聞いた。


「ご主人様」


 意を決したようにアンズが口を開いたところで、ココが制止する。


「見たほうが早いでしょ。言っただけじゃたぶん理解できないわよ」


「でも、アンズたちは受け入れてくれたよ?」

 

 アンズはそう言って首をかしげた。

 彼女たちが何を言っているのか、理解できない。


 いや、おそらく俺には理解できないことがあるのだろうなということは、うっすらと伝わってきた。


「それは私もびっくりよね……いくら一緒に暮らしていたことがあるからって、あんなにあっさり受け入れてくれるとは思わなかった」


 ココはそんなことを言う。


「一応首輪持ってきたのに」


「首輪?」


 俺が聞き返すと彼女はポケットの中から「ココ」と書かれた赤い首輪を取り出す。

 昔母が飼って彼女に着けたやつにそっくりだった。


「あ、アンズもだよ」


 アンズもそうやって自分の名前が入った首輪を取り出してみせる。


 どっちも年季が入っていることがひと目で解るので、実際に使っていたものなんだろうな。


 彼女たちの墓に一緒に埋めたはずなんだが、彼女たちがあやかしになって人間の言葉を話してることに比べたら大したことじゃないか。


「ご主人様だからきっとアンズたちのことだってすぐに解ってくれたんだよ!」


「そうかしら?」


 笑顔で自信たっぷり言い切ったアンズに対し、ココは疑問をぶつける。


「お前ら基本的に記憶している通りの仕草をしてるからな。自覚してなさそうだが」


 俺が言うとふたりは「え、そうなの?」と同時に言った。

 やっぱり自覚してなかったか。

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