マリーと惑星ウィズエル Fractal.3

「う~ん? やっぱり、わたし専用の〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉も造っておくべきだったかなぁ? 主動力として〈LHC型エネルギー機関〉を搭載しているけど……何せ旧型だから遅いのよねぇ?」

 と、わたしこと〝マリー・ハウゼン〟は、現搭乗機のスペックに不満を覚えたのでした★

 だってね?

 正直、わたしは〈ツェレーク〉を愛機と捉えていたから〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉の必要性とか考慮していなかったもん。

 毎回〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉を要する局面では、リンちゃんとモモちゃんに御願いしていたし……。

 え?

 その〈LHC〉って、何か……って?

 つまり〈大型ハドロン衝突型加速器〉の事よ?

 正式英名は〈 Large Hadron Collider 〉で〈LHC〉というのは略称。

 要は〝量子加速実験によって高エネルギーを生み出せる〟という〈巨大粒子加速器〉の事なの。

 ただし同時に、その弊害的副産物として〈マイクロブラックホール〉を発生させる危険性も孕んでいるけどね?

 うん? そんな危険エンジン搭載していいのか……って?

 ダメだよぉ~?

 いくら銀暦ぎんれきでも危ないもの。

 だからね? コレ、違法なの。

 内緒ね★

 だってだってぇ!

 こうでもしないと〈イザーナ〉や〈ミヴィーク〉には簡単に追い付かれちゃうモン!

 ブゥ!

「あ、そうだ! バイパスを直結に簡素化したら、エネルギー抵抗値が少なくなる! そうしたら、必然的に出力が上がるもんね? あ、でも……充分な設備や工具も無いか。下手に暴走させたら〈マイクロブラックホール〉を生み出しちゃうなぁ……。うん、でも、きっと大丈夫★ わたしは〝やればできる子〟だもん ♪ 」

 閃いた妙案を実行しようとした矢先、通信システムがコールを奏でた。

 レーダー反応を見れば、後方から追って来る機影が3機。

「あ、コレ……もしかして、もう見つかっちゃった? 航行スピードから見ても間違いないかな?」

 とりあえず通信回線をオン ♪

『マリー! 見つけたわよ!』『待ってぇ、マリー!』

「えい★」

 切っちゃった★

 と、今度はパモカがブルルルル。

「ん~? 出た方がいいのかなぁ? 出た方がいいんだろうけど……絶対リンちゃんに怒られるよね? う~ん? どうしよっかなぁ? 出ようかなぁ? やめようかなぁ? まだコール鳴ってる……コレ、出るまで止まらないなぁ。あ、そうだ! アミダクジで決めよう! 紙とペン! 紙とペン……っと!」

『さっさと出なさいよ! コールしてんでしょ!』

「ひゃう!」

 ビックリしたぁ……。

 出てないのに、リンちゃんから怒られた……。

「あのぅ? もしもし?」

『もしもし……じゃないッつーの! 何無視してんのよ! 通信システム切るわ! パモカには出ないわ!』

「あの、リンちゃん? どうしてパモカをオンに出来たの?」

『こっちにはクルがいるんだかんね! 感情欠落にぬぼーっとして何考えてるか判らないわりに、スゴいんだからコイツ! マリーほどじゃなくても!』

『リンちゃん? 褒めとんの? ディスっとんの?』

「あ、そっか。クルちゃんが遠隔的にハッキングして、勝手に回線開いたってワケね?」

『マリー・ハウゼン、その通り。アナタが通信を切った直後、天条リンがブッ壊れ──ブチキレて、私にパモカIDの解析を指示した。先程さきほどのコールは、わずかな間の回線情報を引き出す事を目的としたダミー工作』

『……アンタ、いま〝ブッ壊れて〟って言い掛けたわよね?』

『言っていない』

『ってか、マリー! これまで集めた〈ネクラナミコン〉持ち出して、何処へ行こうってのよ! あの置き手紙は何だ!』

「あ、もう手紙を見つけちゃったんだ? サプライズだったのに……ぶぅ!」

『『さぷらいざっぷ?』』

 モモちゃん? クルちゃん?

 それ何?

『何よ! サプライズって!』

 あ、リンちゃんは言わないんだ?

「ん~……どうしよっかなぁ? 全部終わってから教えてあげる予定だったんだけどなぁ?」

『いいから話せーーッ!』

「ひゃう!」

 怒られた。

 リンちゃんってば沸点低いのよね……もう!

「あのね? こんなメールが来たの★」

『は? メール?』

「うん★」

『……見せてみそ?』

「は~い★」

 わたしは彼女達のパモカヘとメールを転送。

 内容文は以下──。



『おめでとうございます。

 あなたの応募番号が当選致しました。

 景品である〈ネクラナミコン〉は、こちらで引き換えの手配を進めております。

 つきましては、御手数ですが〈惑星ウィズエル〉まで受け取りに御越し頂きたく思います。

 期日までに御来訪頂けない場合は、獲得権利が他の方へ譲渡される点を御憂慮下さい。

 これは最後にして最大のチャンスです!

 尚、受け取りには身分証明として、御所有の〈ネクラナミコン〉が必要となりますので、忘れずに御持参下さい』


『…………』

「えへへ ♪  ラッキーだよね★」

『……マリー?』

「なぁに? リンちゃん?」

『応募した? 何かに?』

「ううん? ひとつも★」

『いますぐ帰って来ォォォーーーーい!』

「ひゃう!」

 ビックリしたぁ!

 いきなり大きい声出すんだもの!

 ぶぅ!

『コレ詐欺! 旧暦からある古典的な詐欺! プレゼント当選詐欺!』

「ええ~? そうかなぁ? スゴくラッキーだと思うんだけどなぁ?」

『アンラッキー! 甘ったるいラッキーデコレーションの中身は、超絶ビターなアンラッキー!』

「他の人は、そうかもだけど……わたしの場合は違うかもしれないじゃない?」

『同じ! 相手にしてみれば、よくいるカモ! 銀暦ぎんれきの才女が、格好のカモネギ!』

「それに、わたし騙されない自信があるもん★ 見抜ける自信あるもん★」

『一〇〇パー引っ掛かるヤツの共有台詞ーーーーッ!』

「だ……だけど、本当だったら一気に〈ネクラナミコン〉揃うんだよ?」

『一気に失う! 間違いなく失う! アタシ達の苦労がパーッ! これまでの小説展開がパーッッ! 作者の執筆労力がパーッッッ!』

「で……でもぉ」

『でも何だ!』

「わたしも〝見せ場〟欲しいの! 読者に『マリー、スゴイ!』『やっぱりマリー好き!』って言われたいの!」

『……トンでもない本音ぶっちゃけたわね、メタ表現で』

「人気欲しいの! ブゥ!」

『ブゥじゃない! フテんな! 二〇歳はたちの子供!』

「マリー、活躍したかったん?」

「うん★」

「…………」

『「…………」』

「…………」

『「…………………………」』

「…………」

『モモーーーーッ?』「モモモ……モモちゃん?」

 ビックリした!

 いつの間にか、わたしの隣にモモちゃんがいた!

 見つかると「えへへ ♪ 」って、ホワホワ笑顔が含羞はにかんだ。

『モモ! アンタ、どうしてそこ・・にいんのよ!』

「来たねんよ?」

『あっけらかんと「来たねんよ?」じゃないッつーのォォォーーッ!』

「あ、そっか。会話中にイザーナで接近して、あとは〈PHW〉の気密性とヘリウムブースターで取り付いて……あれ? モモちゃん? ハッチは、どうやって開けたの?」

「クルちゃんやねん。クルちゃんがウチのパモカにデジタルピッキングのデータ送ってくれたねんよ?」

『クル! アンタもグルか! この隠密作戦! アタシにも内緒で!』

『さぷらいざっぷ』

『黙れ!』

『天条リン、どうやら誤解している様子。これは隠密作戦ではなく偶発的な展開』

『はぁ?』

『アナタとマリー・ハウゼンが問答に没頭する中で〈イザーナ〉がスルスルとマリー機へ接近するのを視認した──至近状態でさきモモカが機体外へヒョコヒョコ出てくるのが見えた──ハッチの前で「マリー、開~け~て ♪ 」と何度も呼んでいたが気づかれなかった──次第に泣きそうになってきたので、可哀想だから私がピッキングデータを送付してあげた────そういう流れ』

『どういう流れだーーーーッ! このややこしい状況で小学生レベルかーーーーッ!』

さきモモカにしてみれば、中 ● くんの「磯 ● ! 野球しようぜ!」と同じ感覚』

「せやねん★」

『違うわーーーーッ!』

「モモちゃん、遊びに来たの?」

「せやねんよ? あ、せや……ほんでな、マリー? 〈ネクラナミコン〉ドコ?」

「ん? そこのコンソールだよ? 下部キャビネットに仕舞ってある」

「あ、ホンマや。コレ?」

「うん★」

「そしたら、コレ持ってくね?」

「うん、いいよ……って、ええーーッ?」

 モモちゃん、とんでもない事を言い出した!

 悪びれない自然体で!

 わたしは慌てて引き止める!

「ダメよ! ダメダメ!」

「懐かしいねぇ? それ?」

『「何が?」』

 リンちゃん共々、首をひねったわ。

「モモちゃん、やっぱりリンちゃんに味方するの? わたしをだましたの? ひどいよ!」

ちゃうよ? 半分だけ」

 半分は合ってるんだ?

「ウチ、だましてへんねん。マリーの顔を見に来てん。せやけど、いまさっき〈ネクラナミコン〉思い出したねんよ?」

 どうやら、この子特有の場当たり行動パターンだったみたい。

「モモちゃん返して! それが無かったら〈ネクラナミコン〉貰えないの!」

「貰わんでええやん?」

「どうして!」

「マリー、応募しとらんかったら貰う権利無いよ? そやのに貰ったら〝嘘〟ついた事になる。そしたら〝詐欺〟やん?」

「うッ?」

「ウチ、そんなんイヤやねん。嬉しないねん」

「ううッ?」

 年下のお母さんから、正論にたしなめられました。

「あんな? それにな? ウチ、リンちゃん大好きやねん。せやから、リンちゃん困らせたないねんよ?」

『……アンタ、これまでの章を読み返してみそ?』

 当のリンちゃんは、何か言いたそうな不満感を出しているんだけど?

「じゃあじゃあ! わたしは? わたしは、どうでもいいの?」

「そないな事あらへん! ウチ、マリー大好きや!」

「ホント?」

「せや★ マリー、ウチの〝お母さん〟や ♪ 」

 そこは〝お姉さん〟って呼んで欲しいんだけど……。

「じゃあ……わたしとリンちゃん、どっちが好き?」

「えへへ~……リンちゃん★」

 ぅわあ、ハッキリ言った。

 含羞はにかみながらハッキリ言った。

 本人を目の前にして……。

 この子、根っから〝いいこ〟なんだけど思慮力しりょりょくは大きく欠落しているのよね。

 何気に結構な問題点。

「ふぇぇぇ~~ん! ひどいよォ~~! モモちゃ~~ん!」

「はわわ? マリー、泣かんといてぇ!」

「わたしだって、モモちゃん好きなのに……モモちゃんもリンちゃんも、妹みたいに可愛く思っていたのに……順位つけられていたなんて!」

いたのマリーやん?」

 ……そうでした。

「関係無いもん! わたし、傷ついたもん! ふぇぇぇぇぇぇ~~~~ん!」

「泣かんといてぇ! そないに泣かれたら、ウチどないしていいか分からへんなる! そしたら──」

「グスッ……そしたら?」

 そうしたら「やっぱりマリーの方が大好き」って言ってくれるかな?

 ついでに「味方してあげる」とか言ってくれるかな?

 ワクワク ♪  ドキドキ ♪

「──そしたら、ウチは置いて行くしかないねんな?」

 なかなかトンデモドライな結論に着地しちゃった。

 屈託のないキョトン顔で。

 ちょっとだけ〝オモチャ売場でレジスタンスする子供〟の虚しさが分かった気もする。こうして最後は白旗上げて「ママ~! ドコォ~!」って本泣きになっちゃうワケね。

「ふぇぇぇぇぇぇ~~~~ん!」

「泣かんといてってばぁ!」

『カオスにアホな文字数を消費するなーーッ!』

 リンちゃんが意味不明に怒気どきった直後、ズンッ と大きな衝撃に機体が揺れ崩れた!

「キャ?」「ふぐぅ?」

 被弾したかのようなインパクト!

 わたしは緊迫一転に這い起きると、急いで周辺の様子をメインモニターへ映し出した!

「な……何? 宇宙塵デブリでも、ぶつかっ……て、え?」

 攻撃者の視認が、わたしを驚愕へと誘う。

 それは少女だった。

 純白の〈PHW〉をまとった少女。

 サメ型の〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉の鼻先に立つ麗姿。真空空間にもかかわらず長い銀髪を存在しない風に泳がせている。

 涼やかな蔑視べっしを、わたしの〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉へと注ぎつつ、彼女は静かな抑揚に名乗った。

「我が名は〈ニョロロトテップ〉……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る