マリーと惑星ウィズエル Fractal.2

 数時間後──。

 宙域待機する〈ツェレーク〉へ、一機いっきの〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉が収容された。

 海亀型や。

 その様子をブリッジから見届け、リンちゃんは静かに呟いた。

「……来たわね」

「せやねぇ?」

 さすがにハッちゃんには任せられへん。

 せやから、リンちゃんは〝あの人〟を呼びつけた。

 最初は渋っていたようやけど、マリー失踪の詳細を教えたら血相変えて飛び出したみたいや。

 数分後──ブリッジのオートドアが開くと同時に、目も当てられへん動揺が飛び込んで来た!

「私のGカップは何処いずこへーーーーッ!」

「再登場の第一声だいいっせいに、何を口走くちばしってんだァァァーーーーッ!」

 ハイキック入った!

 リンちゃん渾身のハイキックが、レスリー長官の顔面へクリーンヒットした!

 格闘家と見紛みまがうばかりにキレのいいのを!

 銀邦ぎんぽうトップ、現役JKに教育指導的体罰された!

「アンタ! レーティング指定やり直させる気か? あぁん?」

 倒れた長官の胸ぐらつかんで、ヤンキーばりにける大企業令嬢。

 リンちゃん、怖いよ?

「ジョ……ジョジョジョ……ジョークだよ! ウェットに富んだ軽いジョークだよ!」

「黙れ! アンタのは場末ばすえ居酒屋のスケベオヤジ猥談わいだんだ!」

 リンちゃん、何でそないな事を知っとんのん?

「とにかく……大凡おおよその事情は判った」

 長官は起き上がってえりを正した。

「つまりマリー──」どさくさまぎれの呼び捨てに、リンちゃんギロリ。「──・ハウゼン博士の消息が見つかるまで、この私に〈ツェレーク〉の運営管理を一任いちにんしたいというのだね?」

「そ。アンタは、腐った〈銀邦軍ぎんぽうぐん長官〉なんだから〈大型宇宙船スペースシップ〉の運用には慣れている」

 リンちゃん「腐った」言いはった。

 自然体で「腐っても」やなく「腐った」言いはった。

「おまけに、こんなん・・・・でも一応は〈銀邦ぎんぽうトップ〉の一角いっかくなんだから、おいそれと鷹派も〈ツェレーク〉には手出しできない──没収とかね」

「……何気にエラくディスられていなかったかね?」

「していない。真実」

 まさかのクルちゃんが割り込んだ!

「ま、そういう事で〈ツェレーク〉は、アンタ・・・に任せる。その間に、アタシ達はマリーを探し出す」

「うむ、それはいいが……手掛かりはあるのかね?」

「う~ん、そこ・・なのよねぇ……」

「天条リン。その問題点なら多少は、どうにかなるかもしれない」

「は? クル、アンタ何か知ってんの?」

「知ってはいない。ただし、いくつかは推測の糸口いとぐちとなりそうな要素が残されている」

いくつか? 例えば?」

「まず、マリー・ハウゼンは〈ネクラナミコンの欠片〉を持ち出して失踪した。ただし、彼女が持ち出したのは〈惑星レトロナ〉時点での計三個──私達が〈惑星ジェルダ〉で収集した二個は、まだコチラに有る」

「それが? ……って、そうか!」

「そういう事」

 何やリンちゃんとクルちゃんだけで納得しとった。

 ウチには、さっぱりや。

 う~ん?

 あ! せや!

「リンちゃん!」

「何よ? 急に興奮して?」

「ウチ、判ったよ! マリーの行先!」

「え? ホ……ホントッ?」

「オモチャ屋や!」

「は?」

「きっと並んでんねん! ゲーム欲しくて長蛇の列やねん! マリー、よっぽど欲しかったんや! 博士達のサイン入りゲームソフト!」

「……オイ」

「行こう! リンちゃん! ゲーム売場や! ビックラカメラかアマタ電器へレッツゴーや!」

「待てぇぇぇーーい!」

 駆け出そうとした瞬間、顔面ハリセンがスパーーン来た!

 鼻頭強打にスパーーン室内反響した!

「ふぐぅ! ぅぅ……痛いよ? リンちゃん?」

潤々うるうるして『痛いよ?』じゃないわ! この脳みそ16ビット娘! この銀暦ぎんれきで、そんなドラ ● エ世代がいるか! ネット通販で一発いっぱつだわ!」

 リンちゃん、あんまりや……。

「せやかて言うてたやん! マリー、言うてたやん! 〈ネクラナミコン〉は『博士達のサイン入りゲームソフト』って!」

「違うわッ!」「違う」

 リンちゃんとクルちゃん、二人ふたり同調シンクロに全面否定。

「ったく……いい? これまで数々の惑星へと導かれたように〈ネクラナミコン〉は〝呼びあう性質〟を宿している。そして、クルは〈ネクラナミコン〉の意思を感受できる。つまり──」

「あ! 両方の〈ネクラナミコン〉をパモカ代わりにして、マリーと通話すんねんな?」

「違うわッ!」「違う」

ちゃうの? 何で?」

「この脳みそアーパー娘は……。つまりクルを通じて、マリーが持って行った〈ネクラナミコン〉を感じる事が出来るの!」

「ふぇぇ? マリーの居場所わかるん? クルちゃん、スゴイねぇ?」

「とはいえ、私が感知できるのは漠然とした広範囲のみ。その宙域内の何処に滞在しているかまでは特定できない。そこで〈ネクラナレーダー〉の恩恵が必要となる」

「あ、な~る! 朧気おぼろげに特定した宙域へ行ったのちは〈ネクラナレーダー〉でさらに絞り込むワケだ?」

「それでも大変な捜索活動になるんやないの?」

さきモモカ、その通り。だから、マリー・ハウゼンが搭乗した〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉の性能スペックデータから、その活動可能範囲を演算で割り出す」

「ふぇぇ? そんなん可能なん?」

「別に難しい事ではない。彼女が搭乗した〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉の最高速度とエネルギー搭載総量、そして、これまでの経過時間を基礎条件に算出すれば、およその離脱範囲は絞り込める」

「せやけど、どっち・・・行ったかはわからへんやん?」

「だから〈ネクラナミコン〉だッつーの! この〝呼びあう性質〟なら、逆に方角だけ・・・・は察知できる!」

「あと〈凡庸ぼんよう宇宙航行艇コスモクルーザー〉というのはさいわいだった。総じて〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉には、単機による〈フラクタルブレーン航法〉の性能は実装されていない。つまり、少なくとも〈ツェレーク〉と同一の現次元宇宙にしか出動できない」

「よし! コマは揃ったわね! 後は──」

「うむ! ハウゼン博士が帰って来た時に備えて、隠しカメラの設置位置だね!」

「それもまた、さぷらいざっぷ!」

「……黙れ、阿呆 × 2」

 と、不意にハッちゃんが何かに気づいた。

「む?」

 注ぐ視線はかたわらの艦長席──つまりはマリー専用の座椅子シートや。

 その手前に据えられたコンソールへジッと見入っとる。

「どないしたん? ハッちゃん?」

「いや……斯様かような物が、ぞんざいに置かれていたでのう? 実際、どうでもいいアイテムではあろうが……それでも〝マリー・ハウゼンの所有物〟であるのならば、そなた達が預かった方が善いと思うが?」

 説明に取り上げた物を見て、ウチとリンちゃんの顔色がサァと変わる!

 ハッちゃんが掛けて遊んどんのメガネや!

 マリーのメガネや!

 家出したんは〝表マリー〟やなくて〝裏マリー〟の方やった!

「マリーの所在特定急いでッ! そこ! 何やってんのーーッ!」

 リンちゃん、血相変えて指示出した!

「なるほど、これ・・が『さぷらいざっぷ』という事?」

 クルちゃん、ちゃうよ?

 納得でクルコクンちゃうよ?

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