ウチと惑星テネンス Fractal.6

 ハッちゃんに導かれ、ウチらは清涼な森林を歩き続けた。

 明るい緑のトンネルに、目映い木漏れ陽が光のカーテンと織り射しとる。

 アルワスプ宮殿の、すぐ近くの森や。

 御付きの部下とかは率いとらんねん。

 そんだけ腕に自信あんのやろね? ハッちゃん?

 それにアリコちゃんもおる。

 ハッちゃんは知らへんやろうけど、ウチらもそれなりに強力やしねぇ?

「ほんでもスゴいねぇ? アリコちゃん?」

「何がです? モモカさん?」

「相当強いんやね? 生身でドクロイガーはん倒しはったんやから」

「ああ、そこは確かに驚嘆するわ。あの体躯差で、よく戦えたわよね? 相手〈巨大ロボ〉よ?」

「いえ、それは私ではありません。いくら私でも、あんな巨大ロボットなんて倒せませんよ……って、え?」

「何よ? アリコ?」

「いえ、確か〈ドクロイガー〉なんて知らないのでは?」

「…………」

「…………」

「やだぁ? うん、アタシ知らな~い★」

 そのキャラ、まだやるんッ? リンちゃん?

「何だ? その〈ドクロナンタラ〉とやらは?」と、先導役のハッちゃんが足を止めて振り向いた。

「あんな? 大きいロボットやねん。ほんでな? 何や〈宇宙の帝王〉を夢見てはるんやて」

「そーそー。そのために〈ネクラナミコン〉を集めてて……ま、ぶっちゃけ競争相手ってトコかしら」

「やっぱり知っているじゃないですか! リンさん!」

「やだぁ? 神託~~ぅ!」と、リンちゃんは人差し指フリフリ。

 何で「どんだけ~~ぇ!」みたいに言うてはるの?

「アル、まさか?」

 ハッちゃん、急に深刻な面持ちで投げ掛けはった。

「ええ、大樹神だいじゅしんさまが……」

「何よ? その〈大樹神だいじゅしんさま〉って?」

 リンちゃんの疑問に、アリコちゃんは優しく諭すような抑揚で返す。

「我々の守護神ですよ。このテネンスに……いえ、大自然にあだよこしまな者が現れし時、その巨体を奮って成敗して下さる──そうした伝説が、我々〈ジアント〉と〈アルワスプ〉の間では流布しているのです」

「へぇ? んじゃ、ソイツがドクロイガーを倒してくれたんだ?」

「せやの? ウチ、てっきりアリコちゃんが倒したと思うとった」

「ふむ?」と、クルちゃんが不可解そうにクルコクン。「おかしい? 私の知る限り、テネンスにそのような伝説は無かった」

「……あれ?」

「何? 天条リン?」

「いや、何でアンタ、そんな事まで知ってるのよ?」

「…………」

「…………」

「神託ぅー……」と、御通夜おつやテンションで指振り。

 クルちゃん、そこはテンション上げてやんねんよ?

 無感情無抑揚に御通夜おつやテンションでやると、ダダすべりするネタやねんよ?

「で、アルゴネア・リィズ・コーデス? この伝説は、いつから?」

「あ、はい。このテネンスに〈大樹神だいじゅしんさま〉が降臨されたのは、昨年からですが?」

「伝説違うじゃんッッッ!」

 リンちゃんに一票や!





 それは見事なまでに瑞々しい大樹やった。

 辿り着いたのは、樹々に囲われ拓けた清涼的な空間。

 一面は湖と広がり、一歩踏み出せばドボン確定や。水深は解らへん。木漏れ陽を湖面が反射して一帯を青い光彩に染めあげ、神聖で厳粛な雰囲気を自然に演出しとる。

 二〇メートル程度先には大きい樹が密集に生息し、そこだけ浮島みたいに孤立地帯化しとった。離れ密林や。

 嗅覚に味わうのは、あのアムリ蜜の甘さ──せやけど、濃度が半端ない。蜜坪へ溺れたか思うたわ。

「アレが〈アムリの樹〉だ」と、ハッちゃん。

 せやろうね?

 あそこから強烈に香っとるもん。

「ふ~ん? 湖のド真ん中か……。でも、アレが食材や資材なんでしょ? 飛べる〈アルワスプ〉は苦も無いとして陸棲の〈ジアント〉は、どうやって採取してんのよ?」

「基本〈アルワスプ〉からの貿易ですね。みずからで採取する場合は、ふねしかありません」

「持ちつ持たれつ……か。そりゃ両種族の共存関係は重要かもね」

「うむ、そうだ。だからといって、我々われわれ〈アルワスプ〉が独占する気など毛頭無いぞ? そのような愚行に走れば、如何いかに〈ジアント〉が困窮するかは明白。我等は同源泉種族──共存関係を維持していかねばならぬ」

「へぇ? ちっとは〈女王〉らしいトコあんじゃん?」と、リンちゃんはクスッと苦笑。

「当然であろう、リンとやら。われは〈クィーン・アルワスプ〉なるぞ? それにわれ個人としても、アルが困惑する事など……ハッ!」

「どうした? エルダニャ?」

「アルゴネア・リィズ・コーデス! おとなしくわれと結婚せよ! さもなくば、この〈アムリの森〉は我々われわれ〈アルワスプ〉が独占──」

「さっきの崇高なポリシーは何処行ったァァァーーーーッ!」

 リンちゃんから顔面ハリセンスパーーン!

 女王様の顔面へスパーーン!

 うん、せやけど今回はハッちゃんが悪いよ?

「イタタタタ……さて、どうだ? さきモモカよ? これで満足いったか?」

「連れてって?」

「は?」

「あそこ、連れてって?」

「待たぬかッ! 無垢に小首コクンと何を言い出した! 貴様は!」

「あんな? 連れてって言うたんよ?」

「……聞こえておったわ。そこをリピートせよとは言うておらん」

「ウチ、見たいねん」

「抱いて飛べというのか! 貴様を! 女王である、このわれに!」

「うん★」

「……屈託なく肯定するな」

「ええやん? ウチ、見たいねん? リンちゃん、ええよね?」

「気を付けて行くのよー?」

「ハーイ ♪ 」

「勝手にまとめるでないわ! 異邦人エイリアン共!」

 憤慨ふんがいに拒否するハッちゃんへ、軽く嘆息たんそくを吐いたアリコちゃんがずと申し出た。

「ハーチェ、迷惑は承知ですが御願い出来ませんか? どうやらモモカさん、好奇心が強いみたいなんです。何事も、こんな感じで……。出来る事なら、その純粋な好奇心を尊重してあげたいのですが……」

「んもう♡  アルってば優しいんだからぁ~♡  いいわよ! いいに決まってるじゃない ♪ 」

 ハッちゃん、腰クネクネで快諾してくれはったよ?

 アリコちゃん、ありがとね?

 えへへ ♪

「アルの御願いなら、何往復でもするわよ ♪  三回でも五回でも十回でも百回でも!」

 ……そんな見たない。

「何なら千回でも一億回でも百億回でも!」

 一気に新型拷問が完成したよッ? ハッちゃん!




 改めて間近で見ると、その圧巻な生命力に感嘆した。

「ふぇぇ~……コレが〈アムリの樹〉? スゴいねぇ?」

「当然であろう。これこそ、まさに〝樹木の王者〟よ。もなくば、我等の主要として成り立つワケが──」

「あ! アレ、一番大きいねぇ?」

「──って、聞けィ! トテテテテじゃなく!」

 ウチ、少し奥に一際ひときわ大きい樹を見つけたよ?

 胴回りが五メートルぐらいやろか?

 えへへ ♪  グルグルや ♪

 樹の周り、軽く散歩や ♪

 グ~ルグルグ~ルグル ♪

 見上げるとな?

 遥か頭上には深緑の傘が繁っとるねん。

 密集に生まれた葉っぱの雲が日光遮っとんねん。

 ほんでもグルグル回ると、重なる木漏れ日がいろんな表情を見せんねんよ?

 あ、アレや!

 色の無い万華鏡や!

 あれ?

 ずっと上のトコ、何や〝顔〟みたいになっとるねぇ?

 うん、ずっと高いトコや。

 うろが絶妙に配置されて〝埴輪ハニワがお〟みたいになっとんねん。

 自然ってスゴいねぇ?

 こういうの、たまに偶然出来るから面白いねんな ♪

 …………。

 ………………。

 …………………………。

 ま、ええわ。

 とりあえず樹の回りグルグルしてみるわ。

 えへへ ♪

 大きいねぇ?

 グ~ルグルグ~ルグル ♪

 グ~ルグルグ~ルグル ♪

 グ~ルグルグ~ルグル ……。

 グ~ ……。

 ウチ、いつの間にか傍観していたハッちゃんへ訴えた。

「あんな? ハッちゃん?」

「………………」

「……飽きた」

「で、あろうな」

 むんずと首根っこ掴まれて、ズルズルとスタート地点へと引き摺られたよ?

「樹の周りを延々と回って、何が楽しいか! 我等〈アルワスプ〉の子供とてせんわ! 斯様かような奇妙な遊び!」

 何やプリプリしてはる。

 どないしたん?




「リンちゃ~ん★ ただいま~ ♪ 」

「おー……おかえりー…………」

 パモカでイケメンドラマ鑑賞中で、顔すら上げてくれへん。

 リンちゃん、ウチ見てぇ!

「で、どーだったー?」

 なげやりや!

「あんな? つまんなかったよ?」

「……そこに直れ、さきモモカ」

 と、その時!

 突然にして大爆風が吹き荒れた!

 大振動と共に!

「ふぐぅ! な……何?」

 叩きつける風圧に抗いつつ、ウチらは視界を確保した。

 元凶は眼前の森林にそびえ立っとった。

 天を仰ぐような巨体!

 太陽の光を照り返す宇宙金属の巨躯きょく

 そして、胸に飾り吸えた大きなドクロ!

『フハハハハハハッ! 宇宙の帝王(予定)! 〈ドクロイガー〉見参!』

 あ、復活したんや?

 おめでとねぇ?

『フハハハハハハッ! 今度こそ〈ネクラナミコン〉を頂戴し………って、ああーッ? またしても出たな! イルカ娘! シャチ娘!』

 ウチ〈イルカ娘〉ちゃうよッ?

 変な愛称付けんといてぇ!

「えぇ~? アタシ、アンタなんか知らな~い……」

 露骨にウンザリゲンナリなテンションで、リンちゃんが例のキャラ設定続行。

 っていうか、そのテンションやと別キャラやよ?

「ドクロイガー、ひとつきたい」臆せずに普段通りの抑揚でたずねるクルちゃん。「どうして〈ネクラナミコンの欠片〉が此処に有ると断定した?」

『き……貴様は? そうか……さては、その〈イルカ娘sっこーズ〉の仲間となったか!』

 変なユニット名を付けられたわ。

『はっ! そして、三人揃ってアイドルデビューか! 人が〝ドクロ〟で悩んでいるというのに! そこまでして人気が欲しいか!』

 知らへんよッ?

 アイドルデビューなんて誰も言うてへんやん!

 そこまで悩んでるならドクロ取ってぇ!

「取りゃいいじゃん、ドクロ」

『……はい?』

「取れ? ドクロ?」

『………………』「「「「………………」」」」

 気まずい沈黙。

 うわぁ? リンちゃん、さらりと言いはった。

 無敵や!

『小娘! 可愛いからって調子づくな! 人生薔薇バラ色ウハウハか!』

「そうよ?」

『……はい?』

「だって、アタシ可愛いもん」

『………………』「「「「………………」」」」

 絶対的な自信に一同絶句。

 そして、リンちゃんはロングポニーをファサと鋤いた!

「可愛いなんて百も承知! アタシを誰だと思ってるの? 超絶級の美少女にして銀暦ぎんれき有数の大企業〈星河ほしかわコンツェルン〉の娘〝天条リン〟よ! 不可能なんて無いんだから!」

 無敵やッ!

 と、クルちゃんがクルコクンにうながす。

「二人共、コントもういい?」

『「コント違うわーーーーッ!」』

 リンちゃんとドクロイガーはん、仲良う抗議を吠えはった。呉越同舟ごえつどうしゅうや。

 っていうか、クルちゃんも大概やよ?

「で、何故? ドクロイガー?」

『フッ……フハハハハハハッ! その様子だと、どうやら利はワシに有るようだな! 教えてほしいか? ん? どーしよっかな~?  教えちゃおうかなぁ~?」

 嬉しそうにらしてはる。

 後ろ手に爪先蹴りや。

 ……乙女なん?

『よし、いいだろう! あわれだから特別に教えちゃおう! ワシが作りあげた〈ネクラナレーダー〉なら、その波長から所在を半径約一〇〇メートルまで特定感知する事が可能なのだ!』

「そのわりには〈ジアント〉の集落を襲った……何故?」

『当然だ! この惑星に降下した時点では完成していなかった・・・・・・・・・のだからな! だから、とりあえず「此処なら有るかなぁ~?」とな?』

 ……ただの場当たりやった。

「そ……そんな理由で、我が集落を?」

『そうだ! 山勘だ!』

 誇示したらアカン!

 それ、誇示したらアカンやつ!

「よ……よくも!」

 フルフルと怒りを噛み締めるアリコちゃん。

 ほら!

 そんなんで襲撃されたら〈ジアント〉もたまらへんよ?

 そりゃアリコちゃんかて怒るよ?

「フム?」と、クルちゃんは平静に黙考クルコクン。「つまり、無様に吹っ飛ばされて、その後に完成させた……と?」

「あ! あのズデーンと『 犬●さん』した後、復活して作りはったん? せやったら、ウチラがハッちゃんトコでお茶会しとった時やんね?」

『おおおお茶会だと! 人がコツコツ地道にレーダー作成している時に、仲良く楽しくお茶会女子会していたのか!』

「うん ♪  アムリクッキー、おいしかったよ?」

『ククククッキーだと? ワシがスイーツ好きと知りながら仲間外れか! どういう了見だ! 新しいイジメか!』

 いや、知らへんよ?

 ドクロイガーはんの嗜好とか知らへんよ?

 初耳やよ?

『ブゥ! いいもん!』

 可愛く膨れはった。

 乙女なん?

『どちらにせよ〈ネクラナレーダー〉は、コチラに有る! つまり、ワシの方にこそ利があるワケだ! 今後もザクザクホクホクとゲットしちゃ~うぞ ♪ 』

 クネッと腰をひねって、両人差し指を向けはった。

 何で「逮捕し ● ゃ~うぞ ♪ 」みたいに言うてはるん?

『どうだ? うらやましいか? うらやましいだろう? フハハハハハハッ!』

 勝ち誇るドクロイガーはん。

 それを聞いたリンちゃんは、平然とパモカを操作し始めた。

 ほんでもって、数十秒後には〈ミヴィーク〉が駆け付ける。

 淡々とコックピットに乗り込んで……。

「よこせぇぇぇえええええーーーーッ!」

『ギャアアアァァァァァーーーーッ?』

 いきなり至近距離での全砲門攻撃フルブラスト

 無敵やッッッ! リンちゃん!

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