ウチと惑星テネンス Fractal.5

「そもそも、私達〈ジアント〉と〈アルワスプ〉は、同一の源泉種族から枝分かれ進化した種族なんです」

「でしょうねぇ?」と、アムリクッキーを摘まみ食いしながら関心薄く受け入れるリンちゃん。

「リンちゃん? 何で知っとるん?」

「そりゃ、これだけ〈蜂〉と〈蟻〉を模倣トレースしてりゃ、して驚きもしないッつーの。そもそも〈蜂〉と〈蟻〉が、そうだもん。ルーツは〈蜂〉の方で、その内、陸棲に適性特化したのが〈蟻〉──進化とも退化とも取れる変質として羽根が無くなったのよ」

「ふぇぇ? 蜂さんと蟻さんって、兄弟やったん?」

「……いや〝兄弟〟じゃないッつーの」

「せやったら、アリコちゃんとハッちゃんも姉妹やん? ケンカはアカンよ?」

「イヤですよッ? こんなの・・・・と姉妹なんてッ!」

 アリコちゃん、必死になって全否定や。

 よっぽどイヤなんね?

「うむ、苦しゅうないぞ! モモカとやら!」

 ハッちゃん、とりあえず鼻血拭こうねぇ?

 ボッタンボッタン垂れてるの拭こうねぇ?

「まぁ、確かにヤダけどね? こんなの・・・・と一緒なんて」

「貴様、この〝ハーチェス・エルダナ・フォフォフォン・アルラスふぐっスォームⅣ 世〟に対して無礼なるぞ!」

「いまの『ふぐっ』て何だ! 自分の名前を噛み倒してんじゃないわよ!」

「……噛んでおらぬ」

「いや、噛んだじゃん」

「噛んでおらぬと言っている! ねー? アルー ♪  私、噛んでないよねー?」

「まあ、それはともかく──」

 ハッちゃん、黙殺されたッ!

「──それまでの両種族は、持ちつ持たれつの関係でした。ジアントが地上の恩恵を見つければアルワスプへも情報提供し、対してアルワスプも空中から発見した有益情報を我々に教えてくれた」

 冷ややかに一蹴されて、床に『の』の字を書き始めるハッちゃん。半ベソで。

 誰かフォローしたってぇ!

 女王様が体育座りでイジケてんねんよ!

「ふ~ん? つまり地上担当と空中担当で、上手に住み分けてたってワケね」

「アリコちゃんとハッちゃんも? 仲良かったん?」

「まぁ、その頃は……幼少期から一緒に遊んでいた幼馴染みですし」

「んで? それが何で犬猿になったワケ?」

「このバカのせいですッ!」

 キッと振り向き睨むアリコちゃん!

 けを受けたハッちゃんは「イヤ~ン ♡ 」と照れて……いや、ハッちゃん?

「イヤ~ン ♡ 」やあらへんねん。

 熱い視線ちゃうねん。

 ラブコールやないねん。

 遺恨を浴びせられとるねん。

 帯びとる熱さの質がちゃうねん。

「このバカが! 事もあろうに! 異種族結婚などを公言するから!」

「ファル、いひゃい……いひゃい……いひゃい……」

 ハッちゃんのほっぺたを憤慨ふんがい任せにグニグニ引っ張りはった。

 そやけど、ハッちゃん嬉しそうやからええか?

「異種族結婚って……アルワスプとジアントの?」

「そうです!」

 リンちゃんへ振り向き応えるついでに、ハッちゃんへ後頭部ビンタバチーン!

「ぎゃん! アル、痛いよ?」

 ハッちゃん! それ・・、ウチの!

「確かに異種族結婚なんて大問題ではあるけどさ……」

「いえ、そこ・・は問題ではありません。両種族共、寛容に受け入れました。私とて、そうです。そもそも両種族は同一祖先から枝分かれした種族ですし、深い信頼と共感に在った存在。特に怨嗟も不信感もありませんから。我が母〝クィーン・ジアント〟も容認ですし」

「そなの? って、うん? ちょ……ちょっと待って! 母親・・? って事は、アンタまさか?」

「……ええ」

 含羞はにかんだうれいをリンちゃんへ返すアリコちゃん。

「あ、母子家庭なん?」

「違うわぁぁぁーーッ!」

「ぎゃん!」

 ハリセンスパーンや!

 こないなツッコミパターンもあんの?

「女王が母親・・って事は〈姫〉だッつーの! コイツ!」

 リンちゃん、お姫様相手に〝コイツ〟言うてるよ?

 ビシィと顔面を指差して言うてるよ?

「まだ王位は継承していませんよ。いまは修行中の身です」

 リンちゃんの動揺に、アリコちゃんはクスッと肩をすくめた。

「せやけど〈戦士〉言うてたやん?」

「ええ、まだ修行中の身ですから」

 またまた優しい微笑。

 うん?

 どういう意味やろ?

 と、おもむろにクルちゃんが理解を示す。

「成程。つまり、王位を継ぐまでは武者修行中の身という事……」

「「そっち・・・ーーーーッ?」」

 さすがにリンちゃんと一緒に突っ込んだわ!

「普通は『花嫁修業』とかちゃうの?」

「そうよ! あるいは『政治学』とか『地政学』とか、百歩譲って『帝王学』だッつーの!」

「先程、ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世は言っていた──『実力にて〈アルワスプ〉の頂点に君臨する者』と……。身体能力や戦闘技能に長けた者が実力誇示にてヒエラルキーで優遇される生態系は、自然界でも定石の事象。だとすれば、種族の頂点たる王位継承者が戦闘技能を要求されても不思議ではない」

「うむ、その通りだ」

 クルちゃんの解説を追い風に、揚々と自己顕示をしだすハッちゃん。

 立ち直り早いねぇ?

「我が〈アルワスプ〉と〈ジアント〉の長は、代々種族随一の戦闘技能が要求されてきた。ゆえに現世代で最強なのは、この私〝ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世〟とアルなのだ」

「ふぇぇ? ハッちゃん、スゴいねぇ?」

「フッ……モモカとやら、苦しゅうないぞ」

「今度は噛めずに言えたやん?」

「かかか噛んでおらぬ!」

「噛んだよ? さっき?」

「黙れ! 無礼な! われを誰だと思っている! われこそは〝ハーチェス・エルダニャッ!」

「「「「…………」」」」

「……………………………………」

 悄々しおしおと顔を背けはった。

 沈黙に視線が集中する中、一向にコッチ見ようとせぇへん。

 ハッちゃん、たぶん舌噛んだねぇ?

「でも、だったら別にいーじゃん? 両種族容認なら、アンタがヤキモチ妬く必要ないじゃん?」

「や……妬く?」

「そ。コイツ・・・と結婚しようと自由なんだし? 親友が離れていく寂しさは分からなくもないけどさ、ヤキモチは見苦しいだけだッつーの」

「……私です」

「は?」

「このバカが結婚相手に指名したのは、このなんです!」

「「「………………」」」

 一同、閉口や。

 気まずいヘビー情報に閉口や。

 重い沈黙が漂う中、ハッちゃんだけが「うふふふふ ♡ 」と身悶えにクネっとる。

「異種族婚なら、まだ寛容に受け入れましょう……ですが、同性婚なら話は別です! して、自分が……このバカ・・と!」

「えっと……まぁ、頑張れ? うん」

「結婚式には呼んだってな?」

「……宇宙史的に異種族結婚と同性結婚の兼任は前例が無いけれど、アナタ達が風習起点となるかもしれない」

「全員で諦めないで下さいますッ?」

 ゴメン、アリコちゃん……。

 ウチら、どないに処理してええか分からへんねん。

 そこまで器用やあらへんねん。

「ねぇ? エルダニャ?」

「エルダニャ言うな! リンとやら!」

「アンタの真意は何よ? どうしてアリコと結婚なワケ?」

「そ……それは……」

 全員の好奇心が注がれる中、恥じらい赤面にくねりつつ、床に『も』の字を書き始めた。

 何で『も』なん?

「私が〈女王〉の座に就いてから、アルってば全然会ってくれないんですもん……そうでなくても、成長してからは会う機会も少なくなってきたのに……こんなんじゃ、二人が〈女王〉になったら全然会えなくなるじゃない…………」

「当然です! 子供の頃とは違います! して〈女王〉の座に就けば、双方責務に追われるのは明白でしょう! それをいまから何を甘ったれた事を言っているのです!」

「だから~……いっそ結婚しちゃえば万事解決なんだってば。両種族の政治も一括で処理できるし、私もアルも一緒にいれるし ♪  ね? ウィンウィン ♪ 」

「何がウィンウィンですか!」

「だってぇ、私はアルといっぱい一緒にいたいものぉ……」

 ハッちゃん、今度は『へ』の字を書き始めた。

 ……『へのへのもへじ』?

 もしかして『へのへのもへじ』を大量増産してはるの?

「なるほど……ね。とりあえず事情は解ったわ」と、リンちゃんは一先ひとまず納得。「要するに、エルダニャは百合気質って事か」

「リンさん、何とか言ってやって下さい!」

「……ねぇ、アリコ?」

 真剣な真顔を向けるリンちゃん。

「はい!」

 期待に満ちた表情を返すアリコちゃん。

「不運は、どうしようもない……時には諦めも肝心だから」

「はい?」

「頑張れ ♪  うん ♪ 」

 リンちゃん、にっこり温顔で肩竦かたすくめはった。

「淡白に見捨てないで下さいッ!」

 あ、慌ててはる。

 必死になってはる。

「えぇ~? んな事言ったって、アタシ別に興味無いしィ? 無関係だしィ? 所詮は他人事ひとごとだしィ?」

 一転して無気力無関心。

 リンちゃん、ホンマにどうでもよくなってはるね?

「だったら何故、話題を拡張したんです!」

「ん? 単なる好奇心 ♪ 」

「リンさーーんッ?」

 アムリクッキーをポリポリ食べつつ見捨てはった。

「どちらがベースとなるにしろ、生まれてくる子孫は宇宙史初の混血体……」

 クルちゃん、何やブツブツ考え込んどるねぇ?

 ほんでもって、アリコちゃんにクルコクン。

「〈アルアント〉? 〈ジワスプ〉? どっち?」

「クルロリさん! 早々に次期種族名を模索しないでッ!」

 孤軍奮闘の逆境を悟ったアリコちゃんは、強い目力めぢからをウチへ向けた。

 何か期待されとるみたいやね?

「モ……モモカさん! 何とか言ってやって下さい!」

 何とか言えばいいん?

 う~ん……あ、せや!

「ハッちゃん? ウチ、思うたんやけど……言うてええ?」

「そうです! このバカにビシッと言ってあげて下さい! 常識を!」

「ウチ〈アムリの樹〉いうの見てみたいねん」

「モモカさーーーーんッ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る