ウチの銀暦事情 Fractal.3
太陽系第四惑星〈火星〉
直径は
円盆型の人工地盤の上に築かれた都市が機能し、それを
要するに〈宇宙ステーション〉と〈衛星コロニー〉の両性質を
名を〈マルスクラウン〉言う。
そこに呼び出されたウチとリンちゃんは、長官室へと通された。
呼び出し主である〝レスリー長官〟が、後ろ手を組んで眼下の赤い惑星を眺めとる。
要するに貫禄感の自己演出やんね? 長官?
やがて沈黙の頃合いを見定めた長官は、重々しく会話を切り出した。
「
「いいえ? 今回は、さっぱり?」と、リンちゃん。
「そりゃそうだろうね。まだ用件を言ってない」
「帰っていいわよね? 貴重なプライベートタイムを無駄にしたくないし」
リンちゃん、温顔にっこりで怒ってはるねぇ?
「まあまあまあ! 待ち給え! 軽いジョークだよ! ウェットに富んだジョークだよ!」
アメリカンスマイルで振り向くも、実は慌ててはるね?
尋常じゃない早さやったもん。
振り向く速度がシュバッて。
ともあれ平静を無理矢理取り繕った長官は、椅子を引いて腰掛けた。
「実はだね。先日、ハウゼン博士にも話したんだが……」
「そう言えば、マリーはどうしたん? 呼んどらへんの?」
「ハウゼン博士には本件の解析を引き続きしてもらい、場合によっては〈ツェレーク〉の出撃準備を……って、うん?」
ウチの返しに、怪訝そうな表情で詰まる。
「何? 長官?」
「いや、いま〝マリー〟って……」
ああ、そこやったんか。引っ掛かったのは。
「ウチら、マリーと呼び捨てにしあえる仲やもん ♪ 」
「いつの間に、そこまでッ?」
何か知らへんけど、露骨に動揺してはるし。
「キミ達がチームになって数ヵ月だよッ? たった数ヵ月で、そこまで親密になったというのかいッ?」
「ウチ、友達作り得意なんよ ♪ 」
ウチは「にへら ♪ 」と得意気に
「う……
「は?」
「長官、
「あまり大声では言えないが、こう見えても前々から狙っていてねえ……ハウゼン博士を」
ホントに『大声では言えない話』を言い出しはった。
仮にも〝
「だって、こう……ねえ? スラッキュッボンッだし」
何やエラい事
しかも、スタイル表現のジェスチャー添えて。
「……もう帰ってええの?」
ウチは無垢に小首コクン。
「待ち給え待ち給え! まだ話は終わっていないぞ?」
「っていうか、始まってもいないわよね?」
「思いっきり美人だし、性格も控え目でたおやかだ。世の男性なら憧れを抱いて当然……スラッキュッボンッだし」
「まだ続ける気ッ? このマリー煩悩!」
「長官? そのジェスチャーやめた方がええよ?」
「あわよくばキミ達をダシにして親密になろうと考えていたんだが、よもや先を越されるとは!」
「どういう了見だーーーーッ!」
間髪入れず〈パーソナルモバイルカード〉──通称〈パモカ〉──を、顔面へと投げつけるリンちゃん!
「リンちゃん! 暴力はアカン! 長官相手に暴力振るったら、下手したら
「はーなーせーーッ! モモーーッ!」
「ダ~メ~やぁぁぁ~~! ウチ、リンちゃん逮捕されたない~~!」
慌てて羽交い締めにしたけど、リンちゃんはジタバタジタバタ!
アカン! リンちゃん、興奮しとる!
「ぎぎぎ
濁々と流血
「わざわざ年頃女子を呼び出して、しみじみとセクハラ妄想を語る官僚なんて聞いた事ないッつーの!」
「ああ、そうか……そうだな。
「空笑いで誤魔化すな!」
何や会うたびに敬意とか尊敬とかが薄れていくわぁ……この
「ま、それはさて
「さて
「実は、このようなものが
長官のパーソナルタブレットから、ウチらのパモカへ映像データが添付されてきた。
この〈パモカ〉言うんは、超薄型多機能電子端末やねん。
見た目はホビーカードそのものやけど、実質は超科学の結晶や。
う~ん?
みんなに分かり易う表現するなら、スマホの超進化版やろか?
イラストスペースにも見えるんは、ディスプレイ画面や。
ディスプレイフレーム四隅のアイコンをタッチすると、様々な多機能アプリが立ち上がる仕様。
もちろんディスプレイ自体もタッチパネルやけどね。
パモカ間の通信・通話に
「まずは見たまえ、貴重な資料映像だよ」
言われたウチとリンちゃんは、各々パモカのディスプレイ画面を開く。
「うん、確かに貴重ね」
「せやね」
「そうだろう。まだ一般に流通させていない極秘映像だから、普通なら御目に掛かる事もない」
「流通していたら
「さすがにそうか……いや、
長官としては真面目な資料映像を添付してきたつもりやろうけど、ウチらのパモカには『薄着マリーのブラウス透け透け動画』が添付されてきよった。しかも、要所を拡大トリミングしたヤツ。それがユサユサ揺れとるよ?
「初めて見た時は、あまりの衝撃に
「でしょうね」
「私の人生に
「解明する気は満々なん?」
「とは言うが易し。実際は、全力で挑んでも持て余す事は明白だろう」
「ま、持て余すかもね。これだけ大きいと」
「だが! 私とて男だ! こればかりは退けん!
「……エラく本意気の覚悟やね? 長官?」
「男ってバカよね」
「コホン、そこで……だね? 是非、キミ達にも助力を願いたいのだよ。どうだね? 私と一緒に臨んではくれまいか?」
「「鬼畜変態」」
「そう、実に鬼畜変態──んん?」
奇跡的に噛み合っていた会話に、ようやく違和感を
水戸黄門の
顔面蒼白となった長官が「ははあーーッ!」とばかりに土下座した。
「ど……どうか内密に」
「それはドコに?
「どっちも! とりわけ〝マリー〟には!」
「……いま、どさくさ紛れで呼び捨てにしたでしょ。アタシらに乗っかって」
ヘコヘコと謝罪に頭下げまくる長官を流し、ウチは改めて動画再生して観た。
「それにしても、よくこんなベストアングルで撮らはりおったねぇ? 長官?」
「分かるかね? いやぁ、苦労したんだよ。気付かれずにカメラ設置するのは」
何かドエラい事を
「顔と胸とを鮮明な解像度に抑え、障害物も少なく、
「何を揚々とセクハラ犯罪行為のカミングアウトしてんだ、
リンちゃん、心底ドン引きしてはる。
「だが、此処こそが
「ウチは〝女の子〟やーーーーッ!」
今度はウチがパモカをに投げつけた!
サクッと眉間に刺さった長官が、再度流血に沈む!
「ふぇ~ん! リンちゃ~ん! ウチ、胸
「ああ、もう……よしよし」
泣きつくウチを、リンちゃんが「イイ子イイ子」と
クスン……えへへ~ ♪ 何か元気出た ♪
「まったく、どいつもこいつも……。で、極秘事項扱いの本題って何なワケ?」
ウチも後追いしてチョコンと隣に座った。
「ああ、それはだね……
「なッ?」「ふぇ~?」
ウチとリンちゃん、揃って驚嘆や!
頭か胴体か解らへん内部には何やら発光器官があって、プリズム光彩を絶え間なくグラデーションさせとる!
信じられへんのは、その大きさや!
周囲に待機しとる監視衛星と対比しても、おそらく数百メートルはある!
つまり〈ツェレーク〉とドッコイや!
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